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五話 実践と死線の先へ

 ──移動中


 施設の外に出ると、空気が一気に冷たくなった。

 夜明け前の空は薄暗く、街灯の光だけが地面を照らしている。


「ほな、行こか!」


 飛鷹がやたら明るい声で言い、颯茜の肩をバンッと叩いた。


「いってぇ……!お前、力強すぎだろ……!」

「すまんすまん!ワイ、加減苦手でな!」


 ガハハと笑う飛鷹の横で、カランコエは小さく肩をすくめていた。


「飛鷹さん……もう少し静かに……任務前なんですから……」

「ええやん!緊張してたら動けへんで!」


 カランコエは困ったようにため息をつく。

 颯茜は二人のやり取りを見ながら、胸の奥がざわついていた。


(……任務って、何なんだよ)


 サクラは“アザミに近づくための一歩目”と言った。

 ただ、カランコエの表情がずっと硬いのが気になった。


「カランコエ、その……大丈夫か?」

「えっ……あ、はい……その……初めての人を連れて行くの、緊張してて……」

「初めて……?」

「わ、私……準幹部ですけど……指導役は、今回が初めてで……」


 カランコエはぎゅっと胸元を押さえた。

 その手が震えている。


(……この子、本当に大丈夫なのか……?)


 不安が胸に広がる。

 だが、飛鷹が颯茜の背中をドンと押した。


「心配すんな!嬢ちゃんは強いで!ワイなんか、初任務で泣かされたからな!」

「ひ、飛鷹さん!?言わなくていいですってば……!」

「ええやん!事実やし!」


 カランコエは顔を真っ赤にして俯いた。

 颯茜は思わず苦笑する。


(……なんだよ、このチーム)


 施設の外に停められた黒い車に乗り込む。

 エンジンが静かに唸り、車はゆっくりと動き出した。

 車内は狭く、三人の呼吸音がやけに響く。


「……颯茜さん」


 カランコエが小さな声で呼んだ。


「任務の内容は……現地に着いたら説明します。

 サクラ様からも“移動中は話すな”と……」

「……そんなにヤバい任務なのか?」


 カランコエは言葉を詰まらせ、視線を落とした。


「……そうですね」


 小さな肯定を、二人は聞き流さなかった。

 颯茜の背筋が冷える。


(そんなにやばいのか……)


 飛鷹は腕を組んで窓の外を見ながら言った。


「まぁ、気ぃ引き締めとき。ワイら三人でやるんは初めてやけど──」


 飛鷹の声が少しだけ低くなる。


「──失敗するき、あれへんもん」


 颯茜の心臓が跳ねた。


(そりゃ、そうか)


 車は暗い道を進んでいく。

 街灯が少なくなり、外の景色は影のように流れていく。胸の奥がざわつく。

 不安と期待と恐怖が混ざり合い、落ち着かない。

 車は、静かに、目的地へと向かっていた。


 車はしばらく無言のまま進んでいた。

 外の景色は、街から森へ、森から荒れた工業地帯へと変わっていく。

 カランコエが、膝の上でぎゅっと手を握りしめた。


「……そろそろ、着きます」


 その声は小さいのに、車内の空気を一気に引き締めた。飛鷹が窓の外を覗き込み、低く口笛を吹く。


「おー……相変わらず、えげつない場所やなぁ」

「……えげつないって、どういう意味だよ」


 颯茜が眉をひそめると、飛鷹はニヤッと笑った。


「見たら分かるわ。覚悟しとき」


 その言い方が妙に軽いのに、言葉の奥に“本気”が混ざっているのが分かった。

 車はゆっくりと減速し、やがて大きな鉄製のゲートの前で止まった。

 ゲートはただ、無機質で、巨大で、冷たい。


(……なんだよ、ここ)


 颯茜の背筋がぞくりとした。

 カランコエが震える声で言う。


「こ、ここから先は……一般の人は絶対に入れません。サクラ様の許可がないと……」

「つまり、ウチらは特別扱いってことやな」


 飛鷹が軽く笑うが、その目は笑っていなかった。ゲートがゆっくりと開く。 金属が擦れる重い音が、車内に響く。

 颯茜は息を呑んだ。

 ゲートの向こうには廃工場のような建物がいくつも並び、その奥には黒い塔のような施設がそびえていた。

 どこにも人の気配がない。

 音もなく、風すら止まっているように感じる。


(……ここが、任務地……?)


