今の人生
二曲目は、若い頃の曲じゃなかった。
言葉は、今の自分のものだった。
仕事。
諦め。
それでも続いていく日々。
タイトルは、こう付けられていた。
『あの頃の俺達に
〜Don’t stop my life〜』
ケンジは、画面を見つめたまま動けなかった。
――それぞれの道
――ただ、果てしなく生きるだけ
――大人への道
――誰も止められない
――Wow Wow Wow
――Don’t stop my life
――もう戻れはしない
――Don’t stop my life
――あの頃の俺達に
若い頃なら、
こんな歌詞は書かなかった。
でも今は、分かる。
これは、慰めじゃない。
肯定でもない。
「それでも、生きている」
その事実を、そのまま置いただけの歌だ。
三曲目は、さらに短かった。
サビしかない。
それで、十分だった。
繰り返されるフレーズが、
今の人生そのものに聞こえた。
――I want a reason now
――夢の中へ連れていってあげるよ
――あの日交わした口づけのあじ
――もう一度してあげるよ
理由を探しているのに、
答えは過去にしかない。
前に進みたいのに、
胸に残っているのは、
失われた時間の温度だ。
それでも――
それでも、生きている。
ケンジは、プロデューサーにメッセージを送る。
――もう、曲は出尽くしました。
――あとは、自由にしてください。
送信してから、しばらくスマートフォンを置いた。
胸の奥に、静かな満足がある。
若い頃の夢を、
叶えたわけじゃない。
でも――
取り戻した感覚は、確かにあった。
それだけで、十分だった。
未来への小さな兆し
翌朝。
ケンジは、いつもより少し早く目が覚めた。
目覚ましが鳴るまで、まだ時間がある。
それでも、起き上がる。
カーテンを開け、窓を少しだけ開く。
冷たい朝の空気が、部屋に流れ込んできた。
深く息を吸う。
鼻歌が、自然に漏れた。
知らない旋律だった。
けれど、嫌ではない。
ケンジは、そのまま口を閉じず、
何度か同じ音をなぞる。
――間に合わなかっただけで、終わってはいなかった。
その時までには、もう一度始めればいい




