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第4章 5話 戦いの終わりと新たなる道標

魔物がすべて斃され、最後の一体が崩れ落ちた瞬間──

町の兵士たちは、その場にへたり込むように腰を落とした。


「……助かった……!」

「もう終わりだと思った……!」

「生きてる……まだ、生きてる……!」


戦場に、安堵のざわめきが広がる。


ガルドは盾を背に戻し、息を整えるリリィの肩を軽くたたいた。

二人とも傷らしい傷はない。

圧倒的な実力差の証だった。


そこへ、町長が駆け寄ってきた。

疲れ切った顔に、それでも救いを見つけたような微笑が浮かんでいる。


「修一殿……リリィ殿……ガルド殿……!

 毎度毎度、本当にすまん……!

 まさかボンボン商会の連中が、ここまで

 町を売り渡すとは思いもしなかった……!」


町長は震える手で額を押さえた。


「奴らの倉庫は……既にもぬけの殻だ。

 金銀財宝も、買い付けの品も……全部なくなっておる。」


「んだよ……やっぱ綺麗に持っていきやがったか」

修一が嘆息した、そのとき。


「町長!」


兵士が数人、荒縄で縛り上げた男たちを引き連れて駆けてきた。

ボンボン商会の手下、そこそこ地位のあった代理人を筆頭に十数名。


代理人は顔を伏せ、ひざまずくようにして町長の前に押し出された。


「た、助けてください町長!

 我らは……まさか、若旦那が……

 自分だけ逃げるとは……聞いてなかったのです!」


情けないほど震える声だった。


「私たちは……ボンボン様の努力が報われれば、

 いずれ貴族に推挙してくださると……そう信じて……

 長年、粉骨砕身で働いてきたのです……!」


涙を浮かべている者もいる。

だが、縛られた連中は皆、ショックで気力を失い、しょんぼりとうなだれていた。


町長は、険しい表情で彼らを見下ろした。


「信じるのは勝手だが……

 その裏でどれほど町の民が苦しんだと思っておる!」


代理人は泣きながら頭を地面につけた。


「申し訳ございません!

 どうか、この罪を――!」


そこで、まだ幼い姿の修一が一歩出た。


兵士たちが「子どもが……?」とざわつく中、

修一は落ち着いた声で言った。


「罪は罪だ。

 だけど――こうして逃げずに残ったってことは、

 どこかで間違ってたって思ってんだろ?」


縛られた男たちは、ゆっくりと顔を上げた。


修一は続ける。


「だったら、この町に残れ。

 逃げるな。

 町の人たちと一緒にやり直せ。

 今までの分を返すぐらい働け。

 ……それが一番の罪滅ぼしだ。」


子供の姿で、しかし中身は大人。

その静かな言葉は、逆に強い重みをもっていた。


代理人は胸を震わせ、涙をぽろぽろこぼした。


「……はい……!

 必ず……必ずやり直します……!」


町長が深くうなずくと、静かに言葉を続けた。


「――よし。償いはこれからだ。

 だが勘違いするなよ。お前たちの罪が消えるわけではない。

 今は人手が足りん。監視付きで働いてもらう。逃げるようなら即刻、国へ突き出す。

 そのつもりで、町の復興に力を貸せ。」


縛られた代理人たちはごくりと息をのみ、深く頭を垂れた。


「……は、はい……!

 必ず……必ず償ってみせます……!」



静まり返っていた町には少しずつ、ふだんの人声が戻り始めていた。

そんな光景を見つめながら、修一は内心で思った。


そんな光景を横目に、修一は静かに思った。


(……まあ、これでとりあえず終わり、ってだけだな。

 ボンボン商会の件、本番はここからだ)


───



町長が魔石の喪失を重く語り終えると、場に沈黙が落ちた。


修一は腕を組み、天井を仰ぐ。


「魔石……ってさ。

 俺たちがあの馬車追放イベント食らった時に付いてたやつだよな?」


リリィが苦い顔でうなずく。


「ええ。あれでも小型だけど、ものすごく高価なの。

 まして町全体を覆う規模……値段は跳ね上がるし、

 扱えるのは貴族か上級商会だけ。

 普通は市場に出回らないわ。」


「はあ……やっぱ簡単にはいかないか。」


修一がため息をつく。

リリィはふと困ったようにガルドへ視線を向けた。


「ガルド。昔森で少しだけ魔石が取れるって聞いたことあるけど……何か知らない?」


ガルドは腕を組み直し、言いにくそうに口を開く。


「ああ……妖狐族の里で生成される特別な魔石の噂なら聞いたことがある。

 だが、あ奴らは我々魔族とすら交流を持たぬ、徹底して閉ざされた一族だ。

 頼んでも通じるかどうか……」


修一が目を見開く。


「そんなにか。九尾のむらおさでも連絡取れないことあるんだな。」


「ああ。そもそも我々の里に低級魔物が襲ってくることもない。

 必要がなければ、無理に交流しようとはしない。それだけだ。」


ガルドが淡々と答える。


町長が腕を組みながら眉を寄せた。


「となると……

 ボンボン商会が逃げ込んだエカテルンブルクまで追い、

 奪われた魔石を取り返すしかないのか……?

