二話
相変わらずめちゃくちゃです。
四季は存在します!!
あと、容姿が吸血鬼なだけでまだ全く吸血鬼要素出てきてません!
これからちょくちょく出していくので、よろしくお願いします!
「んっ!! ぐぐっ! ふん!! ぬぅ~!!」
「……」
ハロー、エブリワン。
あの後俺は少女に近づいてきたはいいものの、彼女、全然気がづいてくれないんです。
なんかすげえ水球に集中してるから声かけづらいし……。
ちなみに彼女の容姿だが、肌は褐色だ。 褐色ってことは魔族の中で最も人口の多い、魔人族だな、大体の魔族はこの種族なのだそうだ。 髪は白髪のベリーショートでちょっとボサボサっとしてる。
目はしっかりくっきりしている焦茶色目だが……なんだか気弱そうだな。
そんでなんか腕に赤いリングつけてる。
「ぬおぉ~! ぬんぅ!! ぐぬぬ!!」
う~む。
やっぱ全然気がづいてくれんなぁ。
てかあんなに唸って何してんだよ……。 すげえ話しかけづれえよ。
でもまあ、思い返してみればこの村に産まれてから3年の間。
実は会話をしたことがある人はレリィ、セシリャ、アランの3人くらいしかいないのだ。
それに転生してからというもの、今まで外に全く出てなかったからな。
それのせいでセシリャ母さんが全く動かない俺と、注意をしないレリィにカンカンに怒ってた。
動くのがいや……じゃなくて、魔法の感覚がうまくつかめなくて、転生先の新しい家族に色々迷惑と心配かけさせたりさせたからな。
今日漸く外に出るようになったんだし、友達の一人くらい紹介してやらなきゃ可哀想だな。
よっしゃ、勇気出して声かけてみっかぁ!
「……な、なぁ」
「ぬぅ!! んぅぬぬぬ!! ぬあぁ!! ふんぅ!」
「……」
「ん!! ぐぬぬぬ!! ふおおぉ!! やぁあ!」
「おい!」
「!? あっ……!!」
俺が勇気を出して話しかけてみたものの、やはりというべきかなかなか気づいてくれないので、ちょっと大声だしてみたら少女は肩をビクッ! とさせ、集中が途切れたからか両手の上にあった水球はパァン! と離散してしまった。
「あ……ご、ごめ……!!」
「っ! ひっ……うぁ……ぁ」
少女は俺を見るなり顔を恐怖にゆがませ、腰を抜かしてその場に尻餅をついた。
「……ど、どうした?」
「き……きゃあああああああああ!!」
魔法の鍛錬? を邪魔されたのがそんなに嫌だったのか? とか思ったが突然ヒステリックな悲鳴をあげたことでどうやらそういう訳ではなさそうだと、怖がらせないように声をかけながらゆっくり近づく。
「お、おい! どうした? 大丈夫か!?」
「ゃ……やだ……ち……らな……ぃ……で」
「? な、なんて――」
「――近寄らないでぇえええ!!」
少女は一際大きな悲鳴をあげると、瞬時に水球を出して俺に投げつけてきた。
(な……む、無詠唱!? 本当にごく僅かの魔法使いしか使えないんじゃなかったのか!!)
俺が魔法の指南書に書いてあったことを思い出していると、水球は俺の顔面に凄まじい勢いでクリーンヒットし、その勢いで俺は仰向けに転倒した。
すると、今度は少女が転がった俺の上に馬乗りになり俺の顔面に弱弱しいパンチを何発も繰り出してきた。
「思い! 知った!? 分かったなら! これ! 以上! 私に! 構わない、で! よね!!」
どれだけ弱弱しいパンチでも何発も打たれれば、子供の体である俺に大ダメージを与えることは容易だ。
きっと今の俺の顔はボッコボコになっていることだろう。
しばらくして少し落ち着いたのか、少女は立ち上がり、大の字に転がる俺の股間に狙いを定めスゥっと足を振り上げた。
「はぁはぁ……もうこれで私のこといじめたりなんかしないでよね!!」
「ちょ……まっ、まて! 何かのまちがっぐふぇ……!?」
美しいフォームの金的を食らい、俺は何かよからぬものに目覚めそうな予感を感じながら意識を手放した。
**************
「うっ……うぅっ……っ」
俺はまだ痛む股間に色々な心配をよせながら目を覚ました。
(なんかこっちに来てからというもの、よく意識を失うなあ……)
俺は未だに痛む股間に顔を向けると、顔を上気させた。
(ハァハァ……あの衝撃……忘れられない)
俺は再びよからぬことに目覚めてしまいそうな予感がし、ハッ! となって顔をぶんぶんと振ってとりあえず現状を確認することにした。
まず目を開けて最初に視界に入ったのは知らない天井だった。
何か言い知れぬ嫌な予感を感じながらも、次に視界に入れたのは自分が寝転がっている場所。
今は夏だからかシーツのように薄い布団をかぶっていて、ベッドは少し硬めだが俺好みの寝心地のいいベッドだった。
(ふむ……誰かに拾ってもらったのかな?)
