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第3章 12話 子供の姿で外交

修一は警備兵に捕まり尋問されるも、子供化し脱出。ソトカの助けで無事街に戻り、三人は宿『月影亭』で身を隠す。

緊張と恐怖の後、ようやく安全な場所で安堵の時間を迎える。


───



朝の光が町役場の前に差し込む。

兵士たちが忙しなく準備を進めるなか、修一(子供姿)は胸を張って歩いていった。


「よっ、町長。二日ぶりだな!」


町長がぎょっと目を見開く。


「……ええと、誰だい君は? 迷子かね?」


修一はむっと頬をふくらませた。 「おいおい、俺だよ。修一」


町長「は?」


横からリリィが前に出る。


「町長、この子が修一です。事情を話すと……その、昼過ぎまでかかるので……まあそういうことなんです」


「そういうことと言われてもだねぇ……」


町長は頭を抱えかけたが、修一が腕を組んでうなずいた。


「まあ、細かい話は後だ。とりあえず俺は俺だ。はい、終わり」


「私置いてけぼり!?」


町長が思わず素でツッコむ。

兵士たちの視線も集まり、ひそひそ声が広がる。


兵士A「……リリィさんの弟?」

兵士B「いや、あの顔は完全にリリィ殿の親戚だろ……」

兵士C「じゃあリリィ殿の子供?」

兵士B「時間軸どうなってんだよ」


リリィ「誰が母親よ!!」


町長「……ちょっと待て、混乱しかしないんだが……本当に修一くんなのか?」


修一(小さい体で仁王立ち)

「胸に手を当ててよく考えろ。

俺がこんな格好してる理由は大人の事情だ」


町長「子供が大人の事情を言うんだね!?」


リリィ「ともかく、今は説明してる時間がないんです!

 今日、魔獣側との打ち合わせがあるでしょう!?

