表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/50

39話 町が動き俺たちも森へ

修一とリリィは、森の安全な食材を町に広めるため試食会を開催。

ボンボン商会がデマを流すが、ノアが冷静に反論して信用を取り戻す。

試食会は成功し、森と町の関係がわずかに前進した。


───



町役場の奥にある執務室。

大きな窓から差し込む朝の光の中で、町長は分厚い帳簿の束を机いっぱいに広げた。


「……これが、今後の計画です。

 まずは町政の立て直しから着手しますぞ、修一殿」

修一とリリィが覗き込む。


町長は一本の棒で図を軽く示しながら言った。


「道路や学校を作るのは……その先ですな。

 まずは町の内側を直さねばならん」


「内側?」と修一。


「帳簿の透明化、癒着の切り離し、役所の立て直しです。

 土台が腐ったままでは、何を積んでも崩れます。

「なるほど……基礎から、ってことか」

「ええ。食が確保できた今が好機。

 まず膿を出すところから、ですな」


町長はそう言うと、ため息をひとつ落とし、別の束を取り出した。

表紙はひどく汚れ、紙はところどころ黒ずんでいる。

「そして……こちらがこれまでの記録だ」


ノアが手に取った瞬間、眉間にしわが寄る。

「……えぐいな、これ。

 裏金、賄賂、物資の水増し請求……

 完全に町政への介入じゃねえか」


リリィも思わず息をのむ。

町長は静かに頷いた。

「ええ。私も気づいていました。

 いや、町の者も薄々は察していたでしょう。

 しかし食を握られていては逆らえなかった」


「商会か」


「はい。

 やつらには貴族との繋がりもあります。

 罪に問われることなど、まずありません。

 証拠を突きつけても、うまく逃げてしまうでしょう」


町長は悔しげに拳を握りしめた。

「ですが──

 リリィ殿たちが腐素食材を生産してくれたおかげで、

 我々はもう人質ではない。

 これからは町を、町の手で変えていきたいのです」

修一はしばし黙り、帳簿を閉じると、

腰の袋から巾着をひとつ取り出して机に置いた。

じゃら……と、金貨が重い音を立てる。


「な、修一殿……これは?」

「町に貸す。個人として、だ。

 どうせ俺には金の価値なんてよく分からんし、

 立ち直るまでのつなぎになればいい」


町長の目が見開かれる。


「こ、これは……!

 数ヶ月どころか、場合によっては半年は持ちこたえられる額……!

 本当に、よろしいのですか?」


修一は肩を竦める。


「まあ……王様から勇者への手切れ金だと思っとけ。

 余裕できたら返してくれればいい」


「修一殿……」

リリィは驚きつつも、どこか誇らしげに彼を見つめた。

町長は深く頭を下げる。

「……必ずこの町を変えてみせます。

 貴族にも、商会にも振り回されぬ町に」


ノアは軽く手を上げた。

「そっちが本気なら、俺も協力するさ」


───


修一は軽く伸びをしてから、ふと町長に向き直った。


「……あ、そうだ町長。

 すげぇ恥ずかしい話なんだが……ちょっとお願いがある」

「なんなりと。今の町なら、できることはなんでもしますぞ」


修一は視線をそらし、耳まで赤くなる。

「俺、今ちっさくて機動力ゼロなんだよ。

 戦闘力も1だし……」


「そ、それは……確かに……」

横でリリィがコクコク頷く。

「うん。修一、走るとぷるぷる震えてるし……かわ……いや、大変だしね」


「……かわいいって言いかけただろ絶対。

 で、まあ……その、ずっとソトカやリリィに抱っこされてんのはいいんだが……

 二人とも片手ふさがっちまうだろ?」


町長の目がぱっと明るくなる。

「おおっ、分かりましたぞ! おんぶ用の道具ですな!

 籠タイプの小型のやつがある!」


「……はい。お願いします……」

リリィは口元を押さえ、くすりと笑う。

「ふふ……じゃあ修一くん、おんぶデビューだね」


「言い方ァ!」

町長は嬉しそうに頷いた。

「ではすぐに職人に用意させましょう!

 軽くて丈夫で、揺れないものを選ばねば!」


こうして準備が整い、いよいよ森への出発に向けて動き出した。


───


森の入口が見えたところで、リリィがぴたりと足を止めた。


「……ねぇ修一、ちょっとだけ確認していい?

 この羽、ガルドさんに教わった通りかどうか」


修一は籠の中から顔を出す。

「おう。今んとこ俺、風景は背中越しにしか見えねぇからな。説明頼む」


リリィは胸元から光る羽を取り出した。

淡い緑光がふわっと周囲を照らす。


「これね、古尾の羽なんだって。

 森の中では磁場が乱れるから方向感覚が狂うらしいけど……」


羽の先端がふわりと動き、ひとつの方向を指し示した。


「こうして、先が勝手に里の方角を向くの。

 だから迷った時は、これだけ見れば大丈夫」


修一は目を細めた。

「へぇ……完全にコンパス以上GPS未満じゃん。ガルド、やるな……」


羽が一瞬だけ光り、細い道筋のような光跡が森の奥に伸びた。


「こう宙に浮いて

 少しだけ道筋を照らしてくれるの。

 ガルドさん、『危険が近いと光が濁る』って言ってた」


「便利すぎる……完全に上位アイテムだろコレ」


「だから……ほんと大事にしないと。

 誰にでも渡すわけじゃないって言ってたし」


リリィは羽をそっとしまい、修一のほうへ振り返る。


「……じゃ、そろそろ行こっか。

 早く里に戻って、いろいろ確かめたいし」


修一は背中でこくりと頷いた。


「おう。町も動き出したし、次は俺らの番だな。

 頼んだぞ、ドライバー」


リリィは歩き出しながら、じと目で肩越しに修一を見る。


「……ねぇ修一。

 ドライバーって呼ぶの、だんだん慣れてきてない?」


「いや? 気のせいじゃね?」


「気のせいじゃないよね!?」


掛け合いが森の静けさにぽつぽつと溶けていき、

二人の足音だけが、ゆっくりと闇へ吸い込まれていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