序文
はじめまして。来島トウジと申します。本作品は私が脚本を担当し、さる2011年2月20日、好評のうちに終了したワークス仮想風月旗揚げ公演「妖怪学助教授 祁答院晶の調査レポート」のノベライズ版となります。
ノベライズ化にあたっていろいろな追加要素もありますので、新規の方はもちろん、公演をご覧になられた方でもお楽しみいただけると確信しております。ぜひ私の駄文にお付き合いくださいませ。
では、拙作を始めさせていただきます!
※本作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件とはいっさい関係ありません。
彼女は水底で夢を見ている。
それは昔々で語られるべき物語。ただ、彼女にとっては三年前の出来事だ。
彼は言った。
「必ず戻る。この刀に誓って」と。
彼女は答えた。
「お持ち、申し上げております」と。
それは平凡な物語。突き抜けるような青空と、生命を謳歌するセミの声に彩られた、ある夏の日の思い出だ。
……しかし、誓いがはたされることはなく。
彼は二度と彼女のもとへ戻らなかった。
彼を責めることはできない。どこか遠い地で、凶刃の前に倒れた彼を。
そして、彼女は決断した。
彼の許へ逝こう。
だから彼女の行動に迷いはなかった。
……しかし、願いが叶うことはなく。
彼女は湖底に眠っている。
ただ、想う。会いたいと。
それのみを念じ、彼女はたゆたう悠久にいた。
とぷん。
不意に耳朶を打ったのは、水音。
何かが池に投げ込まれた音。反応した彼女はまどろみの中で無意識に手を伸ばす。
つかむと、それはとても汚れていた。
が、彼女は感じたのだ。その奥底で「帰りたい」と慟哭する彼の心を。
これは彼のかけら。誓いはいまだ生きていた。いや、侍たる彼が誓いを違えるはずもなかったのだ。
ならば、彼は必ず帰るだろう。
ならば、出迎えねばならない。誰よりも早く声をかけ、抱きしめるために。
彼女はぼんやりした意識のまま、ゆっくりと登っていく。やがて湖上に姿を現した。
夜。月は薄雲をまとい、虫たちは季節をあの日と同じ夏だと教えてくれている。
目を転ずれば、林には逃げるように走り去る人影があった。
彼とどこか似た印象のある男。けど、彼ではない。茫洋と見送った彼女は水面を歩き、地面に降り立つ。ここに、
――龍神は三百年の眠りより解き放たれた。
……これだけだと何のことか分かりませんね。
ご安心を。私もこれだけじゃ分かりません(笑)!
いずれ意味を持ってくるので、どうか末長いお付き合いを!




