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雪景色の箱舟  作者: 碧木ケンジ
17/20

十七話


車の中で指輪の入ったペンダントを俺は見ていた…


酒屋の駐車場に着いた時…

彰美ちゃんの部屋の明かりが付いていた…


優吾「今日は誘ってくれてありがとうございました。

おかげで決心も付きました…」


久一「決心か…それが何かは聞かないけど…

君はこれからどうするんだい?

野球では投手と捕手は夫婦なんだ…

君に捕手は見つかるのかい?」



優吾「最初から捕手はいました…

二人目の捕手をこれから見つけます…」


久一「二人目?そうか、二人目は佳穂じゃなかったんだな…」



優吾「佳穂は俺より大事にしてくれる人が…

きっと見つかると思います。

おやすみなさい」


久一「ああ、今日の事は二人の問題だ…

君と話せて楽しかったよ、今日の事は忘れないだろう…

またな」


優吾「はい…、また…会いましょう…」


久一さんとはもう会うこともないかもしれない…

そんな気がした…


走っていく車を見ながらそう思っていた…


東京とアメリカでは…

よほどのことが無い限り…会うこともない…


まして妹の気持ちに答えなかった男だ…

長い付き合いだったけど…


こんな形で別れてしまったのは、あっけなかった…


家に歩く短い時間で、そう思った…


バイオリンの音色がなる家に入り…

彰美ちゃんの部屋の前でノックする。



佳穂の為にも、自分の為にも、

薫や彰美ちゃん、優子さんの為にも…


俺は決めなくてはいけない…


彰美「優吾さんでしょ?」


優吾「ドア越しでいいよ、聞いてくれ」


彰美「………」


優吾「君の気持ちには答えられない。

兄としていつまでも一緒にいてほしい」


彰美「二度と泣かせないって言って…嘘つきだね」


あの頃の約束をここで破ったことを、

俺は悔やんだが…言葉を続けた。


優吾「兄としては…駄目かい?

兄として君を泣かせない…恋人にはなれないけど…」


彰美「…少し時間を下さい…」


優吾「今日佳穂に告白されたよ…」


彰美「…えっ?」


優吾「でも断った…明日優子さんに会いに行くつもりだよ」


彰美「優子さんも断って一人ですね…可哀想な人ですね」


優吾「今度は俺から…告白する。

振られるかもしれないが、みんな俺に対しても

そうやって勇気をもって告白してくれた…

俺は優子さんに告白するよ」


彰美「…薫さんに似てるからですか?手紙の事もあるからですか?」


聞いていたんだ…あの時の優子さんの告白…


優吾「理由はないんだ…

ただ初めて…いや薫の墓参りで会った時…

理屈じゃない何かを感じたから…」


彰美「なんですか、それ?わけわかりませんよ…」



優吾「人を好きになるって人それぞれだから…」


彰美「わかりました、

しばらく泣きますから部屋に戻って下さい。

泣き止んだら妹に戻りますから…」


彰美ちゃんは俺なんかより大人だった…


彰美「振られても付き合いませんからね、お兄ちゃん」


優吾「ありがとう、俺には勿体ない良い妹だ」


そういって俺は部屋に戻った。


疲れが溜まっていたのか、すぐに寝てしまった…




1月1日…早朝…

俺達は酒屋を休業して、

荒山一家と大平で初詣に行った…


願掛けをした後…

大平がおみくじを引こうと言ってみんなで引くことにした…


俺だけ末吉だった…


昌幸「うっわ…微妙なの引いたな…」


優吾「おみくじだし…気にしないよ」


彰美「恋愛運…見といた方がいいんじゃないですか?」


彰美ちゃんは意外にグサッとくることを言ってくる。


大平はそんな俺たちを見て笑っていた。

途中で同級生に会ったり、

彰美ちゃんの友達の家族に会ったり、

大平のサークルの人たちに会ったりで挨拶が多かった。


佳穂や久一さんはその日は結局会えなかった…



しばらくして…鳥居の前まで戻った時に、

待ち合わせをしていた横田さん達と出会った…


謙三さんは公務で居なかったので、

俊美さんと明君、大吾さんの三人だけだった。


大平に紹介して、明君にお年玉を渡す。


優吾「それ部費か?」


昌幸「いいや…

俊一郎さんに手伝いのお礼で少しだけバイト代貰ってたから、

これはその一部だゼ」


明「わー!一万円だー!ありがとう!大平お兄ちゃん!」


俺はバイト代貰ってないが、別に実家のようなものだし…

俊一郎さんも頑張っていた大平に少しだけくれたんだろう…


昌幸「さっきの写真サークルの奴らから、

この前の麻雀の勝ち分貰ってたしな!

麻雀での腕のこと、飛行機で話してたろ?

ワシ、今は景気がいいのよ」


彰美「私にもお年玉くれるんですよね?」


昌幸「金は余っておりますので」


悪代官みたいなセリフを言う大平が、

なんか今日はカッコよかった…


香奈「それじゃあ、今日はみんなで楽しく家で新年会しましょうか」


俊一郎「俊美君の料理を味わえるのを楽しみにしていたんだよ」


俊美「ふふっ…今日は腕によりをかけますよ」


大悟「俊一郎君、良いワインはそろってるかね?」


俊一郎「もちろんですよ」



二台の車で荒山さんの家に向かい、

横田さん達と一緒に新年会を開いた。


豪華な正月料理を堪能し、

お正月の特番を見ながら楽しい時間が過ぎていった。


大平は酒で眠っていて、

彰美ちゃんは明君と二階でレースゲームをしている。


大悟さんと香奈さんが小説の話をし、

俊美さんは俊一郎さんと昔話をしていてた…





俺は落ち着いたところで、

二階の和室で大悟さんに会った。



大悟「来たか…少し話をしてもかまわんかね?」


優吾「ええ…話って薫の事ですか?」


大悟「君の事さ…恋人は見つかったかな?」


優吾「ええ、ですが失恋したようなものだと思ってます」


大悟「恋の極意とは失恋することを楽しむ事だ」


優吾「初めから失恋するとわかっていて、

恋をするものではないと思いますよ。

俺は2人の女性を自分の想っている人のために…

失恋という結果で終わらせました。

とても悲しい事だとわかっていながら…選びました」



大悟「そうかな?

愛が欲しいと思うから、その行為自体が楽しめない。

手に入れようと思うから、手放すことが辛くなる。

大切な何かを欲しがりながらも、

最初から大切なものをすべて持っている」


優吾「欲しがっている?」


大悟「相手の心を受け取ることでお互いの愛が出来る。

欲しがるものでなく受け取ること、

受け取るだけでなく渡すこと。

受け取ったものを失っていくのを楽しみ、

失恋する過程を楽しむことが恋の極意だ。

悲しいことなどない。

悲しいのは心を閉ざすことだ。

それは盲目の闇でしかない」


俺はワインを飲まずに答えた。


優吾「ありがとうございます。

渡す決心が付きました。

一度は失恋しましたが…

それは失恋ではなく、

彼女の想いに自分が向き合っていなかっただけだと思います。

今度はしっかり見て、告白します。

そして受け取ってきます」



大悟「やはり君は誇りと愛をもって道を進む男だ」


それを聞いて、俺は…

立ち上がり、一礼をして一階に降りた…


俊一郎さんに頼んでジムニーを借りて、優子の家に向かった。



大事な話がある君の家に今から来る、というメールを送った。


胸のペンダントの指輪を…渡すべき人が、その先にいると信じて…

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