 だが相手“魔石搭載の馬車。とても追いつけまい。」


修一がぽつりと漏らす。


「ってなると、エカテルンブルクで奪い返すか、妖狐族に頼るかの二択か。

 どっちもまあ、望み薄だな……」


そう言いかけて、ふと何かを思い出したように顔を上げる。


「あ、そうだ。リリィから聞いたんだけどさ。

 《古尾》の羽って、どの種族も持ってたりするのか?

 むらおさ、持ってたりしないの?」


リリィが瞬きをし、それから小さく口を開く。


「古尾の……あっ。」


彼女は腰の小袋に手を入れて探り始めた。

修一とガルドは同時に首を傾げる。


やがてリリィは、そっと微笑みながら一枚の白い羽を取り出した。


火の粉のような淡い光を反射する、白銀の羽。


ガルドが目を見開く。


「……これは……?

 どこで手に入れた……?」


「前に助けた狐の子、覚えてるでしょ?修一。

 あの子が置いていった羽よ。

 そのときはただの綺麗な羽って思ってたけど……

 今見ると、ガルドからもらった古尾の羽に似てるの。」


ガルドは羽を凝視し、低くつぶやく。


「……狐の子、か。

 狐にもいくつか種類はあるが……この形は見覚えがない。

 ひょっとすると……妖狐族のものかもしれん。」


町長が目を丸くした。


「ということは……

 妖狐族に接触する糸口になる……のか?」


ガルドがゆっくりとうなずく。


「ああ。少なくとも、この羽はただの贈り物ではない。

 感謝の証であると同時に、

 道標でもあるのかもしれん。」


修一は息を呑む。


「……あの時の善行が、ここで効いてくるってわけか。」


リリィは嬉しそうに微笑んだ。


「私たち、ただ困ってる子を放っておけなかっただけなんだけど……

 巡り巡って返ってくるものなのね」


───



魔物の残骸が片付けられ、ようやく場に静けさが戻ったころ。

修一たちは町役場へと移り、簡易の会議室で状況整理が始まっていた。

窓の外では、まだ兵や町人たちが忙しく動き回っている。


しかしガルドは戦いの勝利にも関わらず、まったく油断していなかった。

「……森からの魔物は、完全に鎮まったわけじゃない。」

その言葉に、町長は顔をこわばらせる。


「ま、まだ来るというのか……?」


ガルドは静かにうなずいた。

「低級魔物は特にしつこい。

 一度道を覚えると、しばらくは周囲をうろつき続ける。

 俺がここにいる間は睨みが利くが……誰もいなくなれば、また寄ってくるぞ。」

その言葉に、場の空気がぴんと張りつめる。

「……本来、狼族の務めは森の巡回だ。

 だが今は状況が状況だ。後任が来るまでは、この町に留まろう。」

町長は胸をなでおろし、深く頭を下げた。

「た、助かります。ガルド殿がいてくださるだけで、どれほど心強いか……。」


ガルドは小さく息をつき、懐から古びた紙束を取り出した。

「そういえば、以前そなたらが渡してきた計画書にな、『森の外縁に中継所を作る』とあっただろう。

 あれは悪くない案だ。森と人の往来が整理されれば、互いにとって楽になる。」


ガルドは腕を組み、ゆっくりと言った。


「……ただし、建物を建てたり道を整えたりするのは専門外だ。

 俺たち狼族の本分は、あくまで守りと巡回。

 人の町を造るのは、やはりこの町の者に任せるのがよいだろう」


町長が緊張した面持ちでうなずく。


「で、では……職人たちはこちらで手配しよう。

 あなたには、何を?」


「森寄りの安全確保と、中継地の骨組みだ。

 どこに路をつなぎ、どこまでを守るか

 その判断は、森を知る俺の役目だろう。」


町長は深く頷く。

「……ガルド殿。

 ここまで力を貸していただけるとは、本当に心強い。

 町としても、全力で支援しよう。」


ガルドは軽く頷き、修一の方を見やる。

「まあ、俺も、いつまでも外に居るわけにはいけない。

 いずれ後任が里から来る。

 それまでは……魔物を黙らせておくためにも、

 ここに留まらねばならん。」


修一がゆっくりとうなずく。


「……。

 じゃあ、とりあえず最初の道筋だけ、ガルドに見てもらうってことか。」


「路筋と境界の見極めは俺がやる。

 ……だが、その羽のことは俺にも断定できん。

 まずはむらおさに見せて、森の古い知識を聞くがよい。

 判断がついたら、その先で森へ向かうといい。」


修一がガルドの方を向く。

「じゃあ、俺たちはむらおさのところへ行く。

 ガルドは……頼んだ。」

リリィも静かに頭を下げた。


ガルドは短くうなずき、町長たちの方へと歩いていく。

「こちらは任せろ。……気をつけて行け。」


二人は役場を出て、森へ続く小道へ向かった。

ひんやりとした風が吹き抜け、木々のざわめきが次第に大きくなる。

こうして修一とリリィは、むらおさの待つ森の里へ向けて足を踏み出した。

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