 胸の奥がざわつく。

 不安が、じわじわと形を持ち始める。

 飛鷹が、颯茜の肩を軽く叩いた。


「ビビる気持ちは分かるで。ワイも最初は吐きそうやったしな」

「……お前、そんな場所に何回も来てんのかよ」

「そらな。ここは裏側や。普通の任務とはちゃう」


 カランコエが小さく頷く。


「……ここでの任務は、失敗が許されません。誰かが死ぬとかじゃなくて……()()()()()()()()()()()から……」

「情報が……消される……?」


 颯茜は思わず聞き返した。

 カランコエは唇を噛み、言葉を選ぶように続けた。


「ここは……“記録に残らない任務”を扱う場所なんです。だから……」


 カランコエは颯茜を見た。


「──ここでの行動は、全部“自己責任”です」


 車が止まった。

 飛鷹がドアを開け、外の冷たい空気が流れ込む。


「ほな、行こか。ここからが本番や」


 颯茜は深呼吸し、車を降りる。

 薄暗い空の下、三人は無言のまま、中へと歩き出した。


 足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。

 冷たい、でなく重い。

 肺に入る空気が、どこか鉄の味を含んでいるような、そんな圧迫感。


(……なんだ、この感じ)


 颯茜は思わず胸に手を当てた。

 飛鷹は周囲を見回しながら、低く呟く。


「相変わらず……嫌な空気やな。ここ来ると、背中がゾワッとすんねん」

「……飛鷹さんでも、ですか?」


 カランコエが不安げに尋ねると、飛鷹は肩をすくめた。


「そらそうや。ここは普通の場所ちゃうしな」


 廃工場の並ぶ通路は、どこもかしこも錆びついていて、風が吹くたびに金属片がカラカラと鳴る。

 だが、その音すら、異質感を場に残していく。


「……ここ、本当に人いんのかよ」


 颯茜が呟くと、カランコエが小さく首を振った。


「いません。ここは……“人がいてはいけない場所”なんです」

「は?」


 意味が分からず眉をひそめる颯茜にカランコエは言葉を選ぶように続けた。


「ここは、任務のためだけに存在していて……普段は誰も立ち入らないんです。だから……」


 カランコエは足元を見つめた。


「“何かあっても、誰も気づかない”」


 その言葉に、颯茜の背筋が冷たくなる。飛鷹が前を歩きながら、軽く手を上げた。


「ほな、颯茜。気ぃ抜くなよ。ここから先は──」


 飛鷹の声が、急に低くなった。


「──監視カメラも、記録も、全部切れてる」


 颯茜は思わず立ち止まった。


「……切れてるって、どういう意味だよ」

「そのまんまや。ここに入った瞬間から、ウチらの行動は記録されへん。つまり──」


 飛鷹は振り返り、颯茜をまっすぐ見た。


「ここで何が起きても、外には残らん。誰も助けに来んし、誰も知らん」


 カランコエが小さく震えながら付け加える。


「だから……“自己責任”なんです」


 颯茜は固唾を飲み込んだ。

 冷や汗がダラダラと流れ出る。


(……律)


