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一本の連絡
――突然のご連絡、失礼します。
――こちらの楽曲について、少しお話を伺えればと思います。
――制作・リリースの可能性について、ご相談できませんか。
名前の後ろに、
小さく「プロデューサー」と書かれている。
感情のない文章。
絵文字も、感嘆符もない。
営業メールと、ほとんど変わらない。
ケンジは、しばらく画面を見つめていた。
胸が高鳴る、というより、冷えていく。
これは、夢じゃない。
現実の連絡だ。
間違いであってほしい、と思った。
同時に、間違いじゃないでほしい、とも思った。
ケンジは、スマートフォンを伏せる。
返信しなければ、何も起きない。
今まで通りの生活に、戻れる。
だが、もう知ってしまった。
この曲は、
誰かの時間を、確かに動かした。
それだけで、なかったことにはできない。
ケンジは、短く息を吐き、
画面をもう一度、手に取った。
返事は、簡単だった。
――詳細を、教えてください。
送信ボタンを押した瞬間、
部屋の静けさが、少しだけ変わった。




