みんなの卯の花祭奮闘記・海生
ヒナタを探しに行ったら、ヒナタよりも先に三嶋を見つけた。
向こうも俺に気付いたみたいで、立ち止まった。
また何か言われる? そう思ったら恐怖で体がかたくなった。
前髪の間から三嶋の虚ろとも眠そうとも不機嫌ともとれる目が覗いてる。
「サナダウミオ」
「カイセイだってば」
「ごめん」
「や、別にいいけど」
謝られるなんて思ってなかったから、どきっとした。
「ウミオって呼ばれてもそんな嫌ってわけじゃないし、あだ名だと思えば全然ありだし」
「傷つけるつもりはなかった」
「え?」
「俺は悪いことしたと思ってないけど、ウミオが泣いて帰ったって、俺が泣かせたんだって聞いて、一応反省した」
いくら俺が傷つきやすいからって、名前間違えられたくらいで泣いたりしないぞ。
「それ誰が言ってたんだ?」
「死に損ない」
誰、それ。
それ、あだ名なの? いくらなんでもひどくないか?
「わかんないから、名前で言ってくれるか?」
「水乃」
みずの? って、日村のことだよな、たぶん。
そういえば、昨日、日村からメール着たけど……もしかして、三嶋は昨日のことを謝ってる?
「日村、他になにか言ってた?」
「紫音がマドレーヌ作るって」
それ、俺、関係ないよね。
「ウミオは俺と話しがしたかったって」
「うん、そう。話してみたかったんだ」
三嶋と同じクラスになったのは初めてだったけど、花菱から話は聞いてた。
ちょっと無口でけっこう暗くてだいぶ変わっててかなり不思議ですごい食い意地張ってるけど、正直ないい子だって。
花菱にかかれば誰でもいい子になっちゃうから、その部分は信用してなかったけど、いろいろと興味深かった。
失礼な言い方かもしれないけど、怖いもの見たさってやつ。
不良と呼ばれる桜井だって、見た目は凶悪だけど、話してみたらすごいいい奴だった。
逆にレオみたいな見た目は美少年、中身は最悪って奴もいたけど。
ちゃんと話してみたら、意気投合して友達になれるんじゃないかなって。
第一段階は失敗したけど。
三嶋は長い前髪の間から、真っ直ぐ俺を見ている。
にっこり笑ってみる。
「俺、三嶋と友達になりたいなって、ちょっと思ってたんだ」
「そういうの、重い」
なんという正直者。
コントなら頭の上にたらいでも落ちてきて、派手な音をたててずっこけてるとこだ。
ずっこけはしなかったけど、ばっさり切り捨てられたショックのあまり、ヨロヨロと壁にもたれる。
三嶋は目で俺を追う。
「でも、うざいとは思ってない」
フォローのつもりか?
重いけど、うざくはない。
どう違うのかわからない。
三嶋は俺の顔を覗き込んで、
「傷ついたのか?」
「かなりね」
見ればわかるだろ、って言ってやりたかった。
「感覚ずれてるから。傷つく基準がわからないんだ」
どんなずれかたしてるんだよ。
三嶋は俺の腕を引っ張ってちゃんと立たせようとする。
「体育館に行こう。マドレーヌ。紫音が作ったやつ。お詫びに半分あげる」
びっくりして三嶋を見つめる。
「いいのか?」
三嶋は頷いて、
「半分だけ」
「ありがとう」
食い意地張ってる三嶋がマドレーヌを譲ってくれるって。
単純な俺は、それだけですごい嬉しくなった。
なんか三嶋に認められたような、そんな気持ち。
桜井ほどまではいかないけど、レオよりかは、いい友達になれるんじゃないかな。