 そのとき、カランコエがピタリと足を止めた。


「……っ、来ました」


 飛鷹も表情を引き締める。


「早いな。ほな──颯茜、気ぃつけろよ」

「え、何が──」


 颯茜が言い終わる前にカランコエの目が、すっと鋭くなった。

 さっきまでの弱々しい雰囲気が嘘のように幹部の顔へと変わっていく。


「──ここから先が、任務の開始地点です」


 颯茜は息を呑んだ。

 薄暗い廃工場の奥で、闇の中で、蠢く何かを見つけた。

 影が飛び出した瞬間、空気が“破裂”した。


「来るでッ!!」


 飛鷹の叫びと同時に黒い何かが地面を蹴り、一直線に突っ込んでくる。

 速い。人間じゃない。


「颯茜さん、下がって!!」


 カランコエの声が鋭く響く。

 その瞬間、彼女の足が地面を蹴った。

 颯茜の目にはカランコエの動きが“消えた”ように見えた。


「え──」


 言葉が終わる前にカランコエは影の横をすり抜け、手にした短い刃で“何か”を切り裂いていた。


 金属が弾けるような音。

 飛鷹がすかさず前に出る。


「嬢ちゃん、右ッ!!」

「はいっ!」


 二人の声が重なり、影の動きに合わせて二人が同時に動く。

 飛鷹は拳を握り、影の進行方向に回り込むように跳び込んだ。


「どりゃああッ!!」


 拳が影の胴を捉え、鈍い衝撃音が廃工場に響く。

 影が吹き飛ぶ。

 だが、すぐに体勢を立て直し、四つん這いのような姿勢で低く構えた。


(……なんだよ、あれ……!)


 颯茜はただ立ち尽くすしかなかった。

 身体が動かない。

 頭が追いつかない。


 そのとき──


「颯茜ッ!!伏せろ!!」


 飛鷹の怒鳴り声。


「え──」


 影が颯茜に向かって跳んだ。

 黒い塊が視界いっぱいに迫る。


(やば──)


 避けられない。

 そう思った瞬間。

 カランコエが颯茜の腕を掴み、強引に地面へ引き倒した。


「きゃ──っ!」


 影が颯茜の頭上を掠め、背後の鉄柱に激突する。

 火花が散った。


「颯茜さん!立って!!」


 カランコエが叫ぶ。

 飛鷹が影の前に立ちふさがる。


「嬢ちゃん、左から回り込め!!ワイが正面押さえる!!」

「了解です!!」


 二人は迷いなく動く。

 呼吸も、歩幅も、タイミングも、まるで何度も繰り返した舞台のように噛み合っている。


(……すげぇ……)


 颯茜は呆然と見ていた。

 飛鷹の拳が影を引きつけ、カランコエの刃がその隙を正確に突く。影は反撃しようとするが、二人の連携は一瞬の隙も与えない。


「颯茜!!」


 飛鷹の声が飛ぶ。


「お前も動け!!ここは“見学”する場所ちゃうぞ!!」

「っ……!」


 胸が熱くなる。


(……そうだ。俺は……律を追いに来たんだろ)


 颯茜は震える足に力を込めた。

 影が再び跳ぶ。飛鷹が受け止め、カランコエが横から切り込む。

 二人の動きが、颯茜の視界に焼き付く。


(俺も……動かなきゃ……!)


 颯茜は息を吸い、影の背後へと走り出した。


 初めての戦闘。

 足は震え、呼吸は乱れ、それでも、颯茜は前へ踏み出した。

 サクラから渡された銃を構え──発砲


「っ!!?」


 動きながら、というのは難しく、銃の反動で吹っ飛ばされると直感で感じる。


「──ッ゛!ヤバ」


 影は攻撃を易々とすり抜け、その腕を颯茜に振り下ろさんと構えた。

 だが、その攻撃が颯茜に当たることはなかった。


「チンタラやってんなッ!!」

『ヴォォォ!!!』


 断末魔を尻目に、尻もちついた体勢で飛鷹を見上げた。

 だが──


「さっさと立ち上がらんかい!!」

「──────」


 鼓動が早まる。

 ドクッ、と全ての雑音を消すかのように響く音に、目の前の男に奪われる。

 飛鷹の怒声が、胸の奥に突き刺さった。


「覚悟決めんかい!ワイらは、何のためにおんねん!

