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みんなの卯の花祭奮闘記・紫音


 ノックの音がしました。


 しばらく待っていると、囁くような声が聞こえました。


「紫音さん、いますか」


 桜井くんです。


 カーテンを引くと、やはり桜井くんがいました。


「お疲れ様です」


「どうも。日村の具合はどうですか?」


「大丈夫です。今はおとなしく寝ています」


 水乃くんを心配して様子を見に来てくれるなんて、桜井くんは優しいです。


 水乃くんの顔色を見てから、私たちはベッドを離れました。


「衣装あわせを始めましたよ。紫音さんも一度戻った方がいいかもしれないです」


「そうですか。じゃあ、もう少ししたら戻りますね」


 でも、せっかくですから、今は桜井くんと二人の時間を楽しみましょう。


「レオは俺にカボチャパンツを履かせたいみたいです」


「桜井くんが、カボチャパンツですか?」


それは見たいような見たくないような。でもやっぱり見たいような。


「試着だけでもしてみろって言われたんですけど、こっそり逃げてきました」


「逃げて大丈夫なんですか?」


 倉本くんは怒ると怖いですから。


「大丈夫じゃないと思いますけど、生き恥さらすよりかはましかなって」


 生き恥……桜井くんにとってカボチャパンツは、それほどまでに屈辱なんですね。


「そういえば三嶋は?」


「つい今しがた、被服室に戻りましたよ。桜井くんが来るちょっと前まで一人七並べをして遊んでたんです」


 私がいるんですから、誘ってくれればよかったのに、黙々と一人でカードを並べていました。


 私にはわかりませんが、三嶋くんにとっては楽しいんでしょう。


 三嶋くん、今日はちゃんと練習に参加するって言ってたのに、結局さぼって。


 マイペースで仕方ないですね。


 まともに練習に参加出来てないといえば、私や水乃くんもそうなんですが。


「すみません、今日も練習途中で抜けさせてもらって」


「いいですよ、気にしないでください……て、俺が言うことじゃないかもしれないけど」


「あとで倉本くんにも謝っておきます。水乃くんのせいで、練習に支障が出るのは申し訳ないです」


 水乃くんだって、好きで具合悪くなってるわけじゃないって、わかっています。


 でも迷惑をかけたことに違いはありません。


「紫音さんて、しっかりしてますよね」


「そうですか?」


「はい。真面目で、しっかりしてて、とても同い年とは思えないです」


 桜井くんに褒められました。


 褒められたのは嬉しいのですが、素直に喜べなかったり。


 とても同い年とは思えない、その通り、私、桜井くんより歳上ですから。


 と言っても一つしか変わりませんが。


 桜井くんはそのことをご存じないようです。


「桜井くんは、」


「紫音さんは、」


 同時に口を開き、同時に口をつぐみました。


 素敵な偶然。これまたちょっと嬉しかったり。


「桜井くん、先にどうぞ」


「いや、紫音さんどうぞ」


「いえいえ、桜井くんお先に」


「いやいや、紫音さん先に」


 埒があかないのでジャンケンで負けた方が先に話すことにしました。


 倉本くんや小日向くんがこの場にいたら、「アホくさ」「くだらない」とバカにしたでしょう。


 でも、いいんです、本人たちがそれでいいと言ってるんですから。


 私がチョキ、桜井くんがパー。桜井くんの負けです。


「じゃあ言います。紫音さんは、日村とどれくらいの付き合いなんですか?」


「そうですねー、小さい頃からお互いの存在は知ってましたけど、ちゃんと向かい合うようになったのは小5くらいですかね」


「早いんですね……プライベートなことなんで、言いたくなかったらいいんですけど、」


 桜井くんは躊躇うように、


「どっちから言ったんですか?」


「何をです?」


「交際の申し込み的な」


 交際の申し込み?


「交際ってなんですか?」


 桜井くんは少し驚いたように、


「日村と紫音さんて、付き合ってるんですよね?」


 つきあう? 突き合う? じゃなくて、お付き合い? 男女交際のこと?


 静かに尋ねます。


「えーと、それは、誰に聞いたんですか?」


「誰ってわけでもないんですが、噂で。紫音さんと日村は仲が良いのでみんなそう思ってますよ」


 そういう噂があるのは知ってます。


 知ってて、説明がめんどくさいからって否定せずにいた私たちも悪いんです。


 しかし、まさか桜井くんにそう思われていたとは。


 だって水乃くん、本当に信頼のおける友達には伝えてあるって言っていたから。


 桜井くんには話せないってことでしょうか?


「紫音さん、なんか怒ってます?」


「いえ、怒ってはないです」


 怒ってはいません。困ってはいます。


 それから、少し、モヤモヤもしています。


「私、水乃くんとお付き合いなんかしてませんよ」


「そうなんですか?」


「そうなんです」


 でも、詳細は私の口からは言えないんです。


 水乃くんが言わないのに、私が言えるわけがありません。


 私は、たいしたことじゃないって思っているけど、水乃くんはいやがるかもしれないから。


 桜井くんは何か言いたそうな顔をしています。言われる前に席を立ちました。


「被服室へ行ってきます。桜井くん、私が戻るまで水乃くんを見ててもらえますか?」


「わかりました」


 桜井くんを残して保健室を出ました。


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