再生数
再生数は、急には伸びなかった。
朝に一つ増え、
夜に、また一つ増える。
それだけだ。
ケンジは、意識しないようにしていた。
見れば期待してしまう。
期待すれば、裏切られる。
だから、見るのは一日一回だけと決めた。
コメントも、増えたり増えなかったりだった。
――このコード進行、懐かしい
――九〇年代っぽくて好き
――今の音じゃないのが、逆にいい
どれも短く、踏み込んではこない。
だが、否定はなかった。
それが、少しずつ効いてくる。
職場では、相変わらず同じ日常が続いていた。
会議、書類、無難な雑談。
昼休み、若い同僚が話している。
「最近、九〇年代のバンドっぽい曲、また流行ってますよね」
ケンジは、何気ない顔で相槌を打つ。
心臓だけが、一拍遅れて鳴る。
帰り道、イヤホンを耳に入れる。
自分の曲は、聴かない。
聴いてしまえば、
“作者”になってしまう気がした。
再生数は、いつの間にか三桁に届いていた。
特別な数字ではない。
だが、偶然とは言い切れない数だ。
動画の概要欄に、誰かがリンクを貼っていた。
別のSNS。
別の場所。
ケンジの知らないところで、曲は動いていた。
怖さと、安堵が、同時に来る。
何もしていないのに、
何かが進んでいる。
ある夜、通知が鳴った。
今まで見たことのない種類の通知だった。
コメントでも、評価でもない。
ダイレクトメッセージ。
一瞬、迷う。
開かなければ、何も始まらない。
それでも、親指が動いた。
短い文章だった。




