11.大魔王
「魔王さん!」
メル様が俺を心配そうに見ている。カイトやカエデもだ。…ん? あそこでのびているのが俺だろ。いまここにいるのも俺だろ? あれ? 俺死んだの?
「違うぞ。」
後ろから声がしたので振り返った。見たこともない爺さんがいた。
「あんた誰だ?」
「わしが大魔王だよ。お前の村の近くで眠っていたんだが、お前が分魂寄せを使ったので起きてきたんだよ。まだ、お前では分魂寄せは荷が重過ぎるからな。」
「なんでだよ、ちゃんとできただろ。」
「…そうだな。だが、ちょっと違うんだよ。」
「なんだよ一体?」
「お前の魔力は他の魔族とは違っているんだよ。お前が持つ魔力の他に、わしの魔力が混じっているんだよ。」
「混じってる? …どういうこと?」
「お前が魔族になったこと自体には、わしの関わりは無い。誰が魔族になるのかは誰にもわからんし、何かの影響もない。」
「じゃあなんで、魔力が混じるんだ?」
爺さんは面白そうに笑って言った。
「お前には変わった特技があるんだ。気がついていないだろうがね。」
「変わった特技?」
「そうだ。修行を積んだ人間、魔力を持たない人間だからこそできることだと思っていたんだが、お前は無意識でそれをやっている。…修行を積んだ人間同様に、自分以外の魔力や霊力を使うことができるんだよ。」
「俺以外の魔力?」
「そうだ。お前は眠っているわしの魔力も使っていたんだよ。そしていつしか、わしの魔力を自由に自分のものにしている。わしも結構長く生きているが、そんな特技を持っているやつには初めて会った。」
ってことは、俺様は大魔王の魔力もまとめて使えるってことなのか? 大魔王+魔王?
「…そうだな。だが、元々のお前の魔力はそれほど強いものではなかったぞ。それならばお前の魔力が発現した時に、寝ているわしでも気がついたはずだからな。…だが、今は結構な強さになっている。わしの魔力を勝手に自分のものにしているからな。」
え? 俺は大魔王の魔力を盗み、…違った、勝手にいただいたってことなの?
「…今からでもお返しできます?」
「そんなことはできんよ。それに盗られたといって、わしは怒っている訳でもない。そもそも、わしの魔力が減った訳でもないんだ。魔力や霊力は最初から本人が持っている大きさ、…器の大きさと言っても良いが、それは個人によって決まっていて、普通は死ぬまで大きさが変わることはないんだ。」
爺さんは笑いながらこう付け加えた。
「だが、お前は自分以外の力も借りられるし、その力を吸収できれば魔力の器自体が大きくなるようなんだ。…だから、お前の力がどこまで大きくなるのかは、わからん。」
それってすごいことじゃないですか。…でもそんなに力があっても使い道無いしな。
「お前は本当に欲が少ないな。だからこそ、その特技を授かったのかもしれん。わしももういい歳だから、お前が継いでくれれば安心だよ。」
「継ぐって、大魔王をですか?」
「そうだ。大魔王と言っても、普段やらなきゃならんのはさっきの分魂寄せだよ。固定されている魔族を浄化して邪気を消さなきゃならんが、邪気はそのままじゃ消せないから魅入られない者が身体の内に入れて消すしかないんだ。邪気をそのままにしておくと、別の誰かに入ってどんどん大きくなってしまうかもしれんからな。」
大魔王がメル様を見て手を振った。メル様もこっちを見て手を振っている。
「メルもずいぶん大きくなった。」
「大きくって、まだ10歳くらいにしか見えませんよ。」
「わしが眠りについたころ、メルは2歳くらいの見た目じゃったからな。それに比べればずいぶん大きくなったんだよ。」
「…大魔王は何歳なんですか?」
「覚えておらんよ。長い長い時を経てきたからのう。」
なんか遠い眼してますね。
「わしが眠っている間に、ずいぶん溜まったみたいじゃな。悪いが、お前の身体を少し借りるぞ。」
「…え、え?」
「そこで見物しながら待っててくれ。」
