ピッケル令嬢 ~女王ルートに入ったということでよろしいのですね?~
わたくしの名前はダークカース・ライトゴーケ。祖母の名前にあやかって付けられた闇の公爵を冠する公爵令嬢です。巷では王子の連続暗殺に関わっていると噂されていますが、他国の間者が入りやすい土地柄で疑うのは野暮です。
この国は弱い王国。国土は脆弱にして貧弱でした。唯一の取り柄は鉱山が多いことです。金で雇われた傭兵がこの国を守っています。闇の公爵は名ばかりに過ぎません。
闇の公爵、ブラックシード・フォン・ライトゴーケの生涯について語りましょう。生まれは闇の塔と呼ばれる監獄でした。
わたくしの祖母、ダークホース・ライトゴーケは占い師に「闇の塔でしか子は宿らぬ」と言われ、それを信じたダークホースは自ら闇の塔に囚われる決断をしました。
そうして生まれたのがわたくしの父です。大昔からその話を聞かされていた私は、闇の塔と繋がっている場所に好奇心が付きませんでした。
先代のライトゴーケ公爵に可愛がられて育った父は、その事実を知る機会を私に与えてくれました。闇の塔で生まれ、鉱山に恵まれた土地で暮らし、遺跡の上に成り立つライトゴーケ公爵家の当主となった父は、わたくしにたった1つの願いを託したのです。
「花嫁修業は終わりだ。今日から鉱山に向かう」
はて? 学園ではなかったのかとわたくしは首を傾げました。
「お告げがあったのだ。闇の大精霊は我が娘を鉱山に捕らえよと言った」
「闇の大精霊はピッケルに宿っていますわ」
「そのピッケルを手放して欲しくないのだろう。許せ。大精霊の言葉だ」
「何を求めているのでしょう?」
「私の願いは遺跡を見つけることにある。そのために鉱山がある」
「金銀を採掘するための鉱山と思いましたわ」
鉱山の真下には遺跡があるという迷信があって、金銀を生成している遺跡があるのだという。この世にダンジョンがあるからこそ、そんな考えが定着したのだろう。
しかしそれはそれ、これはこれです。遺跡のためだけにわたくしにピッケルを担がせるのはどうなのかと思います。
「金は弾もう。しかし闇の塔で暮らせ」
「意味が分かりませんわ。闇の塔から鉱山まで一直線ですけれど」
「鉱床を掘らずとも良い。闇の大精霊が満足するまで鉱山にいるのだ」
「大精霊の言葉を重視するのはお婆様のご意向でしょうか?」
「そうだ。行け、ダークカース」
呪われた血だと一蹴したくなりましたが、坑道を掘らせる理由があるようです。私はピッケルを担いで鉱山に入りました。
バッドエンドですわ。
闇の大精霊に好かれたあまり、鉱山で一生を終えることになりました。ドレスがボロ布になるまで坑道を広げなくてはならないようです。
「まるで傭兵扱い。あの父は駄目ですわ」
大精霊の宿ったピッケルで名もなき坑道を掘り進めます。光魔法が得意で救われました。闇の大精霊はいい心地がしないようですけど、元はと言えば大精霊が悪いのです。
王子暗殺。あれは大精霊の仕業でしょう。数年前に宝玉の1つが割れて闇の大精霊が逃げ出したという話は聞きました。
今はピッケルに宿って落ち着いています。封印し直したという方が正しいでしょう。闇の大精霊は王子4人を暗殺して、王家への怒りを露わにしました。封印した相手を呪い殺すくらい平然とやってのけるのが闇の大精霊です。王家も呪われていますが、公爵家とて変わりありません。
厄介なものを預かった私は、導かれるように採掘をしました。魔法袋に掘った石を仕舞って一本道の坑道を拓いていきます。鉱山では何をしても自由でした。
「悪くないですわ」
ピッケルが勝手に掘ってくれるので力は殆どいらないです。闇の大精霊に感謝しながら、わたくしは婚約者のことを想っていました。
「生き延びた第三王子様と婚約したのにこの扱いですわ。婚約はどうなっているのでしょう?」
あまりに些細事だったので聞くのを忘れていました。だって彼女、女ですわ。誰がどう見ても王子ではなく王女でしたもの。
「あ」
