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非常事態を前に逃避できるのは人間の能力

一度冷静になろう。

別に俺は特殊能力を持っているわけでも、特殊な出生をしているわけでもない。

たまたま爆弾を拾うような異常事態に俺のような極普通の高校生が遭遇するわけがない。


「待てよ、それで決定するのは早いだろ。派手なことやってるテロリストなら模倣犯の一人や二人……」


俺の言葉が終わる前に視界中にクロのスマホ画面に映る一つの記事が広がる。更新時刻は1時35分。

俺たちがここに入った頃である。


『テロ組織、学生軍からの犯行予告!標的は新田区⁈』


「んで、俺たちの今までいた公園が新田中央公園。標的に合致する。と……モノホンっぽいな。警察に届けよう」


困ったらお巡りさんに尋ねるのは当然だ。


二年前の夏、「一緒にお見舞い行こうぜ!」と男のクラスメイトに入院したクラスメイトのお見舞いに誘われた時のこと。

待ち合わせ場所だったそいつの最寄り駅まで行って、そいつの家も入院したやつの部屋も知ら無いことに気付いたとき、金も携帯もない中坊にお巡りさんが電話を貸してくれたのだ。


猛暑日であったために住宅街に人はおらず、無機質な建物に囲われた灰色のジャングルで熱と湿度に蒸され、体から水分が失われていく中で、自販機を前に金もなく絶望していた俺に声を掛けてくれたあのお巡りさんは俺にとって天使である。俺にとってはあの時の交番は天使の泉。


……がっしりしたおっさんの天使もいるということだ。


まぁ、その男のクラスメイトに電話をかけたところ、「そんな覚えはない」と犯罪者の供述のような言葉で一蹴され、部屋だけ教えてもらって行った病室では「え?なんで水田くん?」みたいななんとも気まずい空気を味わったのだが、お巡りさんの優しさを伝えるためのこの話には全く全然完全に関係のない話である。


「いや、ダメよ」


「いや、いいよ。お前に選択権とかないから。これ届け無いと国家権力に刃向かう事になるから」


何故だろう、クロが今まで見たことないほど優しげな瞳でこちらを見ている。


「あなた……頭悪いのね。

だって、そんなの届けたら私たちが容疑者になるに決まっているじゃない。テロリストは学生軍を名乗っている上に一人も捕まって無いのよ?たとえ運良く私達が犯人でないと分かったとしても、国民の反感を逸らすための生贄にされるのがおちよ?あなた一人で届けに行ってその国家権力の生贄になるなら止め無いけど?」


訂正、あの瞳は優しげな目ではなく、憐れみの目。大方俺のことをアホな子とでも思っているのだろう。


言い方はウザいし、ラノベ成分が多分に含まれている考察な気もするが、俺もそういった展開の物語を読んできた者として無視できる話ではない。


しかしまぁ爆弾か。

どうしようかね。


「とりあえず一人で交番に行くってのは無しだな」


「それが一番平和的だと思うのだけど……」


すっとぼけたように悲しげに顔を俯かせるクロ。

顔立ちが整っていて、強気な印象を受ける彼女が、突然見せるそういった表情は絵になる。

絵になる程わざとらしい表情である。


「それはお前にとってだ。あとクロは平和という言葉を安易に使わないように。言葉が穢れる」


案の定、俺がそういった態度を全く意に介さずに返答すると、ドラマの撮影でも終わったような豹変ぶりで顔を上げる。

その顔に先ほどまでの物悲しく、儚げな色はない。

自らの演技に何の反応も示さなかったのが不服なのか、若干不貞たように口を尖らせている。


「まぁハルがそれを拒否するなら、何処かばれない場所で爆発させるとか、私が安全圏に行ってからハルが解除するしか無いんじゃない?

それと残念だけど、穢れるって言葉は綺麗な物が汚れる時に使う言葉よ。だから血生臭い犠牲の上になっている今の日本を平和と称す以上、私が使ったくらいでは穢れないわ。ハルも意味のよく分かっていない言葉は安易に使わないように」


平和か。確かに完全な平和ならテロとか起こんないよな。

それに巻き込まれる俺たち小市民もいないよな。


「オーケー、穢れるという言葉は訂正しよう。しかし、クロだけが助かるタイプの作戦は無しな?むしろ逆にして欲しいんだけど」


「先ほど聞いた質問の回答を得ていなかったわね。あんたちんーー」


「ついてるよ!仮にも女子なんだから言葉を考えろよ。仕方がない、男女平等な時代なんだし二人でなんとかしよう」


この件については俺が勝手にリュックを持ってきたのが原因であるので、本来責任は100パーセント俺に起因する。

あの席をとっておきながらバックの特徴を伝えていなかったクロへの責任の追及は俺がクロのバックを特定していたことを伝えてしまったのでほぼ不可能。強いて言えばクロが選んだベンチに爆弾があったということくらいである。

勝手に見つけて勝手に持ってきたのは俺なのだから、どんなに頑張っても95パーセントは俺に責任があるだろう。


それを無理やり誤魔化した。

それぞれの責任の追及をする展開に持って行かれてしまえば、俺が一人で処理することになりかね無い。

『男女平等』という表現によってあたかも俺とクロの責任も平等であるかのように誤魔化したのだ。


「まるで私が悪いような言い方なのは気に入ら無いけど、私は元々二人で処理するつもりよ?」


「どういうことだ?」


『私が悪いような〜』と言われて思惑がばれているのかと焦ったが、その後に続いた言葉に驚く。

クロに限って俺一人に任せるのが申し訳ないなんてそんな理由なはずがない。


「あ、勘違いし無いでね。別にあなたに同情してる訳でも、責任の一端を感じている訳でもないわ」


「じゃあなんだよ。もったいぶるなよ」


「簡単よ。爆弾なんて面白そうなものハルだけに任せておけないでしょ?」


これぞまさに!と言った爆弾発言をぶっ放すクロ。

その楽しそうで黒いいつもの笑顔の中に、さっき電車で一度だけ見た誰かを嘲笑うようなどこか痛々しい謎の笑みが含まれている。何なんだその顔は。


「随分と危険な思想をしてるもんだ。よかったな。日本国憲法で思想の自由が認められていて良かったな」


「あら、それならハルの18禁の思想に自由が認められていたことも感謝すべきね」


クロは謎の表情を消し、普段の、俺を罵倒するときの笑みに戻る。


18禁の思想ってなんだよ。

俺はそんなエロい方じゃ無いぞ。

俺くらいなら男子高校生の嗜みだ。


「面白そうってそれどうすんだよ」


爆弾を指差し尋ねる。

クロが係わろうがそうでなかろうが解決策が無ければ意味は無い。


「大体思いついてはいるけどちょっと調べたいところがあるわ。スマホ使うわね」


妙に律儀だな。

こっちは女子高生なんてスマホをいじりながら人と話す奴ばかりだと思っている。全く問題ない。


「どうぞ?」


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