そう推測するのが妥当だろう。
そう思い辺りを見回してみると、そこにいたのは皺がたくさんの顔、白い肌、そして長く白くなってしまっている髪、手には魔法アイテムとして用いられる先端部分に煌めく石を嵌められた高そうな杖を持つ老齢の爺さんが俺に笑顔を向けていた。
「ホッホッホ、ようやく目が覚めたか」
「ぁ……え、いや……はっ?」
俺は驚いていた。
なんたってこの爺さん、どっからどう見てもごく普通な人間族だからだ。
(ここって魔族の大陸だよな……? なんでこんなところに人間族が? いや、攫われて人間族の大陸にでも連れてこられたのか……?)
北の国にある魔族、人間族、そしてドワーフが協力して築いてる中立国になら人間族や魔族、さらには獣人族や森人族がいてもなんら驚きは浮かばないのだが、俺が住んでいる魔族の大陸はただいま絶賛人間族と敵対中で、とてもじゃないが人間族が敵対するこの魔族の大陸で住まえるはずがない。
なので攫われた上で人間族の大陸に連れてこられたのかと考えたが、それなら未だにに残っている股間の痛みの説明がつかない。 人間族と魔族の大陸は中央の大陸を挟み真反対に位置しているため、魔族側からでも人間族側からでも片道で約3か月はかかる。 だがそれは海路で用いる船などが都合よく使えた時の場合で、実際にはもっと時間がかかることの方が多い。
ていうか戦争中の真ん中の大陸を横断するわけにもいかないので、もっと遠回りしないといけないから3か月よりずっと時間がかかるだろう。
(ならどういうことだ……?)
よくわからない状況に首を捻っていると爺さんに声をかけられた。
「ホッホ、驚かせてしまったかのぅ? 心配せんでもえぇ、ここはちゃんと魔族側の大陸で、場所もちゃんとお主が住んでいた村じゃよ」
だそうだ。
じゃあなんでこいつこんなところで平然と暮らしてんだよ……貴族とかに見つかったらぶっ殺されるぞ……
この村にいる人達は、魔族側の大陸の中でもみんな温厚で差別とかもしないから見つかっても驚かれるだけで何もされなそうだが……それでも大問題なはずだぞ?
