性悪パンドラは箱を他人に開けさせる
クレープに関してはクロが珍しく、善意で施しを与えてくれたのだし、感謝くらいは伝えた方がいいだろう。
「美味かったよ。ありがとな」
「気にしないで、ハルの金だから。それとさっきから気になってたんだけど、そのリュック何?」
言われて気がついた、確かに俺の金だ。
まぁ、あそこのクレープを教えてくれたのはクロだし、それに対する感謝であるとしよう。
実態は連れて行かれて、買わされて、残飯処理をさせられたのだが、三分の一は善意だ。
逆に言えば三分の二は悪意だが、彼女においてのみ考えればかなり良心的だと言えよう。
ついでに今まで存在を忘れていたリュックまで思い出させてくれたしな。
「いや、ベンチに置いてあった荷物だったから、クロのものの可能性も無くは無いと思ってな」
「女子高生舐めてるの?そんなセンスのかけらも無いダサリュックわざわざ背負わ無いわよ」
「まぁ、そうだろうとは思ったけど、それならそれで交番に届けようと思ってな」
俺の言葉に一瞬腑抜けた顔をして、呆れたような顔に変わったかと思うと、いつもの黒い笑みを作る。
「はぁ、馬鹿ね。交番に届けたところで、三ヶ月所有者が現れなきゃ私のものになるのよ?それなら中身確認して良いものだったら先払いしてもらえば良いじゃ無い。悪いものなら捨てれば良いしね」
先払いも意味わから無いが、貰うか捨てるかの二択で、いつの間にか交番に届けるという根本さえも捻じ曲げているあたり真っ黒だ。
俺が拾ったのに「私のもの」とか言ってるし。
「理論は無茶苦茶だけど、まぁ麻薬とか入ってたらことだし中身の確認位しとくか」
冗談交じりにそう告げながら、今はクロのLLサイズのジュースが置いてあるだけで、スペースの広いテーブルにリュックを置き、中身を取り出す。
「結構重いわね。クッキーか何かかしら?」
中から出てきたのは大きめの缶。それもクッキーとかを入れるような四角い箱である。
クロが疑問を口にしながら缶を開けずに調べている。
「うまい洋菓子とか最近食ってないわ」
クロは何か気になることでもあったのか、何の気なしに放った俺のセリフに缶を調べる手を止め、こちらに目を向ける。
「落ちてたもの食べるつもりなの?あと、さっきのクレープも洋菓子だけど」
いや、お前小学校の時落ちてた俺のチョコ食ったんだろ?
「ま、あな。でもあれは納豆が入ってたし、本格的なクッキーとかって食べて無いなって」
うまい!俺超うまい!
アタックする直前でブロックをかわせるようにコースを変えるバレーボーラー並みの軌道変更だ。
「まずかった」たった一言のその言葉は今までの流れを断ち切り、努力を水泡に帰す可能性さえ孕んでいたのだ。
それを相手に掠らせることもなく、相手陣地に落としたのだ!
「あら、夏休み前に朽木さんがクラスのみんなに配ってたじゃ無い。……もしかしてもらって無い?」
あのクッキーか。そういえば夏休み前お菓子作りが趣味の女子が配ってたな。
女子らしく器用でおしとやかな子だけど、クッキーを配ってる途中に俺と目が合うことは無かったな。
あん時たまたまラノベ読み終わってクラスの様子眺めてたから、目が合ったり、俺の分のクッキー渡してくれても良かったのにな。
「多分失敗したから俺にはあげたく無かったんだよ」
「そうね。今のあなた哀れな狐に見えるわよ」
「ブドウのクッキーだったのか?」
俺はあれか?ブドウ取れなくって「あのブドウはすっぱいんだ」とか吐き捨てる狐か?
「いえ、ラフランス……その方があなたに合うわね」
「用無しってことね。でもその場合俺以外のクラスのみんなに配られたってことはみんなが用無しってことであって、つまりそれを配られてい無い俺には何かしら用があるということじゃ無いか!」
「珍しくポジティブだけど言ってて悲しくならない?そもそもチョコチップのクッキーだったわ」
「お前が言い始めたんだろう。とにかく、早く開けてくれよ」
結局テーブルの上に戻った箱に話を戻す。
全く何が入っているのか想像がつかないこの箱は俺たちにとってはパンドラの箱と同じだ。
自分でも知覚していなかった高校生の好奇心は今俺の思考をこの箱に結びつけるのだ。
そしてとうとうクロが箱に手をかける。
先程パンドラの箱と表現したこの箱を害悪の代名詞とも言えるクロが開けるのだから皮肉なものだ。
そのまま箱に封印でもされてしまえばいい。
でも、あの箱には希望も入ってたんだっけ?やれやれ、まぁそういうことならその他大勢のために俺も封印されてやろう。
近くにクロが居るだけで平々凡々な俺でさえも希望には見えるだろうし、十分だろう。
あるいは神に色々与えられても性格の良さはもらってない点、ある意味クロ=パンドラともとれるかもしれない。
「いやよ。男でしょ?ハルが開けなさいよ」
害悪であり、全てを与えられた女性にも近いクロが厄災の箱を希望である俺に押し付けるとはいい度胸だ。
比喩にパンドラの箱を使ったとはいえ、公園に落ちていただけのただのリュックに入ったただの箱だ。
迷いなく、俺は蓋をあける。
ピッピッピッピー。
4時10分だ。
箱の中の時計がさす時刻。
しかし、重要なのは全くもってそこでは無い。
回路盤などがむき出しになった黒地に赤色という何とも不吉な表示のデジタル時計の下には大きな回路盤と大量のコード。
俺にはある物体にしか見え無いが、信じられずにクロに視線で意見を求める。一瞬彼女の口角が上がっていたように見えたが、流石に気のせいだろう。
「……おそらく爆弾ね。最近ネットで見かけるのと形が酷似しているし、この時計、カウントダウンになってるわ」
再び視線を時計に戻し、しっかりと見ると、確かに数字が減っている。この時間通りに爆発するのであれば、起爆時間は6時。
今話題のテロリストの犯行時刻だ。




