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第4章 1話 スィレン村救援

町長は腐敗した町政の記録を修一たちに見せ、立て直しを決意。

修一は町へ大金を貸し、再建を支える。


一方、小さく弱体化した修一は移動用の背負子を用意してもらい、

リリィと共に古尾の羽が示す道を頼りに森奥の里へ向かう。


森の匂いが濃くなり、木々の影が深くなったころ。

リリィは羽根をちらっと確認しながら歩き続けた。


───



「……ちょっと見て修一。

 今日の私、迷ってない。一直線よ」


「いやお前、そんな誇ることか?

 今までどんだけ迷ってたんだよ」


「うるさい。森のせいよ。

 あそこは方向感覚が狂うの。……ほんとなんだから」

そしてほどなく、里の灯が見えてきた。

修一が小声で呟く。


「……マジかよ、ほんとに一直線で来た。

 ガルド……めっちゃ有能じゃん」

リリィもこくこく頷く。

「……なんかさ、これだと私が方向オンチみたいじゃん。

 ちょっとだけ傷つくんだけど?」


修一が即ツッコミを返す。

「ちょっとで済んでるならだいぶ強いほうだろ」


「そういうこと言う!? 繊細なんだから私!」


「繊細がその声量で主張すんなよ……」


そんな軽口がぽつぽつと続き、

二人のやり取りが里の入り口まで響いていった。



───


里の入口で見張りが顔を上げる。


「おー、リリィさん、おかえり。ガルド様に通すぞ」


二人はそのまままっすぐガルドの元へ。


ガルドは腕を組んだまま、ほんのわずかに目を丸くした。


「……迷わず来れたようだな?」


リリィは即答する。


「当然よ。道順は完璧に把握しているもの」


ガルドはふっと口元を緩める。


「そうか。

 ……里では迷いに迷ってがな...。」


リリィの笑顔が固まる。


「ちょっ……! ガルド、それ言わなくてよくない!?

 初めてだったし、構造が難しいだけだから!」


修一は背中で小さく笑った。


「やっぱ迷ってたんじゃねぇか」


「言うな!!」


軽い空気のまま、三人は奥へと進んでいった。


───



集会の間に入ると、九尾の狐、里のむらおさが静かに座していた。

年を重ねた尾がふわりと揺れ、目元は柔らかい。


「ほっほ……よく来たのう、リリィ。それに、人の子も」


胸を張ったリリィが前へ出る。


「ただいま戻りました。 連れてきたのは」


修一が一歩進み、丁寧に頭を下げた。


「はじめまして。修一と申します。

 現在、バクフーン湿原一帯の管理を任されております」


むらおさは目を細め、楽しげに声を弾ませる。


「ほっほっ。元気な子供じゃ。よう喋る目じゃのう」


「……見抜かれてる気がする」


すかさずリリィが小声で突っ込む。


「目が死んでるよりいいじゃん?」


───



修一は姿勢を正し、改めて口を開いた。


「森と町の相互不可侵、そして対等な立場での交易。

 その話はリリィから伺っていると思います。

 町ではこれまで、商会が食糧供給を独占し、半ば支配してきました」


むらおさはゆっくり頷く。


「ほっほ……聞き及んでおる。苦しい話じゃ」


「はい。町は今、変革の途中でして……。

 もし森が生産量を増やしてくだされば、その独占を崩し、

 まともな市場が成立します。森と町が対等に、利益を分け合えるはずです」


横でリリィが続けた。


「検証はまだ臨床段階ですけど

 濾過すれば安全に食べられる という結果は出ています。

 問題ないと判断された作物から、順次森か町へわけていただけたらと。」


鹿族の長が声を上げる。


「ふむ……町へさらに振り分けるとなると、耕作地の拡大が必要になるなあ」


むらおさの視線がリリィへ向く。


「して、代価はどうやって払うのじゃ?」


リリィが息を吸いかけた瞬間

九尾がふわりと尾を揺らした。


「ほっほ、人の世には金という便利な仕組みがあったのう。

 昔、姿を変えて商人として暮らしておったでな。

 多少のことなら分かるぞい」


リリィが目を丸くする。


「そうだったんですか...!...でも、それなら話が早いです。」


むらおさが続けて問う。


「で、人の子よ。金で払えばよいのだろう?

 森の作物を町が買う。単純な話じゃろう?」


修一は礼を正しつつ、首を振った。


「いえ……単純ではありますが、少し整理が必要です。

 代価として金を払うこと自体は正しいのですが、

 森と町が長く対等にやり取りするためには」


九尾がすっと引き取るように言葉をつなぐ。


「つまり、何を、どれだけ作り、どれだけ運ぶか。

 その量とながれを決めねばならんのじゃな?」


修一は深く頷いた。


「はい。そこが森と町の経済の土台になります。

 森が無理なく作れ、町が正当に買える範囲を、共同で決める必要があります」


ガルドが腕を組み、低く呟く。

「護送は我らが引き受ける。

 森の獣道は俺たちが一番よく知っている。荷の通り道も整えよう」


鹿族の長も頷く。


「土の扱いは任せよ。

 基準さえ示してくれれば、森全体で整える努力をしよう」


むらおさが穏やかに目を細める。


「九尾が人の理を知っておるならば、森も学べよう。

 ……では、今日の話し合いは

 森と町をつなぐ第一歩のための説明会ということで、よいな?」


皆が頷く。


「うむ。話は十分に伝わった。森としての腹も決まった。

 ……では、締めに入るとしよう」


むらおさが締めに入りかけたところで、修一が一歩前に出た。

声の調子がほんのわずかに低くなる。


「……それと、もう一つ。

 これは急ぎのお願いです」


場の空気が静まり返る。

ガルドも鹿族の長も、自然と視線を向けた。


「俺が最初に訪れたスィレン村ですが……

 今、備蓄が限界です。

 こちらに来ている間にも時間が過ぎてしまっていて、

 このままでは、本当に食糧が尽きかねません」


隣でリリィが息を飲んで頷く。


修一は深く頭を下げた。


「運べる分だけで構いません。

 スィレン村へ食糧を届けていただけませんか」


短い沈黙。


九本の尾がふわりと揺れ、むらおさが優しく目を細める。


「……よい。まずは救わねばならん所からじゃ。

 困っておる隣人を、森が見捨てる道理はない」


ガルドがすぐに立ち上がる。


「すぐ準備に取りかかる」


鹿族の長も続いた。


「手持ちの保存食から優先して回そう。急ごう」


空気がすっと引き締まり、

会議は説明から実際の行動へと動き出した。

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