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第1章 9話 発酵勇者召喚される

朝の王都は、まだほんのりヨーグルトの匂いがした。

通りを歩くと、教団の使徒たちが掲示板の前で人々を見張っている。

貼られた最新の号外には、二人の写真が大きく掲載されていた。


『発酵勇者、王都を救う』



写真には、修一とリリィが肩を並べている姿が写っている。

人々の視線は自然と二人に集まり、あちこちで小さなざわめきが起こった。


そのとき、号外を手にした記者たちが駆け寄ってきた。

「勇者様! 昨日の現場について、ぜひお話を!」

「アルトレイン様も、どのようにご活躍されたのか……!」


記者の一人は手にメモ帳を持ち、もう一人は筆記用具を構えて口を開いた。

魔道カメラのシャッター音が数回響き、街角で立ち止まっていた人々も好奇心で集まり始める。

子供たちは「勇者様だ!」と声を上げ、商人たちは露店の商品の手を止め、ざわざわと見守る。


リリィは軽く眉をひそめ、写真での自分の表情を思い浮かべた。

「……もうちょっと可愛く撮れなかったのかしら」

「あ、あと貴方なんかヘラヘラして、間抜け面に見えるわよ」


修一は顔をしかめながらも、小声で苦笑した。

「……いや、笑顔のつもりだったんだけどな……」


記者たちは二人のやり取りなどお構いなしに質問を重ねる。

「昨日の暴走の瞬間、危険は感じませんでしたか?」

「発酵勇者として、国民に伝えたいことは?」


リリィは目を細め、手早く答える。

「昨日は無事でした。王都の皆さん、ご心配なく」

修一も短く答え、ぎこちなくも頭を下げる。

(……街の注目を浴びるのも悪くないが、今日の本番はこれからだ……)


記者たちが去っても、街のざわめきはしばらく続いた。



リリィはため息をつき、修一の腕を軽く引く。

「……そろそろ行きましょ。人ごみから離れた方がいいわ」


二人は石畳の通りを歩きながら、群衆の視線から少しずつ離れていった。

通りの喧騒が遠ざかり、ようやく静かになったところで、修一が小声で尋ねた。


「なあ、昨日のあれ、結局なんだったんだ?」

「あれは...なかったことになってる。」

「なかった?」

「王国祝福庁が、正式に神の奇跡として処理したの。

炉の異常も、魔力過飽和も、一切公表しない。……そういうこと。」


「つまり、隠してるわけだ。」

「隠すというより、形を整えるの。

王国の神話体系に発酵勇者という新しい祝福を組み込む。

そしてリリィも、形式上もう一人の勇者として表彰されるのよ。

勇者を導き、発酵させ国を大災難から救った、もう一人の英雄として」


「神話づくりのために呼ばれたってわけか。めでてぇ話だな。」

「あなたは生きた証拠なの。だから消せない。

だからこそ、英雄にする。それが一番都合がいい。」


「……都合がいいな。」

リリィが視線を逸らす。


「……都合がいいな。」


リリィが視線を逸らす。

その瞬間、背後から白装束の使徒たちが歩み寄った。


「発酵勇者殿、ならびにリリィ=アルトレイン卿。

 王命により、至急王城へお越し願います。」


リリィは小さく息を吐いた。

「……やっぱり来たわね。」


「神話の主人公ってのは、忙しいもんだな。」


小声で呟く。

「てかアルトレイン卿って何? お前、偉いやつなのか?」


「……後で説明するわ。」


「絶対な。逃げんなよ。」


「はいはい、今は行くのが先。」


白装束の使徒たちが静かに道を開く。

二人は顔を見合わせ、

王城の大扉へと向かった。


その奥、玉座の間に漂うのは、かつてないほど濃い発酵臭だった。



白装束の使徒たちが静かに道を開く。

二人は顔を見合わせ、王城の大扉へと向かった。

その奥、玉座の間に漂うのは、かつてないほど濃い発酵臭だった

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