「じ、爺さんは人間族だよな? なんでこんなところにいるんだ……?」
「じ……!? ホッホッホッホ……この儂を爺さん呼ぶか……。 面白い、知りたいのならば教えてやろう! この儂の若かりし頃の30年間に渡る超超カッコいい武勇伝をのぅ!」
そうして爺さんは一人で急に熱くなりその超カッコいい30年間に渡る武勇伝とやらを、俺は長い時間ぶっ通しで聞かされた。
**************
人間暦 503年。
人間族の大陸の、とある小さな領地を治める下級貴族の間に爺さんこと アルベルト・アジャラ は産まれた。
アルベルトは誕生して3歳ですぐに無詠唱魔法が使えるようになり、両親にも、領地に住まう人々にも天才だ! 神の生まれ変わりだ! などともてはやされていた。
そして5歳で村を襲ったゴブリンの群れ100体を退治し、10歳になるころには既に使える魔法の適正は 水 土 風 光 の四属性で、使える魔法の数は優に100を超えていた。
それのおかげかアルベルトの存在が王都を治める国王の目に留まり、アルベルトを10歳にして宮廷魔術師として招待した。 10歳で宮廷魔術師に招待、これは前代未聞であったらしい。
そうしてアルベルトは10歳にして王都の宮廷魔術師に就くことになるが、それに対し、現宮廷魔術師や、一部の発言力の高い貴族などが信じられないと猛反対した。
だが、アジャラ領地から王都へ移動する間、盗賊の一団に襲われることもあれば、小さなドラゴンに襲われることもあったのだが、すべてアルベルト一人で撃退したことによりその実力がしぶしぶ認められたのだそうだ。
そうしてアルベルトが宮廷魔術師に就いてから更に12年の年月が流れ、アルベルトが22歳になった頃。
人間族・魔族・獣人族の人魔獣3種族間中央大陸争奪戦争が勃発する。
戦争が始まってから約3か月の間、魔族側の単独リードで人間族と獣人族は魔族に押されていたが、人間族が温存していた最強の駒であるアルベルトの参戦により、戦況が大きく動くことになる。
「アルベルト様、いかがいたしましょうか」
人間族側のこの戦場において、アルベルトの次に立場の高いとある大きな部隊をまとめる隊長が戦場に到着したアルベルトにそう声をかけた。
「う~ん、そうだな、若干押されてるし、僕が最初の一発目からぶっ放してみるから、みんなに下がるように言っといてくれ」
「御意」
そう会話を交わした後、すぐに隊長は大量の兵を下がらせ、アルベルトに合図を出した。
「よし、やるか」
アルベルトは軽く呟いた後、両手にソフトボールほどの茶色い球体――土属性の魔力玉――を生成し、二つの球体を両手を拍手するようにパァン! と合わせ凝縮させた後、両手の平を思い切り地面にあてた。
「“クエイク”」
その瞬間約6万の魔族兵が立っていた大地が崩れたり盛り上がったりし、一人はその間でつぶされ、また一人は地の底に落とされたり、また別の一人は盛り上がった大地から落とされて死亡した。
人間族側はアルベルトが放った自作魔法“クエイク”だけで、魔族側6万の兵の内約2万の兵を亡き者にした。
だがその一撃はただの初手。
アルベルトは自作魔法“クエイク”に勝るとも劣らない攻撃を何度も何度も繰り出して大暴れし、更に多くの魔族の兵を亡き者にし、戦況は人間族側が優勢になっていた。
だが、魔族側にはそんな状況に黙っていられなくなったとある実力派貴族がいた。
「おい、あいつの相手を俺にさせろ。 あいつは俺じゃないと殺れないぞ? クククッ」
彼は魔族側が温存していた、魔族側において最も強力な駒であり、最後の最後で畳みかけるために使う予定だった駒だが、戦況が大きく動きそんなことも言っていられなくなったため、この戦場において最も立場の高い魔族貴族は、やむなく許可を出したのだった。
それからしばらくして、アルベルトの前に一人の青年が現れる。
「なんだお前……?」
「魔族最強だ、とだけ言っておこう」
「ほう、最強ねぇ。 ……だったら、君を倒せば僕は魔族側でも人間族側でも最強になれるってことかな?」
「はっ、悪いがそれはできないぞ」
