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Ⅰ章 到着「伝承の詳細および疑問点の提起について」③

 

 祁答院はそれを朗々(ろうろう)と読み上げ始めた。




       * * *




 むかしむかし(一七〇三年。元禄げんろく一六年)。この地には伊織という貧しい武士のむすめと、石和小兵太いさわこへいたという、これまた貧しい若ざむらいが住んでいました。


 二人は好き合い、けっこんの約束をしていましたが、ある日、大じけんが起こります。


 小兵太のお父さんが、五郎左ごろうざというさむらいに殺されてしまったのです。


 その後、五郎左は逃げてしまい、小兵太はお父さんの死をとても悲しみました。


 ですが、小兵太はさむらいです。さむらいであるため、お父さんのかたきを取らねばなりません。小兵太はかたきうちの旅に出る決心をし、お殿さまのゆるしをえました。


 おはかまいりを終え、家宝の刀をこしにさし、いよいよ旅立とうとした小兵太の前に、伊織があらわれます。


 伊織は、泣きながら小兵太を止めました。


「五郎左はとても強い。小兵太さまもころされてしまう」と。


 小兵太は、言いかえしました。


「やる前からできないと決めつけるなんて、さむらいのはじだ。それに行かなければ、みんなから勇気がないとばかにされてしまう」


 伊織はさらに言います。


「勇気がなくてもかまいません。だから、二人で逃げましょう」


 それは、小兵太もほんとうはそうしたいと思っていたことでした。


 でも、小兵太はさらに言いかえします。


「二人で逃げたら、わたしのお母さんをみすてることになってしまう。それはできない」


 小兵太のお母さんは、もうおばあちゃんです。足もふじゆうで、いっしょに連れて行くことはできません。


 それに二人だけで逃げれば、こんどはお母さんがみんなからばかにされるでしょう。親孝行な小兵太には、とてもできませんでした。


 お母さんもだいじだ。小兵太のことばに、伊織はなにも言いかえせません。


 それでも、伊織は小兵太のきものをつかんで引きとめます。ここで小兵太を旅に出してしまえば、きっともう会えなくなる。だから、ひっしにとめました。


「ごめん!」


 そんな伊織を、小兵太はつきとばします。


 心の中であやまりながら旅立つ小兵太のせなかに、ころんだ伊織は声をかけました。


「小兵太さま。いつまでもまっています」と。


 立ちどまった小兵太は「かならず帰る。この刀にやくそくしよう」と言いのこし、旅だっていきました。




 しかし、一年たち、二年たっても、小兵太は帰ってきません。


 伊織のお父さんは、「もう小兵太さんは帰ってこない。だからおまえのけっこんあいては、ちがう人にしよう」と伊織に言います。


 伊織は「小兵太さまでなければ、いやです」とことわりつづけ、ついに三年たったとき、町にはあるうわさがながれました。


 小兵太が、どこか遠くの土地で五郎左に殺されてしまった、といううわさです。


 伊織もこれを聞き、とても悲しみました。


 そして悲しみのあまり、龍神さまが住むという大きな池へ、身を投げてしまったのです。


「小兵太さまのかたきを」


 池にしずんでいく伊織は、龍神さまにそうねがいます。


 そのとき、伊織はふしぎな声を聞きました。


「おまえのねがいをかなえよう」


 そして伊織は龍神と一つになり、池より舞い上がったのです。


 ごろごろ、ぴしゃーん。


 怒りに燃える龍神は大あらしを呼び、いかづちをまとって五郎左を追います。


 追われた五郎左は、近くにあったお寺(旧仁祥寺。現在は跡地)へと逃げ込みました。


 でも、それくらいでひるむ龍神ではありません。口からまっかな炎をはき、五郎左をさらに追いつめます。


 ついに逃げ場をうしなった五郎左は、お寺のつり鐘のひもを切り、その中へとかくれてしまいました。


 なおも龍神はあきらめません。つり鐘を体でぐるぐる巻きにし、ごうごうと炎をはきだします。


 けっきょく、五郎左はつり鐘の中でむし焼きにされてしまい、伊織はねがいを果たしたのでした。


 それでも龍神の怒りはおさまりませんでした。


 お寺を焼きはらい、この地に大あらしをもたらしつづけます。いよいよ洪水が起こるすんぜんとなり、こまりはてたみんなは、そろってお殿さまへおねがいしました。


「この大あらしは、龍神となった伊織が怒っているせいです。このままでは、みんな死んでしまいます。なんとかしてください」


 もちろん同じことを考えていたお殿さまは、さっそくけらいに命令して、池のほとりに神社を建てます。この神社に伊織神社と名づけてみんながまつると、ようやくあらしはおさまったのでした――




       * * *




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