そう言うと大魔王は、向こうですやすや寝ている俺の身体に入っていった。
「メル、大きくなったな。」
「大魔王様、お久しぶりです。」
カイトと、カエデは呆然としている。
「メル様? その方は魔王さんですよ。大魔王じゃありませんよ。」
「いいのですよ。今は大魔王様なのです。」
「ずいぶんゆっくり眠らせてもらったよ。またしばらく眠るから、片付けておこうかの。さすがに一度に全部は大変だから、4つくらいに分けてやろうか。メルや、あの辺りの固定を外しておくれ。」
「わかりました大魔王さま。」
メル様の環が強く光った。
「うぉー」「殺してやる」「壊れろ、壊れろ、壊れろ」
色んな叫び声がして、いろんな魔力がバラバラに働いている。
「さて浄化するか。はっ!」
大魔王の身体から金色の光が溢れ、固定が外された魔族の方に向かった。そして、…静かになった。ほんのわずかな白い魂が最初に現れて消えていき、その後に巨大な黒い雲のようなものが現れた。
「わしの身体じゃないから、壊れてしまうかもしれんな。まあ、治せばいいか。」
「あんた何言ってんだ。俺様の身体だぞ! 大事に扱え! …大事に扱ってください。お願いします。」
俺様は聞こえないかもしれないけど、叫ばずにはいられなかった。
「聞こえてるぞ、安心しろ。」
俺様の身体を使用中の大魔王が答えた。
「邪気を壊す。お前の身体を傷つけないようにな。」
大魔王の周りが、今度は黒くうごめく闇のようになった。邪気が吸い込まれるように近づいている。ついに、身体の周囲の闇の中に全て吸い込まれた。
大魔王が両腕を広げ、ゆっくりと上にかざした。周囲の闇がその動きに合わせて身体全体から腕に、そして最後には両手の間に固まっている。
「魔王よ、環にはこういう使い方もあるんじゃよ。よく見ておけよ。」
大魔王の身体から今度が青い光が溢れてきた。その光が身体に沿って上に向かっていく。かざした両手に沿ってもっと上に…。そして指先から離れた瞬間、青く丸い環ができていた。波のように次から次へと指先へ青い光があふれ、環はどんどん太くなっていく。…そして、ついに環から円になった。その瞬間、両手の間にあった闇の固まりが吸い込まれて消え、青い円も同時に消えた。俺様についている環も、ああなって俺様をどこかに飛ばすんだね、きっと…。
「さすがですね、大魔王さま。」
「ひさしぶりだが、うまくできたよ。魔王の身体にも影響は無いみたいだしな。」
俺の身体を俺がキョロキョロ見ている。
「これならいいだろう?」
俺の方を見ながら俺の身体から大魔王が聞いた。
「はい。ありがとうございます。」
カイトとカエデには俺の姿は見えないようで、不思議そうに俺の身体と俺が今いるところを見ている。
「残りも片付けるとするか。また眠くなってきたから、早くしないと。」
「では、あちらの固定を外します。」
「よし、やってくれ。」
大魔王とメル様はこれを繰り返し、部屋の中は俺たち以外誰もいなくなった。
「ふー、さすがに疲れたわい。そろそろ帰るぞ。」
「ありがとうございます、大魔王様。」
「礼なら魔王に言ってやってくれ。あいつがわしを起こしたんだからな。」
「魔王さんが? 魔王さんと大魔王はどういう関係なんですか?」
「おおよその事は魔王に言っておいたから、あいつに聞いてくれ。わしゃ、もう眠くてたまらんよ。じゃあな、メル。達者でな。」
「さようなら、大魔王様。」
「ああ。」
そう言うと大魔王は静かに横になった。
大魔王は俺の身体から離れると、俺の所に戻ってきた。
「ありがとうな。これでメルもしばらくは安心だろう。」
「あんなやり方は、本に書いてなかったですよ。」
「そりゃそうさ。わしにしかできないことを本に書いて、できないやつらに読ませても仕方ないだろう。」
「…書いて? あの本は大魔王が書いたんですか?」
「わし以外の誰が書くんじゃ。大体お前はわしの魔力だけじゃなくって、わしが用意しておいた家まで勝手に使っとるじゃないか。」
