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第4章 4話 進化と町の危機

修一たちはベルガ村長に支援を申し出て、村との共栄を提案する。

外では泥人形が進化し、念話で修一に応答。村と森を結ぶ道づくりを始め、

共栄圏構想が静かに動き出した。


───



ガルドは泥人形をじっと見つめ、低くつぶやいた。


「……最近、森の腐素値が上がっているのを感じる。

 腐素が濃くなればなるほど、我ら魔族は進化に近い変化を起こす。

 むらおさが若い頃には、今ほど喋れる個体も多くなかったと聞く」


リリィが小さく息をのむ。


「じゃあ……この泥人形も?」


ガルドはゆっくりとうなずいた。


「魔道水道の腐素が長く滞った土地だ。

 濃い腐素の中で生まれた泥は、稀に核を得ることもあるのかもな

 あれは、土地そのものの意思が、少しずつ形になりつつあるのかもしれん」


修一が眉をひそめる。


「森の腐素が上がってる理由って……何か心当たりあるのか?」


「分からん。ただ……何かの兆しであることは間違いない。

 進化が進むのは我ら魔族だけではあるまい。

 土地もまた、その影響を受けるはずだからな」


泥人形はその間にも黙々と土をふるっていた。

その動きは、ほんのわずかだが前より滑らかで、人の作業にも近い。


───



泥人形に森までの整備を命じ、修一たちは一息つこうと村の中央通りへ向かっていた。


その途中だった。


「修一殿! リリィ殿!」


枯れ枝のように震える声が響き、ひとりの男が転がり込むように走ってきた。

サナトラ町の伝令兵だ。寝ずに三日三晩走ってきたのか、屈強な兵士のはずの顔色が土のように青い。


「どうしたんだ? なにがあった? おい、とにかく休め!」


修一が肩を支えると、男はかすれた息を押し出すように叫んだ。


「町が……町が襲われております!

 外壁の魔石が……何者かに持ち去られ……!

 結界の穴から魔物が押し寄せ……町が危機でありますッ!」


リリィが息を呑む。


「ま、魔石を盗むなんて……そんな真似、誰が……」


伝令兵は唇を噛み、悔しさをたっぷりに絞り出すように言った。


「ボンボン商会です……!

 改革派に追われて恨んだのでしょう。

 結界柱の魔石を二つ引き抜き、馬車で逃亡したと……!

 見回り兵が気づいた瞬間、奴らは黄金と物資を積み、

 そのまま港と都市エカテルンブルク方向へ……!」


修一は眉間を指で押さえた。


「……はあ。またあいつか。短絡的にもほどがあるだろ、あのバカ」


その時、駆けつけてきたベルガ村長が息を整えながら言った。


「修一殿、リリィ殿。久しぶりゆえ、本当はゆっくりしていけと言いたかったが……事情が事情じゃ。

 沈み屋も綺麗に整えておったんだがのう……」


わずかに寂しげに目を細め、それでもすぐ顔を引き締める。


「道すがら、気を張っていくんじゃぞ。町はお主らを必要としておる」


村長は修一の肩を叩き、背中を押すように一歩下がった。


修一はリリィ、ガルドと目を合わせる。


「行くぞ」

ガルドは森から来ていた魔物たちに鋭い声で指示を飛ばす。


「荷降ろしは完了しているな!?

 まだ間に合うかもしれん。お前たちは至急森へ戻れ!

 俺は修一たちと町へ向かう。最短距離でだ!

 森へ着いたら、むらおさに伝えろ『サナトラ救援を』とな!」


魔物たちは力強くうなずき、森へ駆け戻る。


修一、リリィ、ガルドの三人は、荒い土煙を蹴り上げながら町へと全力で走り出した。


───



サナトラ町に戻る頃には、遠くからでも騒ぎがわかった。

外壁の一部が崩れ、兵士たちが魔物の侵入を必死に食い止めている。だが、まだ決壊はしていない――ぎりぎり踏みとどまっている状態だった。


「急ごう!」


リリィが杖を握り直し、修一と並んで駆けだす。


崩れた門の前では、低級魔物たちがうねるように押し寄せていた。

しかし、ガルドの姿を見た瞬間、いくつかはビクリと震え、音もなく森へ逃げ返っていく。


「……効くんだな、威圧って」


修一がつぶやくと、ガルドは肩をすくめた。


「森の浅いところの小物どもだ。魔族の気配が苦手でな」


それでも、何体かは残り、牙をむく。


ガルドが前に出た。

彼は剣ではなく、腕に構えた分厚い盾を鳴らすように叩きつける。


「来い!」


突進してきた魔物は、その一撃で横に弾き飛ばされ、土煙を上げて転がった。

続く二体には拳骨が飛び、鉄塊でも振り下ろしたかのような衝撃音が響く。


彼は武器を使わない方が、むしろ強い。


リリィもその横に滑り込む。

拳と蹴りで魔物の急所だけを正確に撃ち抜き、関節を折り、体勢を崩した敵をガルドの前へ投げ込む。


「任せろ!」


投げ込まれた魔物に、ガルドが盾を叩きつける。

重い打撃音が響き、周囲の魔物が怯んだ。


魔族二人の徒手戦闘は、町の兵たちとは格が違う。

修一は戦況を見ながらリリィに声をかける。


「リリィ、魔石の代わりに一時的な結界とかできないのか?

 ほんの数分でも持てば──」


「無理よ。浄化術はそんな万能じゃないわ。

 空気を澄ませたり傷を癒したり、そういう補助程度。

 広範囲を守るなんてできないの」


「……そっか。悪い、焦った」


「気持ちはわかるけどね。でも、できることからよ」


二人の短い会話の間にも、ガルドは前線を押し返し、魔物の波が徐々に弱まっていく。

ようやく門前が落ち着きを取り戻し、町兵たちにも安堵の色が戻った。

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