表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

帰っていく背中

 背中をトンと叩かれる。


 振り返ると加藤。


「ムラ、土曜ヒマ?」


 少し考える。


「たぶん」


「電器屋付き合って」


 何買うんですか、と聞く前に、


「ちょっと見るだけ」


 と言って、もう自分の席に戻っている。


 


 土曜の昼前。


 駅前の家電量販店。


 

 自動ドアが開くと、暖房の空気が流れてきた。


 男二人で来る場所でもないな、と少し思う。


 テレビ売り場をうろうろする。


 やたら大きい画面が並んでいる。


 同じ映像が何台も流れている。


「でけえな」


「置く場所ないでしょ」


「だよな」


 

 すぐ飽きて、次の売り場へ移る。


 掃除機のコーナーで足が止まった。


「やっぱコンセントのやつの方が強いのかな」


 展示されている本体を持ち上げてみる。


「軽」


 ヘッドを床で転がしてみる。


「紙パックないやつの方が楽?」


「まあ、買わなくていいですし」


「へえ」


 店員に聞けばすぐ分かりそうなことを、全部こっちに聞いてくる。


「これ一番高いやつか」


「高いっすね」


「退職金飛ぶな」


「飛ぶわけないでしょ」


 少し笑う。


「老後もあるしなあ」


 しばらく唸って、


 一段下の機種を指さす。


「これでいいや」


「もう決めたんすか」


「めんどくせえ」



 レジで会計を済ませる。


 箱を受け取る。


 「俺持ちますよ」


 「サンキュー」


 思ったより重い。


「年取ってくるとさ、こういうの地味にくるんだわ」


「まだ若いでしょ」


「若くねえよ」


 少し笑う。



 電車で二駅。



 住宅街を少し歩く。


 きれいな三階建ての建物の前で、加藤が止まった。


「ここ」


 階段を上がる。



 二階の端。



 鍵が回る。


「どうぞ」


 初めて入る。



 玄関の隅にゴルフバッグ。


 薄く埃が乗っている。


 昔、ゴルフはやるなよってよく言われたな、と思い出す。



 短い廊下。



 リビング。


 テレビ。


 ローテーブル。


 ソファ。


 小さい本棚。


 それだけ。


 きれいに片付いている。


 本棚の上に、シーサーの置物。


 口を開けている。


 沖縄の話、よくしてたなと思う。


「そこ置いといて」


「あ、はい」


 掃除機の箱を壁際に寄せる。


「昼どうする?」


「このへん何かあります?」


「定食屋ある」


 

 古い暖簾の店。



 カウンターに並んで座る。


「あそこ一人って寂しくないすか」


「もう慣れた」


 味噌汁の湯気が上がる。


「まだ彼女とかいないんすか」


 加藤が笑う。


「いるわけねーだろ」


 少し間。


「いたらお前と電器屋なんか行かねーよ」


 二人で笑う。



 店を出る。


 

「じゃ、俺こっちな」


「はい」


 手を上げて、加藤は住宅街の方へ歩いていく。


 背中が小さくなる。


 角を曲がって、見えなくなる。




 少しだけ、そのまま立っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