表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/38

第3章 1話 動かなければ終わる

社畜の俺は王様に表彰されるも、湿原に追放された。

隣には無表情の浄化術師リリィ。

こうして俺たちの異世界サバイバルが始まる。

馬糞だった俺は、浄化術師リリィと出会い人型となる。

王都でのスライム暴走を経て発酵勇者となった俺だが、王様に管理責任者名目で実質バクフーン湿原に追放され、辺境の村にたどり着いた。


雪解けの村で、泥人形を使い土地を改良

食料危機に直面した俺たちは、リリィ先導で魔物の森を抜け、町を目指し動きだす。


───



まずは行ってみて考えよう。

このまま動かないなら詰みだ。

食い扶持は、少しでも少ないほうがもつ。


修一は背の荷を締め直し、リリィとともに村をあとにした。

薄明の森を抜け、雪解けの小川沿いに道を取る。

ベルガの言っていた通りなら、このまま東に三日で街に着く、はずだった。


だが、昼をすぎた頃、行く手の橋が半ば崩れ落ちていた。

濁流が轟々と音を立て、板は流され、支柱だけが黒く突き出ている。


「……あんた、飛び越える気じゃないでしょうね」

リリィが眉をひそめる。


「まさか。川沿いを下って、別の道を探す」


そう決めて迂回したものの、森は思った以上に深かった。

地図にない小道がいくつも入り組み、足跡もすぐぬかるみに消える。


「ベルガの話じゃ、このあたりは真っすぐだったはずなんだけどな」

「つまり、あてにならないってことね」


太陽は雲に隠れ、木々の影が濃くなる。

風が止まり、森の奥から、遠くで何かが崩れるような音がした。


修一は足を止め、リリィと目を合わせた。

…迷ったかもしれない。



──


リリィが肩の荷を下ろす。

袋の中からは、乾いた食料や薬瓶、それに鍋まで出てきた。


修一は思わず目を丸くする。

「おい、それ……中身なに入ってんだよ。岩か? なんでそんなでかい袋担げるんだよ、ゴ─」


言いかけて、リリィの視線に気づいた。

にっこり。だが、目はまったく笑っていない。


「……今、なんて言おうとしたの?」

「え? えーと、ゴ、ゴリラの親戚?」

「へぇ、そう」

「ち、違う違う、褒めてる! 筋力の話だ!」

「そう。ありがと」


リリィが笑顔のまま、鍋を地面に置いて火を起こす。

パチパチと火の粉が上がるたびに、修一の背筋が少しずつ冷えていった。

(……こええ。俺、今、完全に地雷踏んだな)


彼女は無言で鍋を地面に置き、手早く火を起こした。

「休憩よ。道を間違えたってわかったなら、体力を戻すほうが先」


修一は渋々座り込む。

その手際の良さを見て、(こいつ……あんまり話してくれないがただものじゃないな)と内心つぶやいた。



──


夜、焚き火の灯りの中でリリィが口を開く。

「浄化術は、大昔は一般的だったけど今は誰でも扱えるものじゃないの。

 けど、生き延びる術なら今からでも覚えられる」


「生き延びる術?」

「そう。たとえば、こうやってかわすとか」


次の瞬間、リリィの手刀が風を切った。

修一の鼻先をかすめる。


「おいっ! 危ねえだろ!」

「今のを避けられなきゃ、魔物相手じゃ死ぬわ」

「冗談じゃねえ……俺、ただの社畜だったんだぞ?

 喧嘩したこともねえし、殴り合いなんて考えたこともないっての」


「そう、なら今人生初の実地訓練ね。おめでとう」

「どこがめでたいんだよ……」



──


修一は息を切らしながら間合いを取る。

リリィは髪を払って、涼しい顔のまま構えを変えた。


「でもあんた、疑似生命体なんでしょ? 叩かれたら痛いの?」

「痛覚は鈍いけど、まったくないわけじゃない」

「じゃあ、手加減してあげるわ」

「お、おい、それは 」


リリィの足がわずかに沈む。

次の瞬間、風が裂けた。


「うわっ、ちょ、待っ━━!」

風が裂ける。修一の息が止まる。

次の瞬間、手刀が視界をかすめた。

(ブゥ:今の動き、完全にアウト…)


夜の森に、小さな悲鳴と足音が交じった。

不格好な修一の動きに、リリィの短い指導が続く。



──


不格好な修一の動きに、リリィはため息をついて、淡々と首筋の血をはらった。


「あんた、弱いわね」

「は?」

「死ぬかどうかは分からないけど、なんとかしないと」


修一は胸を押さえながら半笑いで返す。

「おい、それ改造されたロボットに向かって言うセリフかよ……

俺、社畜だから筋トレはジムでしかしてないっての」

「言い訳は聞かない。やるのよ、今から」


リリィは簡単に構えを直し、修一に向かってゆっくり歩み寄る。

「まずは素早く動く癖をつける。相手の軸を見るの。腰が先に動いたらアウト」

「軸ってなんだよ、ヤンキーか」

「違う。足元を見ろ」


言われた通りに足元を見ると、リリィが小石をはじいて見せた。

「ほら、こうやって流れを読めば、力任せに当てられるよりはるかに安全でしょ」


修一がぎこちない真似をすると、リリィは手短に次の型を繰り返す。

叩き方、避け方、受け流し。声は冷静だが、ひとつひとつに丁寧さがある。



──


「で、痛いの?」とリリィが小声で訊く。

修一は眉をひそめて答えた。

「鈍いけど、ある。だから雑に扱うなよ」

(ぶぅも いたい しっかり 修一)

「...すまん」


リリィは口元を緩める。

「へぇ、意外とデリケートなのね」

「当たり前だ。機械でも石像でもねぇんだぞ」


修一がちょっと胸を張ると、リリィの拳が容赦なく飛んだ。

「うぐっ!? 言ってるそばから殴るな!」

「確認よ。耐久テスト」

「ブラック職場かよここは!」


森の闇が深まり、訓練は短くとも濃密に続いた。

不器用な動きにリリィが軽くツッコむたび、修一の表情は少しずつ真剣になっていく。


振り返れば、焚き火の光が二人の影を揺らしていた。

明日、こいつが本当に役に立つかどうかは分からない。

だが少なくとも、手加減なしの現実だけは、ほんの少しだけ馴染み始めていた。



──


翌日、薄明の霧の中。

「……昨日のが、まさかこんなに早く役に立つとは……」


リリィが一歩、前に出る。

霧の向こうで、鳥の声がぱたりと止んだ。


今回のブゥは、修一の脳内生命体としてほんの少しだけ顔を出しています。


最近はぐっと寒くなってきましたね。私は少し風邪気味ですが、皆さんも体調には気をつけてください。


森の描写は、実際に公園を散歩したときの印象を少し参考にしています。修一とリリィの冒険に役立つかは分かりませんが、雰囲気だけでも味わってもらえればと思います。


いつも読んでくださる皆さん、ありがとうございます。これからも二人+1?の冒険を一緒に楽しんでください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