青年の魔族はそう言って、アルベルトの目の前までまるで瞬間移動かのように瞬時に移動し、目にもとまらぬ速さで拳を突き出してアルベルトの顔面をぶん殴った。
アルベルトはあまりの速さに避けることができずに吹っ飛び、背後にあった大岩にぶつかり、アルベルトの人生のなか、一度も味わったことのない衝撃と痛み、そして死に対する恐怖がうまれた。
だが、アルベルトはその実、退屈していたのだ。
神の生まれ変わりだ、最強だ、などともてはやされてきたが、そんなものはちっとも嬉しくなかった。
アルベルトが22年間、本当に求めていたもの、それは、自分と対等に渡り合える敵という名の友だったのだ。
そして今までずっと求めてきたそれが、今目の前に現れた。
この状況を楽しまずしてどうする? 死に対する恐怖を心地よく感じながら、アルベルトはそう思った。
「……っつぅ……ハッ、ハハ、ハハハハハ!! ……こいつは楽しめそうだなぁ!!」
「……ふん、行くぞ」
そうして魔族最強の貴族と、人間族最強宮廷魔術師の戦闘が始まった。
3時間にわたる長い激戦の後、先に倒れたのは魔族最強の貴族だった。
だが、アルベルトの方も傷だらけで四つん這いになっていて、まさに満身創痍といった感じだ。
ふと周りを見てみれば、他の魔族側も人間族側もどちらの兵達もが戦いの手を止め、アルベルトと青年魔族を囲って観戦するような形になっていた。
二人の戦いが終わり、辺りが静まり返ったころ、漸く人間族がこちらの仲間の勝利なのだと理解し、歓声を上げ始めた。
「「「「「うおおおおおおおおおお!!!!」」」」
もちろん戦争が終わったわけではない。
ただの一騎当千の強い駒が二つぶつかり合っただけだ。
だが、それでもアルベルトと青年魔族の戦いは、すべての兵達を釘付けにするほどレベルが高く、美しい戦いだったと言うことなのだろう。
アルベルトがゆらゆらと立ち上がり、その腕をゆっくり掲げて、ニィっと笑い、自らの喜びをその顔に表した。
そして、人間族の兵達も「さすがアルベルト様!」 「やったぞー!」などと、皆様々な言葉で喜びを分かち合っていた。
だが。
「“風矢”」
――サクッ
辺りは再び静まり返っていた。
なぜならアルベルトの背中に、風の魔力でできた矢が刺さっていたのだから。
「な……なぜ……ガフッ」
その矢が飛んできた方向は、明らかに人間族側から向かってきたものだった。
裏切り。
アルベルトの脳裏にそんな言葉が浮かんだ。
(なぜ……? 誰がそんなことを……?)
アルベルトは振り向きざまに倒れていく。
そして確かに見た。
自分達を囲む人間族の兵達の中から、最初に会話を交わした大きな部隊の隊長である男。
いや、アルベルトの前の宮廷魔術師であった、その彼が、兵達の中から快楽に歪んだ様な顔を覗かせていた。
その顔を見た途端、アルベルトは怒りと悲しみが混じったような表情を浮かべながら力なく倒れた。
**************
その後は簡単だった。
爺さんと戦った青年の魔族が回復し、倒れた爺さんを即座に回収して、その足で魔族側の大陸へ帰って行ったそうだ。
なぜ青年の魔族が、敵であり、自分を討った相手を助けたのか。
裏切られていたことに対する同情か、一度討ちあった敵であるからか。
それは未だに爺ちゃんにも分からないらしい。
ちなみに爺さんは今90歳なんだそうだ。
そして爺ちゃんが元は人間族最強だったことにも驚きだが、俺はもう一つ衝撃の事実を知らされることになる。
「なるほどねぇ……爺ちゃんのくせに意外と壮絶なんだな。 てか、その相手の魔族の青年って結局何だったんだよ? 爺ちゃん助けた後とかそいつどうしたんだ? ん、てか俺はなんで爺ちゃんがこんな狭い村にいるのかって話だぞ? 魔族の大陸の方に連れてこられちゃったのは分かったが、なんでこの村なんだよ?」
「ホッホ、そうじゃったのう。 その魔族側の貴族であった青年じゃが……今はこの村の村長をやっているのじゃよ」
「へぇ~」
「ホッホッホ」
「ははは」
「ホホホホッ」
「うそつけ」
「ほんとじゃよ?」
「いやいや、おかしいだろ! だってそいつ当時は最強の魔族だったんだろ? しかも戦争の途中で勝手に抜け出したんだろ!? 大事な駒のはずのに! そんなとんでもないやつがこんな村作ってたら、野放しにしとくわけがないだろう! その~なんか、なんか……すごい偉い人とかが!!」