 それに間に合わせるために来たんです!」


町長「……このカオスな状況で外交するのか……?」


修一「任せろ、俺ならできる」


町長「説得力がゼロなんだよ君!!」


リリィがため息をつき、修一の頭を軽くぽんと叩く。


「町長、後で説明は必ずします。

まずはいつもの修一として扱ってください」


町長は深く息を吸い、手のひらで顔を覆った。


「わかった、そういう事にしておくよ私も考えるのをやめにする」


「それが懸命だよ。うん」


ソトカは何も言わず、町長に軽く会釈だけした。

だが、その金色の目に町長は一歩だけ後ずさった。



────


修一は椅子からひょいと立ち上がると、

町長の袖を軽く引っ張った。


「町長、ちょっとこっち来て。耳貸して」


町長は嫌な予感を覚えつつも、屈み込む。


修一は小声で何かを囁いた。


町長の目が見開かれる。


「……ま、まさか、それを本気で?」


修一はこくりとうなずく。


「今ならできるよ。

ソトカもいるし、向こうも聞く気になってくれるはず」


町長は額を押さえた。


「たしかに……理屈としては筋は通る。

が、これが実現したら町の勢力図が……」


修一「だから今のうちに、準備だけしておこうよ。

向こうが来たら話すから」


町長は深く息を吐いた。


「……わかった。

信じるしかないな。私も腹を決めよう」


────



森を抜けて現れた魔獣の一行は、朝の光に照らされてその全貌をあらわにした。

角の生えた頭、盛り上がる筋肉、そして瞳には計り知れない知性が宿る。


リリィは杖を握り、修一の横に立つ。

ソトカは無言で後ろに控え、金色の瞳で魔獣たちを見据えた。


やがて、魔獣がゆっくりと口を開く。

「...逃げなかったか……それだけで評価する」

その低く、胸に響く声に、風が止まったかのように感じられた。


魔獣は辺りをぐるりと見回す。

兵士たちは足をすくめ、町長は恐怖を押し殺しながらも、威圧に耐えるように佇む。


ふと、魔獣の視線がソトカに留まる。

瞳に一瞬の驚きが光った。

「……ソトカ」


ソトカは微かに肩をすくめ、無言でうなずく。

「……心配かけたな、私は無事だ。」とでも言うかのように、その視線で応じる。


魔獣はわずかに息を吐き、空気が少し緩む。

だが、辺りの緊張感は依然として重く、交渉の場は一瞬にして戦場のような張り詰めた空気に包まれた。


修一は前に一歩踏み出す。

「私がバクフーン湿原一帯の管理責任者となった修一だ。今回は遠路はるばる足を運んで貰って感謝している」


魔獣の瞳が修一をじっと捉え、周囲の空気がさらに引き締まる。


「私たちは、湿原の管理と秩序を保つ責任を負っている。今回の会談は、そのためのものだ」


修一の声は落ち着いているが、体格の小ささに反して、堂々とした存在感があった。

兵士たちや町長は思わず息を呑む。


魔獣はしばし沈黙した後、低くうなずく。

「……なるほど、話す価値がありそうだな」


魔獣は沈黙のまま視線を巡らせ、やがてソトカに目を留める。

「……ソトカ、お前が無事で安心した」

一瞬だけ、瞳に妹を見るかのような柔らかな光が差し込む。


修一はそれを見逃さず、声を落とす。


修一は少し身を乗り出し、声を落として言った。

「……そして、今回の蛹の強奪の件、森の誘拐の件について、私から責任者として謝罪する」


魔獣はじっと修一を見つめ、無言で聞き入る。

「無闇に森の者を傷つけ、仲間を連れ去る行為は許されない。管理責任者として、私たちはその点を重く受け止める」


修一は胸に手を当て、真摯な態度で続けた。

「本当に申し訳ない。今回の件は、私自身も防げなかった。だからこそ、こうして直接謝罪し、今後の対策を話し合うために足を運んだんだ」


ソトカは後ろで静かに頷き、金色の瞳で魔獣の反応を見守る。

魔獣の表情は一瞬硬くなるが、やがて穏やかさを取り戻し、ゆっくりと息を吐いた。

「……そうか。謝意は受け取った。だが、今後同じことを繰り返すな」


修一は軽く頭を下げる。

「もちろんだ。森に侵入せず、街との関係を保つ協定を結ぶことで、互いに損のない形にしたい」


魔獣は短くうなずき、周囲を見回す。

兵士たちも、張り詰めていた肩の力を少しずつ抜き、町長は胸を撫で下ろした。


交渉の第一歩は、こうして静かに、しかし確実に踏み出されたのだった。


修一はゆっくりと立ち上がり、両手を軽く広げた。

「今回の件で、森の者たちに不必要な危険を与えてしまったことは本当に申し訳なく思う。だから、今後は森への立ち入りはより厳格に管理し、町側もそれを遵守する形で協定を結びたい」


魔獣は修一の言葉に目を細め、重々しい声で答える。

「....約束は守られるのだな?」


修一は力強く頷いた。

「もちろんだ。意図して違反すれば俺自身が責任を取る。加えて、町は森の者に敬意を払い、必要な食料や資源のやり取りを安全に行う。互いに損のない形で共存しよう」


魔獣はしばらく沈黙し、視線をソトカに向けた。

「……言う通りか、ソトカ」


ソトカは目を細め、軽くうなずく。

「問題ない。人間側も、今回の件で反省している」


魔獣はゆっくりと息を吐き、森の空気が少し柔らかくなったかのように感じられた。

「……わかった。今回は許す。だが、二度と同じ過ちを繰り返すな」


修一は安堵の息を吐き、リリィも肩の力を抜いた。

町長は額に手を当てながらも、笑みを浮かべる。

「……これで町は、貴族の輸送路に依存せず、森の者との新たな供給ルートを得られるのか……」


兵士たちも小さく安堵の声を漏らし、交渉は静かに、しかし確実に成功を手繰り寄せていた。

修一の影響力はこの瞬間、決定的に高まったのだった。



交渉が落ち着き、魔獣が一歩後ろに下がったその時、街側から声が飛んだ。


「失礼します!」


振り返ると、背筋をピンと伸ばした男が一人、足早に前に出てきた。

「我々、ボンボン商会の正当な権利を主張させていただきます」


リリィは眉をひそめ、修一は小さく舌打ちした。

町長が苦笑しながら説明する。

「……ああ、それはな、当事者としてボンボン商会の若君を招待したんだが、直前になって断ってきたんだ。どうやら森の者との交渉は自分の手には負えないと判断したらしく、代理人を送ってきたわけだ」


代理人は胸を張り、魔獣に向かって声を張った。

「森の資源は我々の正当な権利です。今回の協定が我々の利益を侵害しないよう、きちんと確認させてもらいます」


魔獣は一瞬、眉をひそめた。

ソトカは軽く視線を向けるが、沈黙を保つ。

修一は小声でリリィに囁いた。

「……やれやれ、やっぱりこうなるよな」


町長は額に手を当て、深いため息をついた。

「……ま、まあ、これも避けられないな。慎重に扱うしかない」


交渉の場に微妙な緊張感が再び漂う中、修一は静かに魔獣と目を合わせ、態度で「任せてくれ」と伝えた。

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