帰っていく背中
背中をトンと叩かれる。
振り返ると加藤。
「ムラ、土曜ヒマ?」
少し考える。
「たぶん」
「電器屋付き合って」
何買うんですか、と聞く前に、
「ちょっと見るだけ」
と言って、もう自分の席に戻っている。
土曜の昼前。
駅前の家電量販店。
自動ドアが開くと、暖房の空気が流れてきた。
男二人で来る場所でもないな、と少し思う。
テレビ売り場をうろうろする。
やたら大きい画面が並んでいる。
同じ映像が何台も流れている。
「でけえな」
「置く場所ないでしょ」
「だよな」
すぐ飽きて、次の売り場へ移る。
掃除機のコーナーで足が止まった。
「やっぱコンセントのやつの方が強いのかな」
展示されている本体を持ち上げてみる。
「軽」
ヘッドを床で転がしてみる。
「紙パックないやつの方が楽?」
「まあ、買わなくていいですし」
「へえ」
店員に聞けばすぐ分かりそうなことを、全部こっちに聞いてくる。
「これ一番高いやつか」
「高いっすね」
「退職金飛ぶな」
「飛ぶわけないでしょ」
少し笑う。
「老後もあるしなあ」
しばらく唸って、
一段下の機種を指さす。
「これでいいや」
「もう決めたんすか」
「めんどくせえ」
レジで会計を済ませる。
箱を受け取る。
「俺持ちますよ」
「サンキュー」
思ったより重い。
「年取ってくるとさ、こういうの地味にくるんだわ」
「まだ若いでしょ」
「若くねえよ」
少し笑う。
電車で二駅。
住宅街を少し歩く。
きれいな三階建ての建物の前で、加藤が止まった。
「ここ」
階段を上がる。
二階の端。
鍵が回る。
「どうぞ」
初めて入る。
玄関の隅にゴルフバッグ。
薄く埃が乗っている。
昔、ゴルフはやるなよってよく言われたな、と思い出す。
短い廊下。
リビング。
テレビ。
ローテーブル。
ソファ。
小さい本棚。
それだけ。
きれいに片付いている。
本棚の上に、シーサーの置物。
口を開けている。
沖縄の話、よくしてたなと思う。
「そこ置いといて」
「あ、はい」
掃除機の箱を壁際に寄せる。
「昼どうする?」
「このへん何かあります?」
「定食屋ある」
古い暖簾の店。
カウンターに並んで座る。
「あそこ一人って寂しくないすか」
「もう慣れた」
味噌汁の湯気が上がる。
「まだ彼女とかいないんすか」
加藤が笑う。
「いるわけねーだろ」
少し間。
「いたらお前と電器屋なんか行かねーよ」
二人で笑う。
店を出る。
「じゃ、俺こっちな」
「はい」
手を上げて、加藤は住宅街の方へ歩いていく。
背中が小さくなる。
角を曲がって、見えなくなる。
少しだけ、そのまま立っていた。




