第4章 2話 村に届いた希望
「修一が目を覚ますより早く、
森ではもう荷が積まれ、護送隊が列を作っていた。
「……はやっ」
思わず漏れた修一の声に、ガルドが静かに振り向く。
「言っただろう。森は助けると決めれば速い、と」
尾の影が揺れ、気配が引き締まっていた。
「スィレン村まで、最短で動くぞ」
ガルドは淡々と答えた。
「問題ない。夜のうちに森の路を通した。
人間の地図には載らぬが、我らには普通の道だ」
後方では、四足獣のように動く蔦の荷車が、
無音のまま地面を滑るように前進していく。
「魔物は?」と修一。
「前衛がもう掃いてある。
お前は後ろで揺られていればいい」
あまりに段取りの良さに、修一は思わず苦笑した。
「森って……やる時は本気だな」
「当たり前だ。助けると決めたのだから」
ガルドの尾がぴたりと止まり、全隊が動き出す。
「行くぞ。」
森は音もなく、しかし確実に、救援のために動き始めていた。
森の護送隊は、道なき道をひた走った。
ぬかるみも倒木もお構いなしに、魔族たちは体勢を崩さず進む。
修一
「……はえぇな、お前ら……」
ガルド
「森が本気を出せば、この程度どうということは無い」
途中で魔物の気配もあったが、
護衛役たちが一声かけるだけで散っていき、戦闘らしい戦闘もない。
そして
スィレン村入口
簡素な木柵が並ぶだけの、小さな村が見えてきた。
リリィ
「……よかった。無事ね」
畑にも家にも、破壊された跡はない。
遠くから、村人たちがこちらに気づいてざわざわと集まってくる。
───
護送隊が丘を越え、村が視界に入った瞬間だった。
「ま、魔物だぁぁぁーーーっ!!」
畑の横にいたユオが、腰を抜かしそうな声で叫ぶ。
その叫びにつられ、周囲の村人たちがざわざわと顔を上げた。
「おい待て! 落ち着けユオ! 俺だよ、修一!」
慌てて前に飛び出した修一に、ユオはさらに混乱した顔を向ける。
「だ、誰だよあんた!?
なんで俺の名前知ってんだよ!!」
「いやだから俺だって……!」
見かねたリリィが、額を押さえて前に出る。
「はいはいストップ。ユオ、この子が修一よ。
……まあいろいろあって子供になっちゃったの。気にしないで」
「え、えぇ……? 修一さんって……そ、その……こんな感じでしたっけ……?」
「違うけど、事情あんだよ……」
ユオは修一→リリィ→魔族の一行を見渡し、さらに混乱した。
「リリィさんは変わってないけど……
なんで魔物が……? 敵じゃ……?」
「敵じゃないわよ。
今日ここに来てる人たちは、全員味方って覚えておいて」
「……味方?」
リリィはユオの肩を軽く押した。
「とりあえず村長さんに急いで知らせてきて。
私たちは荷降ろしするから。
食糧、いっぱい持ってきたわ」
「た、食糧!? 本当に!?
わ、分かった! すぐ言ってくる!!」
ユオは一目散に村へ駆けていった。
後ろでガルドが小さく漏らす。
「……騒がせてしまったな」
「いや、普通ああなるって。むしろ想定内だわ」
リリィが手を叩く。
「さ、運ぶわよ。急がないと」
森の護送隊は一斉に荷を担ぎ、村の中へと足を踏み入れていった。
こうして、スィレン村への救援はようやく届いた。
村へ足を踏み入れた瞬間、修一は思わず目を細めた。
(……なんだこれ。俺たちが出てるときは荒れ果てていたのに)
リリィの背に揺れる籠から、修一がぴょこりと顔を出す。
その視線の先には、村全体をぐるりと囲むように耕された黒々とした土が広がっていた。
村の建物は相変わらず古く、ところどころ板が抜け、屋根も傾いている。
しかし、地面だけは見違えるほど整えられていた。
(……畑ってレベルじゃねぇな。これ、村の外周まで全部やってんじゃん……
いやいや、どこまで広げるつもりだよ……)
泥人形はリリィたちが村から離れたあとも、黙々と耕し続けていたのだろう。
無表情のはずなのに、仕事だけは妙に熱心だ。
そこへ村人が駆け寄ってきて、息を弾ませながらリリィに頭を下げた。
───
「リリィさん! 本当に……本当に来てくださったんですな!
まさか食糧まで持ってきてくださるなんて、夢みたいで……!」
リリィは「大したことじゃないわよ」と微笑む。
別の村人が、黒い土を踏みしめながら声を上げる。
「見てくだせぇ、これ!
泥人形さんたちのおかげで、この土地……ほんとに蘇っちまった!」
「まだ芽は出てませんが、三月もすりゃあ実ります!
今年はスィレン村で、はじめて期待が持てる年になりそうで……!」
歓喜が滲む声に、修一も胸が温かくなる。
(間に合ってよかった……。
本当に、この村はぎりぎりだったもんな)
そのとき、ひとりの村人がリリィの背中を見て、首をかしげた。
「……えっと、ところで。修一さんは、一緒じゃねぇんですか?
それとその背中の……リリィさんのお子さんですか?
いやあ、よく似てて可愛いですね!」
リリィはピタッと固まり、振り返って勢いよく手を振る。
「ち、違います! 私に子供なんていません!
この子が修一よ!」
「……へ?」
村人は全力でポカンとした顔をした。
「え? え? 修一さん……? この、ちっこい……?」
修一は頭をかきながら、軽く手を挙げた。
「お、おう……修一だ……」
「なんで子供に……?」
「まあ、色々あった……」
説明しようとした瞬間、リリィが遮るように言う。
「とにかく、敵じゃないの! 修一だから! 気にしないで!」
「き、気にしないって無理ですわ……」
村人たちは口々にざわついたが、すぐに「まあ命が助かるならいっか」という空気に落ち着いていった。
スィレン村は、それどころじゃないほど追い詰められていたのだ。
ガルドが軽く顎をしゃくる。
「村長の家へ案内を頼む。荷の受け入れと、今後の段取りを話す」
「は、はい! お送りします!」
リリィ、修一、ガルドは、村人の案内に従って、ゆっくりと村の奥へ進んでいく。
倒れかけた塀、傾いた屋根。
だが足元の大地だけは、未来を感じさせる色へと変わっていた。
(……ここからだ。
森と村と街、その全部をどう繋ぐか)
修一はリリィの背に揺れる泥人形を横目で見ながら、小さく息を整えた。
――ベルガ村長との再会が、この次に待っている。




