第4章 3話 森と村の共栄へ
森の援軍とともにスィレン村へ食糧を届けた修一たち。
村は泥人形の働きで土地がよみがえり、希望が戻りつつあった。
子供姿の修一に村人は混乱するが、救援は無事到着。
一行は村長の元へ向かい、今後の協力体制を話し合うことになる。
───
ベルガ村長の家は、村の中央にぽつんと建つ古い木造の家だった。
ドアを軽く叩くと、かすれた声が返ってきた。
「……入っといで」
中へ入ると、薄暗い部屋の奥で村長がこちらを見た。
ガルドの姿を目にした瞬間、村長の目がわずかに見開かれる。
「お、お前さんは……魔族……?」
ガルドは静かに頭を下げた。
「話を聞き、救援が必要だと判断した。名をガルドという」
村長は驚きながらも、どこか懐かしむような息を吐いた。
「……そうか。森の者か。いやな、魔族と言っても恐れるほどでもないわい。昔を思い出す」
修一が首をかしげた。
「昔?」
「若い頃はのう、あちこちを旅して、いろんな連中と巡り会ったもんじゃ。
森のハズレあたりで偶然会った奴がいてな、妙に博識なやつで。そいつと長く旅をしたものだ
……今ごろ、どうしてるんじゃろうな」
村長は懐かしむように目を細め、静かに微笑んだ。
ガルドの姿に怯えない理由は、どうやらそういうことらしい。
村長は姿勢を正し、深く頭を下げた。
「食糧を持ってきてくれたそうだが...。だが、この村には金もなにも無い。タダで受け取るのは……」
修一が手を振った。
「気にしなくていいです、困ってるなら助けるだけです」
リリィが横でうなずく。
「私もよ。私たち2人だけで直ぐに使い切れる量でもないし、無駄使いするよりより有意義だわ」
修一が続ける。
「これは俺個人の希望でしかありませんが、森と村が、互いに助け合う形になればと思ってます。
土地も、泥人形たちが……勝手にですけど、もう整え始めてるし」
村長はしばらく黙っていたが、やがて深く息をついた。
「……ありがたい話だ。助けられてばかりで情けないが……」
「ああ、そんなに気負わなくていいよ。
一応だけど、俺は王様からバクフーン湿原の管理責任者って肩書きをもらってるんだ。
だから、ある意味では当たり前のことをしてるだけっていうかね」
村長は驚いたように修一を見つめ、それからゆっくり微笑んだ。
「助けたいと思ってくれる者がいるだけで、この村は恵まれておるよ」
修一は頭をかきながら、視線をそらした。
「そんな大層なもんじゃなくて……
ただ、縁ができたんでね。森も村も、その先の町も……つながってた方がみんな楽だろうし。
世界中なんて無理ですけど、せめて見知った人くらいは、苦しまなくていいようにしたいだけです」
その言葉に、村長は深くうなずいた。
「ならば、ワシも協力しよう。返せる余裕は今の村にはないが……受けた恩は、必ず返す」
リリィが笑う。
「返そうとか思わなくていいのよ。ゆっくり、村が元気になってからで」
修一も静かに言葉を添える。
「森にも異種族がいるし、町にも事情がある。
村は俺がこっちに来て、王都から追い出されて最初に出会った場所だから……やっぱり放っとけないだけです」
こうして修一の、森と村、そして町をつないだ共栄圏の構想が、確かな形として動き始めた。
外では、泥人形たちが黙々と大地を耕している。
崩れかけた家々にも光が差し、村にわずかだが未来の匂いが漂い始めていた。
───
村長の家を出た時、修一はふと立ち止まった。
広い畑の端で、泥人形がひとつ、ゆっくりと土をふるいにかけている。
前に見たときよりも明らかに細い。
「……あれ、なんか細くなってない?」
リリィも目を丸くする。
「ほんとだ。前はドロ!って感じだったのに……」
ぎこちなくも、確かに腕らしきものが土をすくい、
腐った根を選別して脇に置いていく。
顔の位置らしき窪みには、
うっすらと目の影みたいなものが浮かんでいた。
修一が声をかける。
「おーい、聞こえてるか?」
泥人形は動きを止め、
きしむような動作でこちらへ首を向けた。
その瞬間
(……おう、さま……ごめい……れい……?)
頭の奥に、かすれた声が染み込んできた。
修一は眉を跳ね上げる。
「……喋った?」
「え、なにが?」リリィが首をかしげる。
「いや、頭の中に語りかけてきた。王様……命令を、って」
泥人形は返事の代わりに、
土を抱えたまま、こてん、と小さくうなずいた。
形はまだ曖昧なのに、
その従順さだけは不自然なほどはっきりしていて、胸の奥がざわついた。
修一は頭の中でひそかに呼びかけてみる。
(これどういうことだ?)
『 あー、たぶん進化したんでしょうねそれだけ土地が蘇ったってやつでしょ。土地神さまみたいなやつよ』
(へぇそんなもんなのか)
『そのうち喋れるようにも自我を持ち出すようにもなるのかもしれないわね、お楽しみ要素よね』
リリィは苦笑して肩をすくめた。
「修一の周り、未知だらけすぎて……
まあ、いまさら驚かないけど。慣れって怖いわね」
修一は泥人形へ向き直った。
「……よし。ちょっとだけ試してみるか」
どろりとした目が、かすかに修一を見上げる。
指をさしながら命じた。
「建物を建て直せ。あそこの崩れかけの家、わかるか?」
頭の奥に、割れたような念話が返ってきた。
(……できない……)
「できないのか」
『ちょっとあんた話聞いてた? 赤ん坊に家建てろって言ってるようなもんよ。
知識ゼロで建築は無理でしょ』
(そ、そういうもんか……。人間臭いというか、成長させる必要もあるんだな)
修一は腕を組み、すぐ次の指示を切り替える。
「じゃあ村はそのままでいい。
代わりに、森の里までの道を整えてくれ」
一拍おいて──
(……わかった……)
泥人形は静かに向きを変え、村の外へ歩き出した。
頼りない細さなのに、どこか“意志”の線が通っている。
泥人形の背中が森の方へ小さくなっていくのを見送りながら、
修一はふと、次の指示も出しておくべきだと思い立った。
「……あ、そうだ。聞こえるか?」
泥人形は、遠く離れているのにぴたりと足を止めた。
わずかに首だけこちらへ向ける。
(……おう、さま……?)
修一は続ける。
「森の里までの道を整え終わったら……
そのあとは、この村の村長の指示に従え。
村の役に立つことは何でもしていい」
少し間が空き──
(…………わかった……。そん……ちょう……)
土の胸元あたりを、ぎゅ、と小さく握りしめるような仕草。
命令の意味を、幼い頭なりに噛みしめているように見えた。
リリィが感心したように笑う。
「ちゃんと理解してるわねあれ……。
なんかもう、ペットというか……村の新人って感じ」
修一は肩をすくめた。
「働きすぎて壊れなきゃいいけどな。
まあ、村長が止めてくれるだろ」
泥人形は再び歩き出し、やがて森の影に消えていった。
その背中は、たしかに働く意思を持った者のそれになりつつあった。




