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プロデューサーとの初対面

スタジオは、思っていたより古かった。

 壁に貼られたポスターは、どれも色褪せている。


 九〇年代のバンド。

 名前を見ただけで、胸がざわつく。


 「……ここか」


 ドアを開けると、男が一人、ミキサーの前に座っていた。

 年齢は、四十代半ばくらいだろうか。


 思ったより、近い。


 「ケンジさん、ですよね」


 名前を呼ばれて、少しだけ肩が跳ねる。


 「はい」


 声が、思ったより低く出た。


 男は、軽く会釈をした。


 「動画、聴きました。

 正直、音は古いです」


 いきなりだった。


 言い訳を考える前に、続く。


 「でも、そこがいい。

 今、みんなその音を探してる」


 ケンジは、何も言えなかった。


 男は、画面を操作しながら話す。


 「九〇年代初頭。

 あの頃の空気を、ちゃんと覚えてる人の音です」


 覚えている。

 その言葉が、胸に刺さる。


 「AIを使ったんですよね」


 否定しようとして、やめる。


 「……はい」


 男は、少し笑った。


 「使い方が、上手いわけじゃない。

 でも、“使いどころ”が分かってる」


 褒められているのか、判断がつかない。


 沈黙が落ちる。


 ケンジは、先に言った。


 「俺は……表には出ません」


 男が顔を上げる。


 「曲は、自由に使ってください。

 クレジットも、いりません」


 言ってしまってから、少し楽になる。


 「若い人に歌わせてもいい。

 アレンジも、変えていい」


 男は、しばらく考えてから言った。


 「それ、本気で言ってます?」


 ケンジは、頷く。


 「若い頃の夢を、

 取り戻せただけで、十分なんです」


 その言葉は、嘘ではなかった。


 男は、深く息を吸い、ゆっくり吐いた。


 「……分かりました」


 だが、その声には、

 終わりではない響きがあった。


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