「ホッホッホ、確かにそうじゃのう。 だが奴は、儂が開発した変装の魔道具を使って姿を変えて、誰にもバレたりしないよう、家にこもって過ごしているのじゃよ」
この爺さん魔道具も作れるのか、すげえな。
俺は爺さんを少し見直した。
「はぁ? ……なに最強がニートしてんだよ……もう突っ込まねえぞ……って、ん? てかそんなこと俺みたいな子供に話してよかったのかよ?」
「ホ……?」
「……」
爺さんは笑顔で固まり、額に汗を浮かべ始めた。
「た、たたたたたた頼むでござるじゃ! 今話したことは皆には秘密にしといてくれぇええ! 頼むじゃ!! じ、じゃなければ儂が奴に殺されてしまう!!」
「お、おおおお落ち着け!! 言わないから安心しろ!! 言葉遣いが変になってるぞ!」
「ホ、ホホホホホ……儂としたことが失念しておったわい……。 ……むむ? じゃが、人間族である儂がここに住んでいるということはお主が目を覚ましたころからばれてるわけじゃし、さしてまずい状況だということは変わっとらんのう? むむ? そうじゃぞ! 儂は失念しておったわけじゃないわい! 言っても言わなくても別にまずい状況だっていう現状になんら影響はないから、脳が別に話しても大丈夫だと勝手にストッパーを外しておっただけじゃわい! そうじゃのうそうじゃのう!! さすがは天才である儂の脳じゃ! 褒めて使わせよう! 行け! 行け! アルベルトマン!」
何開き直ってんだこの爺……? まずい状況になってるところからすでにヤバいんだけどな……
って、そうだ。 俺をマゾ……いや、よからぬことに目覚めさせそうにした少女はどうしたんだろうな?
ちょっと聞いてみるか。
「なあ、爺さん。 そういえば俺って気失ってたんだよな? 俺の近くに褐色で白髪のちっちゃい女の子いなかったか? ほら、魔人族の」
「それゆけ! イケメン天才最強魔法使い! スーパーアルベル……む? はて、褐色肌の少女とな? むむ……あ、そうじゃったのぅ、リオ! こっちにくるんじゃ!」
「……」
(ん? リオって誰だ? まさか爺さんとあの少女は知り合いだったりすんのか?」
すると爺さんの背後にあった扉が開き、透き通るような白の肌で髪はベリーショートの黒色、目はしっかりくっきりしている焦茶色目の、気弱そうな人間族の少女が頭だけを覗かせた。
(おおう、ちっちゃくて可愛いな。 おじさん守ってやりたくなっちゃったぜ?)
まるで犯罪者のような事を思い浮かべながら彼女に釘付けになっていたものの、なぜ褐色肌の少女の話から、透き通るような白い肌の少女が出てきたんだ? と疑問に思い、頭をふるふると振った。
「実はこの子は儂の娘じゃ。 ホッホッホ。」
そういいながら、漸く部屋の中に入ってきたリオという名の少女の頭を爺さんはポンポンと叩いた。
「は? いやいや、俺褐色肌の少女の話をしてたんだぞ? なんでそんな正反対な爺さんの娘が出てくるんだよ。 てかあんた娘とか言う歳じゃねえだろ? 孫だろ? まさかその歳で誰かとハッスルしたのか? やるな爺さん」
「なっ、そんな訳あるかい! リオはとある魔族に捕まり、この大陸まで連れてこられ、奴隷商に売られそうになっているところを、偶然通りかかったこの儂が助けてあげたんじゃよ」
「はぁ~ん、なるほどね。 でも、だからってなんでその子が出てくるんだよ?」
「ホッホッホ、説明するより見てもらった方が早いかの」
そう言って爺さんは少女に何か合図を出すと、少女は洋服のポケットから赤色のリングを出して腕に嵌めた。
すると、少女の肌は足元から徐々に褐色になり、髪の色も白くなった後、自らの手で髪の毛をワシャワシャっとしてボサボサにして、顔を上げた
すると人間族からどこからどうみても気弱そうなただの魔人族の少女に大変身した。
「うおぉ! びっくりしたぁ……」
「そうじゃろぅ、そうじゃろぅ、これは儂の作った数ある魔道具の内でも自慢の一品なのじゃ。 腕に嵌めて、なりたい容姿を思い浮かべながら魔力を通すとそれだけで変装できるのじゃよ。 最も、まだ髪と肌の色しか変えられんがのぅ」
