プロローグ
初作品になります。
至らないところなどいっぱいあると思いますが、なにとぞよろしくお願いします
俺はある日目が覚めると、山もなければ植物の類がまったく存在しない、そんな殺風景な孤島に息のない友人と共に流れ着いていた。
(腹ぁ……減ったなぁ)
そんなことを思いながら俺はその日のことを思い返していた――
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「なあ孝浩、沖釣りしねぇ?」
俺こと八島孝浩はその友人、木村俊太朗の声を電話越しで聞いていた。
「沖釣り? 別にいいけど船とかどうすんだ?」
俺たち二人は最近、俊太郎の親父さんの誘いで釣りに行ったきり、釣りの楽しさに魅了されて二人の間のブームになっていた。
「なんか親父の知り合いの知り合いの親父の知り合いの知り合いの知り――」
「――や、ややこし! わかった! とにかくその辺は用意できてるんだな! それで、いつなんだ?」
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そうして俺は、俊太郎からの誘いを受け、人生初の沖釣りに参加することになったが、急に荒くなった波に襲われ船が横転し、気を失い目が覚めたらこの糞みたいな孤島に流れ着いていたわけだ。
ここに流れ着いて目を覚ましてからすでに三日が経ったが、俊太郎はいつまで経っても目を覚まさなかった。
十年来の親友なだけに信じたくなかったが、この島に流れ着いた時から死んでしまっていたようだ。
だが、今の俺には親友の死を悲しむ余裕さえなかった。
(腹へった……)
俺は今、我が人生の29年間の間、一度も味わったことのないようなおかしくなるほどの空腹感に襲われていた。
植物の類がない為、道具を作って海の魚を捕らえることも、火を起こすこともできず食糧を調達することができずにいた。
一度は潜って素手で魚をひっ捕らえることも考えたが、泳ぐのはあまり得意ではないし、何より体力がもちそうになかったので諦めた。
まさに手詰まりと言った状態だ。
それに眠ってしまえば二度と目が覚めなそうで怖くて眠れなかった。
(はぁ……)
俺はこの日も何もしないまま、空腹に耐えながら一夜を過ごした。
日が昇ってきて、辺りが明るくなってきた頃。
(だめだ……もう耐えられない……)
俺は無意識に足元の砂をわしづかみにし、口の中に入れようとしていた。
(ッ! ……くそっ!)
なぜだか怒りがわいてきてきて、つい手に掴んだ砂を俊太郎の亡骸に投げ捨てていた。
「あっ! ごめ…… ッ!」
申し訳ない気持ちでいっぱいになり、俊太郎の亡骸に目を向けると、そこにはおいしそうな肉がたくさんあった。
いや、理解はしていた。
その肉は牛の肉でもなければ、豚の肉でも鶏の肉でもなく、もっと言えば本来は人間が食糧としてはいけないものだった。
そう、その肉は俊太郎の――身体だ。
だがおかしくなりそうなほどの――いや、すでにおかしくなってしまっていたのかもしれないが――空腹感に見舞われ、俊太郎の亡骸はただの食糧にしか見えなかった。
「ヒッ……ヒヒヒヒヒヒ!! やっと……見つけたァ」
自分でも不気味に思うような笑い声を上げながら、近くにあった小石を拾った。
だがその瞬間、いきなり冷静になり、いくらおかしくなりそうな空腹に襲われているからといって、自分が勤め先で失敗したら一緒に頭を下げてくれたり、逆に俊太郎が失敗をしたら俺が一緒に頭を下げてあげたり、何か新しいことを始めるときは大体どちらかがどちらかを誘って一緒に楽しんできた俊太郎に対し、そいつはただの食糧だと認識していたことに罪悪感が湧き、涙が溢れてきた。
「ごめん……ごめん……でもっ!!」
でも、それでも。
俺はこの世界で特にこれといってやりたいことも、続けたいこともなく、ぶっちゃけいつ死んじゃってもまあそれはそれでいいや、と思ってはいたが、いざ死と向かい合うと、それに対する恐怖がこみあげてきていた。
死にたくない。
そう思いながら一心不乱に友人の腕に肉を削り取り、食らおうとした。
だが、急に身体全体の力が抜け操り人形の糸が切れた時のようにその場に力なく仰向けに転がった。
「がっ……あぁ……あっぐッ……!!」
(くそ! くそくそくそくそくそォ!!)
全身に力が入らない。 視界が何度も暗転する。
だが、“生きたい” その気持ちだけで腕を上げた。
(あと少し……っ!)
しかしその瞬間、視界から色が消え、息ができなくなる。
(は……ははっ……もうダメか……ククッ、あと少しで一流の魔法使いだったのにな……)
そんなくだらないことを思いながら、自嘲気味に笑い、一滴の血の雫が自分の口内に落ちると同時に、俺は意識を手放した。