ピッケルが石肌を砕いて滑らかな遺跡の石が見えました。
「……遺跡ですわ」
闇の遺跡に辿り着いて、わたくしはピッケルを見ました。本当に実在するとは思えずに目を擦ります。
「魔物の反応はないですわね」
ピッケルで叩いても魔物の反応はなかった。小さな部屋のようです。
遺跡の石を動かして侵入すると、そこは祭壇になっていました。光魔法が蝋燭に吸われて明るく照らされます。ピッケルは独りでに動き出して、祭壇に安置されました。
次の瞬間、闇の洞窟が開いてわたくしは驚きました。
「魔法、ですわね。何処に繋がっているのでしょう?」
一歩ずつ足を踏み入れて闇の洞窟を渡ります。扉が見えてきてノックしました。人の声が聞こえてきて大きく扉を開きます。
「出口ですわ!!」
「……誰だ、君は? この学園の生徒か?」
出口と思った場所は広い執務室でした。赤で統一された調度品には王都魔法学園のエンブレム。
「学園長室でしたか。ということは、貴女が学園長ですのね」
「その通りだ。気配なく現れた生徒はいつぶりだろうか……まあいい。王都魔法学園へようこそと言っておこう。闇の一族、となると……」
「身分は伏せておきますわ」
ドレスで身分がバレてしまいました。流石は学園長です。
何処から現れたのかと根掘り葉掘り聞かれましたけど、事情を分かってくれた学園長は入学を認めてくださいました。
「今年は第一王女も入学されるからな」
「第一王女ですの。それは楽しみですわ」
「第三王子の死亡が発表されてから王位継承権第一位であられる。邪なことを考える者も多いだろうな」
女王ルートですわ。この王国始まって以来の女王誕生は見てみたいです。王子4人が死んでいるのは間違いなく不吉ですし。
「第三王子には婚約者がいたな?」
「気のせいですわ。悲しむことはないと断言しておきましょう」
「王家の噂は絶えないからな」
「エリアフォース様にご挨拶してきますわ」
「暗殺ではないよな……?」
酷いことを仰られる。ライトゴーケ公爵家は暗殺に関わっていませんわ。闇の大精霊が悪さをしたとしても大元は他国の介入でしょう。
それから学園生活が始まりました。
平民も通っている王都魔法学園で、エリアフォースは人気者です。婚約者を作ったしまいにはその婚約者は謀られるでしょう。闇討ちが得意だと思われがちなライトゴーケ公爵家ですけど、エリアフォースの弱みを握っているだけです。
「ご機嫌麗しゅう、エリアフォース殿下」
「殿下はやめてください」
護衛騎士6人に囲まれているエリアフォースに挨拶をしました。エリアフォースは王女らしくしています。昔とは大違いです。
か弱い王女ではないことはこのわたくしがよく知っています。護衛騎士で相手を寄せ付けないところは昔と異なりますけど……あら。知った顔が1人いますわ。わたくしを見て目を見開いております。
「エリアフォース様。エリア様と呼んでもよろしいでしょうか?」
「構いません。貴女まで入学するとは聞いておりませんでした。ダーク」
「わたくしのことをよくご存じですわ」
「知っているも何も私と貴女の仲でしょう?」
弱みを強みに変えようとする強かな王女がそこにいました。 女王ルートに入ったからこそ、付け入る隙を見せないおつもりでしょう。
「お茶会をしましょう。私の好みは変わりません」
「あら、それは嬉しいですわ。これから仲良くしましょう、エリア様」
「これからは私たちで時代を築かなければなりません」
女王の時代ですわ。美しい王都に暮らすたおやかな王女が王子のふりをしていたなどとは誰も信じませんか。婚約者の関係でしたのに。
わたくしを鉱山送りにした理由の一端は婚約破棄です。事実を知る者で最も不幸を見たのはこのわたくしでしょう。恨みこそあれ、楽しい気持ちは全くありません。
お茶会でも不貞腐れていると、エリアはこう確約してくれました。
「私が女王となった暁には貴女を公爵家の当主に致します」
「エリア様」
「ともにこの国の領土を納めましょう」




