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迷惑メールは爆発音と共に

『ドォォォォォン‼︎』


「いってぇ!」


隣の部屋から伝わった無駄に大きな爆発音とともに、勇者は動きを止め、魔法の発動は途中で停止する。






うちの母はニュース見るのに音量を上げすぎだと思うのは俺だけだろうか?否、みんなそう思うに決まっている。


「チッ」


目を背けてみたが、完全に落ちた。


二ヶ月前、タンスの奥から出てきた初期のテレビゲーム。

セーブする能力がやたらと低く、衝撃にデリケートなそれを爆発音らしきニュースの音に驚いて蹴ってしまったのだ。地味に痛い。


それによって今現在、テレビは画面を停止させ、「プー」と今までバックミュージックとして流れていたものの一音を流すことで、単音のそれが男子高校生らしい乱雑な部屋をより引き立てている。


妙に甲高いその音は俺をイラつかせ、コントローラを操作しても動かない画面は俺を現実に引き戻す。

周囲に散らばる様々なゲームの攻略本、多様なジャンルのラノベ、使途不明のティッシュ……。


片付かない部屋(現実)を見て一秒程度で逃避を選択しようと画面を見直すが、データが残っている可能性はないと言って良い。


この二ヶ月間夏休みに入ってからも、ろくに遊びに行かず続けてきたゲームがイカれた。

遊びに行く友達がいないというだけで別にハマっていたわけでもないのに妙な虚無感に襲われる。

はぁ、これから何しよう……宿題?

……はまだ大丈夫だろう。


そもそもの原因は隣の部屋から流れてきたニュースの音である。

花火大会かなんかのニュースか?

彼女いない俺への当てつけか?


『昨日、7月31日……午後6時頃……爆弾が爆発し……重軽傷者合わせて……』


どこの国かもわからないニュースよりも、聞こえてきた事実ーーもう8月に入ったという事実に、宿題のことが頭をよぎり、イライラを助長する。

……が、更に恐ろしいことが思い起こされる。


研究レポート


うちの学校の伝統のような物らしく、5〜6人程度の班でテーマを決めて研究を行う。

俺たちの班のテーマは「餅が愛される理由」だったような気がする。

意味わからん。


8月1日、俺たちの班はその日に東京のなんとか大学の人に話を聞くことになっていたのだ。

もしかして、と思いスマホを開こうとして、充電が切れていることに気づく。


学校のプリントに埋もれていた充電器を今までゲーム機が繋がっていたコンセントにさす。


久し振りにスマホを開いてみれば、やはり、いつも通りの広告メールと、どうでもいい迷惑メールとも言えるようなメール、そして9時に駅に来るようにメールが入っている。


「はぁ……」


つい溜息が漏れる。これに「5日以内に10人に送らなければ〜」みたいな文章を足せば一昔前に流行った不幸のメールになるな。


「母さん!ちょっと出かけるわ」


「あらぁ、片付けは終わったのぉ?もしかしてぇデートぉ?」


「はぁ、そんななわけないだろ」


俺をリア充と一緒にするなよ。

僻みっぽいその言葉はなんとか飲み込む。

今まで相思相愛なんて小説みたいな関係になれる存在は居なかったし、これからもでき無いんだろうと最近は諦めの感情が強くなっているのだ。


母の問いかけは、まぁ不満ではあったが、片付けたか否かの質問に答えていない負い目があるから、おあいこということにしてやろう。


俺は自分の身体を遅めの朝食や、着替え、持ち物の整理のために動かしながら考える。


俺はリア充が嫌いだ。


多くの非リアと呼ばれし同士たちは同じことを思っているだろう。


リア充爆発しろ。

爆散して爆死すればいい。


突然だが証明を始めよう。

命題。リア充は爆発すべきである。


まず、俺の中で最も憎むべきリア充は「恋人を持つもの」である。

もちろん広義的な意味である「現実(リアル)が充実しているもの」としても俺が当てはまることなど天動説並にあり得ないのだが、ここでは前者をリア充として定義する。


第一に、リア充は自分勝手だ!


休日に文化祭などの仕事をしようとしても来るのは非リアばかりだ!

しかも非リアの中でも女子と少しでも交流を持ちたいとかかんがえてるような残念系だ!

しかもしかも!大体そういったところに来る女子も……はっきり言って微妙だ。


第二に、リア充は他人の人生を浪費している!


登校時、こそこそ隠れて2人で登校する奴らはまだ可愛い。いや、可愛くはないが爆発すればいい。

しかし、堂々と通学路の真ん中を並んで登校する奴らは爆散してなぜか生きてて、その後に苦しんで死ねばいい!

そもそも横に並んでラブラブしているせいで幅を取る上に、話しながら進むため進行スピードが異常に遅い!

そして彼らを抜くとなぜかクスクスと笑い声が聞こえるのだ!

非リアの何が悪い!何が面白い!

そして結果、彼らを抜きにくい俺はそういった連中のために1日5分と考えると、1年間の登校日数の内リア充に会う日数ーー控えめに見て150日で、750分。

朝の貴重な時間を実に12時間半も無駄にしているのだ!


第三に、リア充は非リアの精神を蝕む!


こんなのは周知の事実だ。

紅葉狩り、クリスマス、初詣、バレンタイン、ゴールデンウイーク、夏休み、海開き、花火大会、夏祭り……

夏は暑い上にリア充のリア充によるリア充のためだけのイベントが盛りだくさんだ。

非リアはそのポスターを見たり、存在を聞くだけで憂鬱な気分になり、結果的に日の光を避け、クーラーの効いた部屋でゲームに逃避することになる。

『大切な人と〜』みたいなポスターが貼られるのもリア充があまりにも多く、力を持っているせいだ。


よってただでさえ幸福の少ない非リアをさらに追い詰める存在であるリア充は爆発し、排除されるべき存在である……QED.


ちょうど用意も終わった。ここまでにしておこう。

一言で言えば、リア充は爆発すべきなのだ。


なんなら俺がリア充になったらーー自爆してやろう。


「レポート関連でちょっと行かなきゃいけないから行ってくるだけだよ」


「最近テロとか大変みたいだから気をつけてねぇ。いってらっしゃぁい」


さっきの爆発のニュースは日本だったのか?

テロとか起こすならちゃんとリア充を爆発させて欲しいものだ。


腑抜けた送り出しを背に受けて適当に見繕った服を着て出発する。

バックは手頃な物がなかったので不自然に大きなリュックになってしまったが、別にデートに行くわけでもないので気にしない。

もっともデートに行ったことは無いので気にしたことは無い。


靴を履き、扉の前で覚悟を決める。


あぁ、俺は吸血鬼ドラキュラになりたい。

日の光を避け、人との接触を避け、古城で連れ去ってきた美女と共に引きこもりたい。

その美女といつしか恋に落ち、ある日デートに誘われて言うんだ。


「俺は吸血鬼ドラキュラだから日の光の下には出られない」


なんて素晴らしい言い訳だろう。

ん?美女とデートなら別に良いじゃん。

美女が近くにいるのにデートに行けないなんて可哀想だな吸血鬼ドラキュラ


俺は美女とかすぐ近くにいないし幸せだなぁ……いや、それはちょっと違うか。


「春夜ぁ?まだ行かないのぉ?」


「あ、うん行くよ」


頭の中で吸血鬼ドラキュラのことを考えていたのを言い訳にスローで進んでいたのだが母親に言われて慌てて外に出てしまう。動物は上位の生命体に対して意図を介さず体が動いてしまうことがあるのだ。やはり母は強いな。


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