第1話 誕生
確か俺は裁判の判決が出た時に服毒自殺を図って死んだはずなのだが、俺には意識がある。
周りは暗くて何も見えず、何も感じることはできないが、意識だけははっきりしていた。
「これが地獄ってやつなのか」
何も感じられず見えない状態では人間はいずれ発狂するという事を以前文献で読んだことがある。
「ま、復讐に囚われた俺にはちょうどいいだろう」
独りごちていると急に暗闇が晴れ、視界と感覚が戻ってくる。
いきなりのことで目が光に慣れておらず、薄っすらとだけ見える俺の目には満面の笑みを浮かべる強面の男と苦しそうだが笑みを浮かべている美しい女が映った。
「ほらエミリア、産まれたぞ。男の子だ。可愛い顔してるなぁ」
「えぇ、本当に可愛い顔ですね」
何を言ってるのかは理解できないが、強面の男が満面の笑みを浮かべたままこちらににじり寄ってくる。
正直恐ろしくて堪らない。考えても見てくれいきなり視界が開けたと思ったら目の前に熊もかくやという強面の男が笑顔とはいえ寄ってくるのだ。これではもはやただのホラーだ。
なんとか避けようとするが、身体が思うように動かず、芋虫のように這って逃げようとする。
「あなた、子どもが怖がってますよ。やめてあげてください」
女が微笑みながら何かを言うと男は渋々といった感じで下がっていった。
助かったと心の中で一息ついていると女がこちらに寄ってきて軽々と俺を持ち上げて抱きしめた。
(俺を軽々持ち上げるってこの人どんな腕力してんだよ!?)
俺は男で身長だって170は超えてるし身体も復讐のために鍛えてきたので女性が持ち上げることすら困難だ。
なのにこの女性はそんな俺を軽々と持ち上げた。
そのことを不気味に思いながら自分の身体を見る。
(なんだよこれ……まるで赤ん坊じゃないか)
自分の身体を見ると愕然とした。
小さい手足はまるで赤ん坊のようにふっくらと丸まっており、身体も同様の小ささだ。
呆然としていると女__たぶん母親__が心配そうな顔をこちらに向けてきたのでできる限り笑顔で見つめ返すと嬉しそうな表情を浮かべる。
(温かい)
生前の俺には両親がいなかった。
俺にも記憶はないが、幼い頃に車同士の交通事故で俺を遺して死んでいったそうだ。
幼い俺を引き取ってくれるような親族はおらず、そのまま俺は孤児院で育ち、親の温かさを知らなかった。
(異世界……かどうかは知らないが、転生したみたいだな)
微笑みながら俺を抱いている母親を見て羨ましそうに見つめる強面の男__こちらがたぶん父親__を見て母が微笑んでいた。
(こんな俺にも第二の人生をくれるんだな)
あいつを奪われたその日から復讐に身を捧げ、遂には果てたこんな俺に第二の人生を歩んでいく機会を貰えたことをいるか分からない神に感謝しながら俺は両親に向けて精一杯の笑顔を向けた。
できる限り早く更新していきたいと思います。