表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面影  作者: 藤田謙志
1/2

一、子供の苦悩、母親の苦悩

「一体、僕のどこが気に入らないんだろう?」


堅木雅高は、鏡に映る自分の姿を、じっと見つめていた。

雅高は小学五年生、母子二人の母子家庭である。

兄弟はいなかった。

父親は、雅高が二歳の時に、この家を出て行ったらしい。

それ故、雅高には父親の記憶がなかった。

物心ついた時には、既に母親と二人きりで、この六畳一間のアパートで暮らしていたのだ。


雅高は、小さい時から何故か、母親に良く殴られた。

ある時は、目の周りがあざとなって残ってしまい、不審に思った幼稚園の先生が、母親のもとを訪ねることもあった。

母親は、見た目は温和そうに見えるため、幼稚園の先生は母親の言い訳を真に受けて、何事もなかったように帰ってしまった。

その日の夜、雅高は昨夜以上に、母親にしつけという名の暴力を振るわれたのであった。


雅高は今年で十一歳になる。

雅高は、母親に少しでも喜んでもらおうと、これまでにも様々なことを試みたが、結局全て徒労に終わっている。

雅高は、只々我慢する日々が続いていた。


そして、今日は母親の誕生日だった。

雅高は部屋に誕生日の飾りつけをし、手慣れた手つきで料理も作って、母親が帰ってくるのを一人待っていた。

母親は夕方まで仕事に出ているため、最近では夕食の準備は雅高がすることが多かった。

少しでも母親に気に入ってもらうためだ。


しかし、その日は母親がなかなか帰って来なかった。

いつもならどんなに遅くても夕食時には帰ってくる母親が、夜の十時を過ぎても帰って来ない。

もしかしたら事故にでも遭ったのではないだろうか?

不吉な思いが雅高の頭の中を駆け巡った。


実は、母親は一人居酒屋でお酒を飲んでいた。

せっかくの誕生日に雅高と二人っきりで過ごしたくなかったからだ。

かといって一緒に飲んでくれる友達もおらず、結局は一人酒を嗜むことになってしまった。


母親が家に帰って来たのは、日付を超えたころだった。

部屋の電気はまだ点いていたので、まだ雅高が起きて待っているのでは、と母親は思った。

部屋に入ると、テーブルで寝ている雅高の姿があった。

壁には誕生日おめでとうの文字が飾られていて、テーブルには雅高の得意なカレーライスが並んでいた。


母親は思わず涙ぐんでしまった。

そして、毛布を雅高に掛けると、雅高の作ったカレーライスを食べ始めた。

カレーライスはしょっぱい涙の味がした。

その横で雅高は笑みを浮かべながら、眠るのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