 チームやろがッ!!」


 その言葉が、颯茜の中の何かを強く揺さぶった。


(……チーム……)


 自分はただ“連れてこられた”だけだと思っていた。 足手まといで、守られる側で、律を追うために“置いてもらってる”だけだと。


 でも──違う。


 飛鷹の目は、“仲間として見ている者の目”だった。

 カランコエも同じだった。

 弱々しく見えても、颯茜を庇って動いた。

 命を張って。


(……俺だけ、逃げてる場合じゃねぇだろ)


 颯茜は歯を食いしばり、地面を蹴った。


「……っ、くそ……!」


 震える足を無理やり立たせる。

 呼吸は荒い。心臓は爆発しそうだ。


 それでも──前に出る。


「飛鷹!カランコエ!俺……まだやれる!!」


 影が再び跳んだ。

 飛鷹が正面で受け止め、カランコエが横から刃を滑り込ませる。


「颯茜さん!右側、空いてます!!」


 カランコエの声が飛ぶ。

 颯茜は反射的に動いた。

 影の死角へ回り込み、銃を構える。


(……当てる……!今度こそ……!)


 震える指で引き金を引く。


 ──パンッ!


 銃声が廃工場に響いた。

 弾丸は影の肩をかすめ、黒い体液が飛び散る。


「ッ……当たった……!」


 ほんのわずかでも、確かに“自分の一撃”が届いた。


「ナイスや!!颯茜!!」


 飛鷹が叫ぶ。

 その声は、叱咤ではなく──称賛だった。

 影が怒り狂ったように暴れ、飛鷹の拳を弾き飛ばす。


「ちっ……!」

「飛鷹さん!!」


 カランコエが飛び込もうとした瞬間──


「俺が行く!!」


 颯茜が影の前に飛び出した。


(怖い……怖いけど……!ここで逃げたら、何も変わらねぇ!!)


 影の腕が振り下ろされる。

 颯茜は咄嗟に銃を横に構え、その腕を受け止めた。


「ぐっ……!!」


 腕が痺れる。

 骨が軋む。

 ──それでも、踏ん張った。


「嬢ちゃん!!今や!!」

「はい!!」


 飛鷹の声に合わせ、カランコエが影の背後へ滑り込み──刃が、影の首元を深く切り裂いた。


『ギャアアアアアッ!!』


 影が崩れ落ちる。

 颯茜はその場に膝をつく。呼吸が荒く、視界が揺れる。


「……はぁ……っ……はぁ……っ……」


 飛鷹が駆け寄り、颯茜の肩を掴んだ。


「ようやった!初戦でここまで動ける奴、そうおらんで!」


 カランコエも息を切らしながら微笑む。


「颯茜さん……すごかったです……!」


 颯茜は俯き、震える拳を握りしめた。


(……俺……やれた……)


 ほんの少しだけ、律の背中に近づけた気がした。

 だが──


「……まだ終わりじゃないですよ」


 カランコエの声が震えた。


「え……?」


 飛鷹が険しい顔で前方を睨む。


「颯茜……あれ、見てみ」


 颯茜が顔を上げた。

 廃工場の奥、闇の中でさっきの影とは比べ物にならない“巨大な影”が、ゆっくりと立ち上がっていた。


「っ……なんだ、あれ……」

「前は見いひんかったで……あんなバケモノ」


 そんな苦言を呈す中、そっと隣を見る。

 決意に、覚悟に、恐怖に勇敢に立ち向かった少女と青年はどこか、口角を上げていた。

 その光景に、連鎖するかのごとく、口角が上がる。

 巨大な影が、ゆっくりと姿を起こした。


 ギギ……ギギギ……

 金属が軋むような音が、廃工場の空気を震わせる。


 その“何か”は、さっきの影とは明らかに違った。

 質量が違う。

 存在感が違う。

 そこに立っているだけで、空気が押し潰されるような圧があった。


「……っ、デカ……」


 颯茜の喉が勝手に鳴った。

 恐怖というより、本能が警鐘を鳴らしている。


 飛鷹が舌打ちし、拳を握り直す。


「嬢ちゃん……あれ、任務書に載ってへんやつやな?」

「……はい。完全に……“想定外”です……」


 カランコエの声が震えている。

 だが、その目は鋭く、逃げる気配は一切なかった。


(……すげぇな、こいつら)


