みんなの卯の花祭奮闘記・花菱
体育館の空気はすごーく重かった。
まず、手前に、困った顔した紫音さんと、紫音さん以上に困った顔しておろおろしてる海生。
ちょっと離れたところで、すまし顔の日村と桜井。
ステージには厳しい顔でにらめっこするヒナタとレオ。
にらめっこのシーンなんてあったっけ?
「みんな、おつかれー」
元気よく体育館に入ってくと、紫音さんと海生が驚いたみたいに振り向いた。
ヒナタがステージから飛び降りる。
「話は終わってない」
「知らねーよ。あとはテメーらで勝手にやれ」
レオの制止も聞かずに、ヒナタは体育館を出ていった。
にらめっこじゃなくて、喧嘩だったのか。な?
レオは肩をすくめた。
「15分休憩」
レオが舞台袖に引っ込んで、緊張がとけたようにみんな息をつく。
僕は海生のところへ駆け寄った。
「ヒナタとレオはどうしたの?」
「ヒナタがあんまりにもやる気なさそうにダルそうにしてるから、レオが怒ったんだよ」
「だってヒナタの役は、『めんどくさがりの義姉』って設定になってたよね?」
むしろヒナタがダルそうにしてるのは役としていいんじゃないのかな?
「そんなレベルじゃないんだよ。本当にやる気なさそうで。そもそもあいつちゃんと台本見てないみたいで、自分の出番わかってないし、セリフもちゃんと覚えてなくって。で、レオが『やる気がないなら帰れ』。そしたらヒナタもヒナタで『こっちだって好きでやってんじゃねーんだよ』って、レオに対する不満を並べ出して」
それはそれは。
ヒナタが出ていった入り口とレオが引っ込んだ舞台袖とを見比べる。
「僕、レオと話してくるよ。海生はヒナタを探してきてくれないかな?」
海生は「えー」って顔をした。
「あ、ごめん。怒ったヒナタは怖いもんね。嫌だったら大丈夫だよ」
海生は離れたところで、何事もなかったかのように談笑する桜井たちに目を向けた。
「……いいよ、俺、行ってくる」
「ごめんね」
「花菱が悪いわけじゃないよ」
手を振りあって、お互い別方向へ。