「へぇ~、正直爺さんが元々は人間族最強だったとか全然信じられなかったけど、やっぱ爺さんって凄い爺さんなんだな。 見直したよ」
「ホホホホ、そうじゃろうそうじゃろう、儂はお主が一生をかけてもたどり着けないような、超超超すごーーい――」
にしても、なるほどな、そういう事だったのか。
つまり、リオはこの魔族の大陸で奴隷商に売られそうになっていたところをギリギリで爺さんに助けられたが、爺さんが人間族の大陸に入る訳にも行かない。
最もさっき爺さんが作ったって言ってた魔道具を使えばなんとかなるかもしれないが、なんたって今は人間族と魔族は戦争中だからな。
魔族の大陸から人間族の大陸に向かう普通の船などとてもじゃないがないだろう。
だからって人間族であるリオが、魔族の大陸にあるこの村でそのまま暮らすわけにも行かないので、変装して同じ人間族であるこの爺さんとひっそりと暮らしてたのか。
俺は天狗になってる爺さんを放置してとりあえず彼らの事情を整理して理解した後、一番気になっていることをリオに訊ねてみた。
「なるほどね、爺さんたち人間族がこの村にひっそり暮らしている事情はわかった。 けど、問題はそのリオちゃんがなんで俺にあんなことをしたのか、だな……ま、大体予想はついているんだが……」
そうやってリオの顔を見ると、彼女は魔道具を外して元の容姿に戻った状態で、顔を俯けていた。
「リオ、自分の口でちゃんと説明して、ごめんなさいするんじゃ」
リオは、爺さんに助けを求めるようにチラチラと見ていたが、爺さんは厳しい口調でそう言った。
「ぅ……で、でも……あれは……!!」
「リオ」
「……」
うおぉ、この爺さん今すげえ迫力あるなぁ……ちなみにリオはまた俯いてしまっている。
確かに、恐らくあの件はリオの勝手な勘違いからうまれた一方的な暴力なのだろうから、十中八九リオが悪いんだろうが、なんだかちょっと可哀想になってきたな。
友達ほしいし、ちょっとフォローしてやるか。
「なあ、リオちゃん。 別に俺はもう怒ってないし、それがどんな理不尽な理由があったとしても、もう怒る気はないよ。 だから、ちゃんと訳を話してくれないか? そしてその上で俺は、君と友達になりたい」
俺はできるだけ優しい笑顔をするように尽力しながら、リオに問いかけた。
するとリオは肩を一度ピクッとさせると、バッと顔をあげて、涙目の申し訳なさに染まった顔を俺に向けながら叫ぶように訳を説明しはじめた。
「うっ……えぐっ……えっどね、わたじね……村にいる子供の中で、一人だげ女だがらってぇ……ひっ、うぅ……みんなにいじめられででぇ……ぞれでね、わだじね、君のこど見だこどながっだからぁぁぁ!! また新しい子がいじめにぎだのがと……思っでぇぇ!!」
「お、おおおおおおおおうもう分かった! 分かったから落ち着け! 泣くな!」
まさかこんなになるとはさすがに思ってなかったわ、めっちゃ反省してくれてたんだな。
情けないかもれないが、多分落ち着けって言ってる俺が一番この場で落ち着けてないと思う。
リオは堪えられなくなった涙をたくさん流しながら、俺に訳を説明した途端、その場に力なくへたり込んでしまった。
俺は無意識に体が動かしていて、気づいたらベッドから出てリオに駆け寄り、その今にも崩れそうな肩を正面から支えてあげていた。
「うっ……ううぅ……ご、ごめんなざいぃ」
リオは再び顔を上げ、嗚咽しながら俺に謝罪をした。
「うん、俺はもう大丈夫だよ。 だからもう泣かないでくれ」
「ほ、ほんどう……? じゃあ、友達になっでくれる?」
「ああ、もちろんなるさ……っていうか元々それが目的で声かけようとしたんだしな! 俺の名前はアレク。 よろしくな、リオ」
するとみるみるリオの顔は明るくなっていき、満面の笑みを俺に向けて
「うん! よろしくね、アレク!」
そうやって、うれし涙を流しながら俺の胸に飛び込んできた。
そんな俺達を、爺さんは疑念のこもった目で見つめていた。
リオは村でいじめられていたから、初めて見るアレクの顔に驚いて、またいじめられるかもしれないと思いボコボコにしちゃった感じです