大魔王は苦笑している。
「え? あの家は大魔王の家なんですか?」
「そうだよ。眠りにつく前に用意しておいたんだ。ひょっとして神族が訪ねてきてもいいように本も残しておいたしな。なのに、お前ときたら勝手に使いおって。…まあ、大事に使ってくれておるからな。これからもちゃんと手入れしておいてくれ。」
「は、はい。大事に使います。」
「お前の力もわかったから、新しく本を書いておくよ。わしができる全てのことをな。お前がいずれ必要とするかもしれんしな。」
「ありがとうございます。」
大魔王は眠そうにあくびをしながら続けた。
「そうだ、もう一つ言っておいた方が良いことがあった。」
「なんです?」
「北の都を滅ぼした奴のことじゃ。あいつはここにはいなかった。」
そうですよ。だって自らと道ずれに北の都を滅ぼしたんですから。
「そう言われておるらしいな。…だが、基本的に霊力も魔力も、それの元となった者がいなくなれば効果は無くなるんだよ。力の元が無くなるのだから、当然の事だろ。」
「はあ、まあ。」
「北の都が復興できないのが魔力のせいなら、彼は生きているんだよ、どこで、どのようにしているのかはわからんがな。」
俺もそう感じていた。きっとどこかにいるのだろう。
「そいつはいずれ戻って来るかもしれん。北の都を滅ぼしたように、またどこかを破壊しようとする可能性はある。…わしが起きられれば何とかするが、魔王も準備しておけよ。」
「準備って、何をすれば?」
「新しい本に書いてあることを練習しておけばいい。ちゃんと使えるようにな。」
それなら、できます。
「わしは帰ってもう眠るよ。すっかり歳じゃな。すぐに疲れてしまう。…ああ、そうだ。わしの魔力を使ってもかまわんぞ。さっきお前の身体を使ったが、お前自身の魔力もいい状態だった。…もし悪いことに使おうとしたら、すぐに遮断するからな!」
「大丈夫ですよ。俺様にそんな大それた望みも無いですし、魔力で何とかしようとは思わないですから。」
「そうだったな。お前はわしの若い頃によく似ておるよ。…でもそうするとお前も、いや、それはわからんからな。」
「何ですか、気になりますけど。」
「いや、何でもない。では、わしは寝に帰るよ。それより早く身体に戻ってやれ、お前の弟子が心配しているぞ。」
俺の身体の方を見ると、カエデが心配そうに話しかけている。
「じゃあな、魔王。メルにわしとお前の関わりを説明しておいてくれよ。」
そう言うと大魔王の姿は消えていった。俺は自分の身体に戻るとしよう。
「師匠、大丈夫ですか、師匠。」
「大丈夫だ、カエデ。」
俺は眼を開けてカエデに微笑んだ。
「そんなに心配しなくても大丈夫だ。俺様は魔王だぞ。」
「だってさっきまでは大魔王だって言って、急におじいさんみたいな話し方になって、ものすごい魔力を発揮していたんですよ。…メル様のことをメルって呼び捨てにしてましたし。」
「それはだな、…本物の大魔王に身体を乗っ取られていたんだ。大魔王はメルよりも偉いらしいぞ。」
「そんなこと…。」
「いえ、本当ですよ。」
メル様が話し始めた。
「魔王さんはその身体から離れて、先ほどまではあちらにいました。魔王さんの身体を大魔王様が使って、この部屋にいた魔族を浄化したのです。1600年前と同じようにね。」
メル様が思い出して懐かしそうにしている。
「大魔王様は、メルが神族になるはるか前からいらっしゃいました。ずっとずっと昔からいらっしゃるのです。わからない事があると大魔王様に聞いたものです。…最近はすぐにお疲れになるとおっしゃって、お眠りになっていたのですよ。」
「そうだったんですか。」
「ところで、大魔王様と魔王さんはどのような関係なのですか?」
俺様は大魔王から聞いた話をみんなに聞かせた。
「師匠、すごいじゃないですか。」
カエデは無邪気に喜んでいる。俺は他人の力も勝手に使っているんだぞ、もちろんおれは意識してやっているわけじゃないが。
