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「年齢・立場・正体」への恐怖

返事は、すぐに来た。


 場所と時間。

 都内の、小さなスタジオ。


 それだけだ。


 やり取りは、驚くほど淡白だった。

 こちらの年齢も、経歴も、聞かれない。


 だからこそ、ケンジの不安は増えていく。


 ――会ったら、どうなる。


 若いプロデューサーかもしれない。

 二十代、三十代。

 「今っぽい音」を当たり前に知っている世代。


 仮面のことを考える。

 顔を出すつもりはなかった。

 だが、会うなら、そうもいかない。


 五十代。

 会社員。

 音楽歴は、鼻歌だけ。


 名刺を出す場面を想像して、胃が重くなる。


 「趣味です」と言うには、ここまで来すぎた。

 「夢でした」と言うには、年を取りすぎている。


 断ろうか、と何度も考えた。

 曲だけ渡して、姿は見せずに終わらせる。

 それが、一番安全だ。


 だが、曲はもう、動き始めている。


 ケンジの知らない場所で、

 知らない耳に届いている。


 前日、眠れなかった。

 旋律は、相変わらず頭の中にある。


 それが、応援なのか、

 責めなのか、分からないまま。

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