 颯茜は思わず二人を見た。

 恐怖はあるはずなのに、二人とも前を向いている。

 その姿に、胸の奥が熱くなる。


 巨大な影が、ゆっくりと前傾姿勢になった。


 ──来る。


「飛鷹さん、右から! 私は左を取ります!!」

「任せぇ!!」


 二人が同時に地面を蹴った。

 颯茜の目には、二人の動きが“風”のように見えた。


 飛鷹の拳が影の右側へ叩き込まれる。

 カランコエの刃が左側を切り裂く。


 だが──


「……効いてねぇ……!?」


 影は微動だにしなかった。

 まるで、蚊に刺された程度の反応すらない。


「嬢ちゃん、下がれ!!」


 飛鷹が叫ぶ。

 次の瞬間、巨大な影の腕が横薙ぎに振るわれた。


 空気が爆ぜる。


「っ──!」


 飛鷹とカランコエが同時に吹き飛ばされた。

 鉄骨に激突し、鈍い音が響く。


「飛鷹!!カランコエ!!」


 颯茜が叫ぶ。

 二人はすぐに立ち上がったが、明らかにダメージが大きい。


「……っ、あかん……硬すぎる……!」

「攻撃が……通りません……!」


 巨大な影が、ゆっくりと颯茜たちへ向き直る。


 その“目”のような部分が、赤く光った。


(……やばい……!)


 颯茜の背筋が凍る。

 逃げろ、と本能が叫ぶ。


 だが──


「颯茜さん!!」


 カランコエの声が飛ぶ。


「あなたの銃……“あれ”にだけは通るはずです!!」


「……え?」


 颯茜は思わず銃を見る。

 サクラから渡された、あの黒い銃。


『これは秘密警察特別製だよ。使い倒すといい』


 サクラの言葉が蘇る。


(……これなら……!)


 巨大な影が、颯茜へ向かって踏み込んだ。

 地面が揺れる。


「颯茜!!撃て!!」


 飛鷹の怒声。

 カランコエの叫び。

 颯茜は震える手で銃を構えた。


(怖い……でも……!)


 律の背中が脳裏に浮かぶ。


(──俺は、あいつに追いつくために来たんだろ!!)


 引き金を引いた。


 ──パンッ!!


 銃声が響く。

 弾丸は一直線に巨大な影の胸へ吸い込まれ、次の瞬間。

 影の胸が、内側から爆ぜた。


『グォォォォォォォッ!!』


 影が苦悶の声を上げ、よろめく。


「効いとる!!颯茜、もう一発や!!」


 だが、颯茜は反動のせいか、銃が手から離れそうになる。


(ッ────クソッ……!)


 決死の思いでこらえたが、現実は非常にも奇跡というのを許さなかった。


「颯茜!私がいます!」


 その瞬間、後ろから包まれる。

 手の上から銃を握られ、支えるようにカランコエから支援を受ける。

 その事実に驚きながらも、間髪入れずに


 ──パンッ!


 放つ。

 弾丸が影の肩を貫き、黒い体液が飛び散る。


 影が膝をついた。


「今です!!飛鷹さん!!」

「任せぇぇぇッ!!」


 飛鷹が地面を砕く勢いで跳び上がり、影の頭部へ拳を叩き込む。


「どりゃあああああッ!!」


 ───轟音。


 影の頭部が粉砕され、巨体がゆっくりと崩れ落ちた。その瞬間、場は静寂に包まれる。

 颯茜はその場にへたり込んだ。

 呼吸が荒く、手が震えている。


「……はぁ……っ……はぁ……っ……」


 飛鷹が笑いながら近づいてきた。


「やるやんけ、颯茜!!お前の一撃がなかったら、詰んどったで!!」


 カランコエも微笑む。


「……本当に……すごかったです……颯茜さん……!」


 颯茜は俯き、震える拳を握りしめた。


(……俺……本当に……)


 胸の奥が熱くなる。


(……チームの一員として……戦えた……)


 その実感が、ゆっくりと身体に染み込んでいった。

 だが──


「……颯茜さん」


 カランコエの声が、急に硬くなる。


「任務は……まだ終わってません」


 颯茜が顔を上げる。

 廃工場の奥。

 巨大な影が倒れていた場所のさらに向こう。

 黒い扉が、音もなく開いた。


「───いいや、これは完全なる想定外(イレギュラー)さ」

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