「いいのではないですか。大魔王様も了承しているのなら何の問題もありません。それにこれからも固定される魔族は出てきます。誰かに浄化してもらわないと困るのです。」
「どうして自分達でやらないのですか?」
「神族にはできないのです。神族の霊力は破壊などには使えません。もちろん、命を奪うこともできません。守ること、新たに作ることはできます。…だから、魂寄せも、浄化もできないのです。それができるのは魔族だけですから。」
カイトやカエデも真剣に聞いている。
「…あなた方、神族というのは何なんですか?」
「神族も、元は魔族です。」
「へ? 元魔族? どういうことですか。」
「私もずっと以前は人間として生まれました。14歳で魔力が発現しましたが、両親も理解がある人で、友人達にも恵まれました。私は魔力を人間のために使うことに喜びを感じ、病気や怪我の人たちを治すことで魔族としての一生を過ごしたのです。私は人間の歳でいうと800歳くらいで死にました。人間の10倍くらいだったようです。」
「魔族として死んだんですか、メル様が?」
カエデが聞いた。
「そうですよ。そして死んで魂が肉体を離れたあと、大魔王様から尋ねられたのです。『神として生まれ変わって人間を導き、道を誤った魔族を止めてもらえないか』って。私は是非やらせて欲しいとお願いしたのです。…そして、生まれ変わりを予言され、神族として再びこの世界に戻ってきたのです。」
俺たちは黙って聞いていた。
「神族として再びこの世界に戻ってくるときに、神族として使ってはならない破壊などの魔力は失われました。もし神として過ちを犯しても、失われるもののないように。」
「じゃあ、大魔王様が本当の神様?」
カエデの疑問はもっともだ。俺もそう思ったから。
「大魔王様は違うと言っていました。私もこの世界の歯車に過ぎないと。」
大魔王で歯車? じゃあ俺たちはなんなんだろう。
「この世界は、俺たちがまだ知らないことでいっぱいなんだな。おもしろいよ。」
「魔王さんは楽天的ですね。…大魔王様によく似ていますよ。」
「そういえば、別れ際に大魔王にも言われたんだよ。お前はわしの若い頃に似ているって。その後に、そうするとお前も…って。どういう意味なんだろう。」
「それは…。」
「メル様、何か知っているんですか?」
「あの、ちょっと言いにくいことですけど、いいですか?」
「もちろんいいですよ、何です。」
「大魔王様も、いろんな女性を好きになったそうなのですが、…結局誰も振り向いてはくれなかったそうです。もちろん魔力を使ったりしていませんしね。わしの青春は無かったって、よくおっしゃっていました。…そういえば。」
「そういえば、何ですか? もうかなり凹んできましたが、最後まで聞きますよ。」
「いつも範囲外だったって言っていました。自分の好みの範囲よりもずっと年上か年下からしか相手にされないって。もちろん、見た目の話ですが。」
俺様は一生懸命耐えていた。…大魔王と俺様が重なりすぎている。今の範囲外も思いっきり当たっている。っていうことは俺様は一生このままってことになるのか。夢も希望も無いじゃないか。大魔王め、余計なこと言いやがって。知らなきゃ少しはマシなのに。
「…あの、魔王さん?」
「な、何ですかメル様?」
「お顔の色が悪いですけど、大丈夫ですか?」
「何言っているんですか、大丈夫に決まってます。俺は大魔王とは違います。きっと違うはずです。」
「そうですよ、メル様。師匠にはヤヒロさんっていう方がいらっしゃるんですよ。誤解を解けばきっと戻って来てくれるはずなんです!」
カエデ、お前みんなのいる前で言うなよ。恥ずかしいじゃないか。
「そうですか、魔王さんはヤヒロさんのことを。」
「ええ。ヤヒロの誤解を解いて、まずはこの環を外して…、あれ? 環が無い。」
俺の頭上に合った環が無くなっていた。いつの間に無くなったんだ?
