表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/63

みんなの卯の花祭奮闘記・ヒナタ

 俺が体育館を出てから15分が経過した。


 日村か海生あたり、はたまた花菱が様子見に来るんじゃねーかな。まあ、来ても戻る気ねーけどな。


 なんて思ってたら、桜井が来やがった。

  

「なんでよりによってテメーなんだよ」


「俺もそう思う。でも海生が三嶋を連れてきてマドレーヌ食べ始めたから。日村や紫音さんに頼むのも悪いからさ」


「なんだよマドレーヌって。ワケわかんねーこと言ってんじゃねーよ」


 桜井は肩をすくめた。


 こいつの、こーゆーすかしたとこがムカつくんだよ、俺は。


「なあ、ヒナタ。おまえが怒りたくなる気持ちもわかるけど、レオもいっぱいいっぱいなんだからもう少し、あいつの気持ちくんでやれよ」


 出た、説教。不良のくせによ。


「どう考えたって、レオのが間違ってんだろ。卯の花祭まで1週間もねーのに、めんどくせーこと押し付けやがってよ」


「確かにそれはそうかもしれない。が、一度引き受けたんなら、不満があっても最後まで責任もってやるべきだろう?気に食わないからって手を抜いたり、途中で投げ出すのは無責任だ。それに、そんなこと繰り返してたら、辞め癖がついて、おまえ自身のためにもよくない」


こいつは、ほんとに。


「オメーはなんなんだよ。かおりか」


「誰、かおりって」


「俺の母親」


「おまえ、お母さんのこと『かおり』って呼び捨てしてんの?」


「うちは昔からそうだよ。気持ちの上ではいつまでも若くありたいから『ママ』を卒業したら、『かおり』って呼ぶようにってな」


「へぇ。面白いな。うちは今でも『ママ』って呼ばせたがるけど」


 桜井が『ママ』?


「まさか、呼んでねーよな?」


「呼んでるよ」


「マジか!?」


「嘘だよ」


 この野郎。


 目についた黒板消しを桜井目掛けて投げつけたが、避けられた。


 あー、ムカつくっ。


「学校の備品を投げるな」


「不良が説教すんな! うぜぇんだよ!」


「ヒナタは本当に短気だな」


 やれやれ、仕方ないなあみたいな顔すんな! 余計腹立つ!


「俺はおまえらのやり方が気に入らねーんだよ」


 こっちの都合も聞かずに勝手にキャストに組んだと思ったら、セリフは1日で覚えてこいだと。


 それなのに、誰もなんも言わねー。


 普通おかしいだろ? ふざけんなって思うだろ?


「何でおまえらはそれを当たり前みてーに受け入れてんだよ。腹立たねーのかよ」


「しょうがないだろ、レオはそういう奴なんだから」


「だからっ、それがおかしいんだっての! なんでそれで許しちまうんだよ。そりゃ俺だってあいつの性格は知ってんよ。言い出したら聞かねーし、目的のためには何だってするってことも。だから劇の話もうけた。けど、最後にゃそうなるってわかってんなら、尚更、変だって、おかしいって、文句だって、嫌味だって言うべきだろ? おまえらが何も言わねーから、俺が一人で怒って反発してってなるんじゃねーか。俺だって好きで年がら年中怒ってるワケじゃねーっての」


 桜井は目を丸くした。まじまじと俺を見る。


「なんだよ」


「いや、何も考えてなさそうに見えて、ヒナタもいろいろ考えてんだなって思って」


 馬鹿にしやがって。


 目についた黒板消しクリーナーを投げつけてやったら、桜井は慌ててよけた。


「クリーナーは危ないだろ」


「どーせ使ってねーから壊れたって問題ねーよ」


「そういうことじゃないだろう」


 そこまで言って桜井は黙った。


 こいつ、俺と話す時はいっつもこうだ。


 言ったって仕方ないって思ってんのかしんねーけど、言い返してこねーんだ。


「わかった、俺がいると火に油注ぐみたいだから退散するわ」


「さっさと失せろ」


 桜井は出て行った。


 たっぷり90秒待ってから、俺も部屋を出る。


 廊下には穏やかに微笑む桜井がいた。


「はめやがったな」


「待っててやったんだよ。一人ですごすご体育館戻るの気まずいだろうと思って」


大きなお世話だよ。


「おまえ、ほんっとに人のこと馬鹿にすんの好きな」


「俺はそんなつもりないんだけど」


歩き出した桜井。俺は動かず、じっと前を見据える。


「どうした?」


桜井が振り返る。俺の視線を追って、前を見た。チャンス。


後ろから膝の関節を蹴り飛ばしてやった。


不様に倒れる桜井。ざまあねーな。


「バーカ」


「馬鹿って言った方が馬鹿」


廊下に倒れた情けない格好のまま、桜井はうめいた。


俺は走って逃げ出した。


俺がバカなのは認めるけど、あいつもいい勝負なんじゃねーの?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