「あの環は南の都の神、ザウスの力で保持されていました。ヤヒロさんはザウスの力を借りて環を作ったのです。魔王さんの特技と同じですね。…だから、環を作ったものよりも大きな力が加われば環は壊れます。さっき大魔王が魔王さんの身体を使った時に、環は壊れました。壊れたのがわからないくらいの巨大な魔力でしたから。」
そうだったのか。じゃあ、俺がヤヒロに会う理由が無くなったのか。
「師匠?」
「なんだ、カエデ?」
「まさかここまで来て、環が無くなったくらいでヤヒロさんに会わずに帰るなんて言わないでしょうね?」
カ、カエデ。お前いつから魔力が使えるようになったんだ? 俺の心を読んだのか?
「魔王さん? カエデさんは心を読んだりなんかしていませんよ。私でも心を読まなくても魔王さんの顔を見てたらわかりましたよ?」
カイトも横で頷いている。…カイトにもわかっちゃったの?
「師匠、当たって砕けろですよ。男は度胸です!」
「カエデ! お前、気軽に言うな。砕けるのは俺だぞ。だいたいお前は女じゃないか。男を代弁するなよ。」
カイトがカエデの前に立って言った。
「では、私がカエデさんの代わりに。当たって砕けろです。勇気を出して気持ちを伝えなければ、相手だってわかりません。言わなくてもわかってくれる、なんていうのは甘えです! 私はそうして最高の伴侶を得ました。ちなみに4回振られて結婚して、今は5回目の振られ中ですよ!」
カイト、あの女将に4回も振られたのか。信じられんな。
「…わかった。俺、がんばるよ。」
「偉い、師匠。」
「がんばってください、魔王さん。」
「私もお祈りしています。」
…メル様のお祈りは効きそうだ。
「ところで、ヤヒロはどこにいるんですか?」
「彼女は今、東の都に向かっています。彼女の家がありますからね。」
「…そうですか。」
俺の勇気は萎んでしまった。
「何ぼんやりしてるんですか? すぐに後を追いかけなきゃ。」
「そうです、急がないと。」
「何でだよ? 別に急がなくてもいいだろ。」
「何言っているんですか、だからダメなんですよきっと。」
カエデさん、どうしたんすか? 僕ダメなんすか?
「そうですよ、急いでいくべきです。『鉄は熱い内に打て』です。」
「何でだよ、後でだっていいだろ。東の都でいいだろ。」
「…師匠、分かってます? 師匠は一度振られたんですよ。しかも、ヤヒロさんも師匠のことを好きだったらしいじゃないですか。」
な、なんでそんなことまで知ってるんだ? 俺とヤヒロしか知らないはずだろ。
「カエデ、適当なことを言うんじゃない。ヤヒロが俺のことを好きだったって、お前にはわからんだろう。」
「…あの、すみません。私がカエデさんに話しました。」
カイトがそう言った。
「カイトが? 何で?」
「魔王さん、いつも寝言で言ってましたよ。『ヤヒロー、好きだー』とか、『どうしてなんだー、お前も俺のことを好きだって言ったのにー』とか」
「うわー、お前何言ってんだ。やめろ、やめてくれ。…やめてください。」
カイトとカエデはニヤニヤ笑っている。…最悪だ。お前らがコソコソ話していたのはこれだったのか。もう開き直るしかない。
「…そうか、寝言で言っていたのか。寝ているときに嘘はつけないからな。…俺はヤヒロが好きだよ、愛している。」
「キャー。」
カエデが興味津々かつ嬉しそうに声をあげた。
「それならば早く追いかけた方がいいですよ。魔王さんの気持ちは変わらなくても、ヤヒロさんの気持ちは冷めていってしまうかもしれません。だって誤解は解けていないんですよ。」
カイトの言う事はもっともだった。
「わかった。今からヤヒロの所に行ってくる。すまないが、カイトとヤヒロはセントルで待っていてくれ。」
明らかに落胆した表情で、カイトとカエデが頷いた。きっと見たかったんだろう。だが、告白するのは俺様独りでやらせてもらう。俺と大魔王とは違うはずだ、…きっと。




