帰還
オブセシアを先頭に歩き、町に帰還することになった。
道中全くモンスターと遭遇しないということもなく何体かと遭遇した。
だが全てオブセシアに瞬殺された。
この辺のモンスターでは彼女に触れることも出来ないらしい。
なので僕達は難なく町に帰還することが出来た。
到着して早々にパーティー全員に謝罪する。
「ごめん、みんな。ゴーレム相手に全く動けなくて」
「気にするなって!アークは今回初任務の初心者だし、こっちこそ初心者を危険な目に合わせて先輩冒険者として申し訳ないよ」
「そうです!アークさん。私こそ全然動けなかったので気にしないでください!」
二人の優しい言葉に改めてこのパーティーの優しさを感じる。
「みんな…ありがとう!」
視線をサーベルの背中のウィザーに向ける。
「ウィザーさんもキャパオーバーするまで戦ってくれてありがとう。次は僕も戦力になれるように頑張るよ」
そして次はオブセシアにお礼を言う。
「ここまで付き添ってくれてありがとう」
「…」
オブセシアは無言でこちらを見つめるだけだった。
僕達はそれぞれ解散した。
ホーリーはウィザーを背負って泊まっている宿に向かい、サーベルは依頼の報告に行って僕とオブセシアだけになった。
サーベルとホーリーは去り際に僕に小声で言った。
「あの子には気をつけろよ。ここまでは助けてくれたけどまたいつアークを攻撃しようとするかわからないからな」
「アークさん、気を付けてくださいね」
二人の言葉に笑顔で返すと僕達二人だけになった。
(オブセシアとはちゃんと話をしないとな。聞きたいこともあるし何よりこんなにすぐに推しに会えるなんて滅多にない機会だ)
改めて推しと話すとなると急に緊張してきた。
オブセシアを見ると彼女はまだ無言で見つめているだけだった。
その推し顔を見ると頭の中が真っ白になってしまった。
(どうしよう、推しにガン見されている。やばい、何話そうか一瞬で忘れた)
とりあえず何か話そうと口を開く。
「あ、あの、あなたは」
「オブセシア」
「えっ」
先程まで無言だったオブセシアが急に声を発して一瞬理解が遅れる。
「私の名前、オブセシア」
「あ、ああ名前ね」
そういえば自己紹介がまだだった事に気付く。
「僕はアーク、まだ駆け出しの冒険者だ。よろしくオブセシアさん」
「セシアでいいわ。あとさん付けも要らない」
「じゃ、じゃあセシア…」
再び無言の時間が訪れる。
「えっと、セシアは僕の顔を確か見たことあるんだよね?」
オブセシアは首を横に振る。
「え、あの時見たことあるみたいな事言ってたよね?」
「見たことはない…と思うけど知ってはいる」
オブセシアの言葉に頭にはてなマークが浮かぶ。
「それってどういうこと?」
「ここまであなたを観察してその動き、体格、顔の角度を私の過去の獲物と重ねたけど当てはまるものは無かったわ。何より二度も殺されそうになってあんな戯言を言う面白い獲物を忘れるはず無いわ」
「でも知っているって…」
「そう、知っているの。あなたの顔だけは何故か頭に浮かぶの」
(どういうことだ?顔を知らないと頭に浮かぶはず無い。一度どっかで見たけどいつ見たかを忘れているだけ?見たとしたらいつなんだ?僕の意識がここに来る以前か?)
僕の記憶はここに来る前の記憶と来てからの現在までの記憶しかない。この体である主人公の記憶は全く無いのだ。
(もしかしたらそれが関係しているのだろうか)
そんなことを考えていると気付いたらオブセシアの顔が目の前にあった。
「うわっ!」
驚いてその場で尻餅をついてしまう。
推しの顔の近さに心臓の鼓動が高まる。
「あなたについていく」
「えっ」
再びオブセシアが顔を近付ける。
「あなたについていく。思い出したときにもし獲物だったらすぐ仕留められるように」
深紅の瞳が真っ直ぐに僕の瞳を見つめる。
僕は思わず目を逸らしてしまう。
(どうしよう、言葉の内容が入ってこない!ついてく?ついてくってオブセシアがついてきてくれるってこと?)
「えっと…僕とパ、パーティーを組んでくれるってこと?」
「それでもいい」
「じゃ、じゃあ、よろしくお願いします」
こうしてオブセシアとパーティーを組んだ。
翌日の今日は昨日の依頼で得た報酬金を持って店を見て回ろうと思っていた。
あの後、サーベルと話し合い、ウィザーがまだ動けないのでパーティー活動を一時休止しようとなった。
早朝に宿を出るとオブセシアが立っていた。
「お、おはよう。セ、セシア」
オブセシアは無言のまま立っていた。
なぜ彼女が朝から会いに来たのか真意を知ろうと目を見るが僕には彼女の考えていることがわからなかった。
(ゲームならテキストや別視点の話である程度、察することができるけど今は主人公視点だけだから全然わからない。そもそもオブセシアはゲームでも思考を読みづらいキャラだったからよりわからない)
そんなこんなで悩んでいるとオブセシアが口を開く。
「じゃあ、いこっか」
「えっ、行くってどこに?」
「言ったでしょ?あなたについていくって」
(ついていくってパーティーとしてだけだと思っていた...買い物も一緒についてきてくれるなんて)
男性と女性が二人で町を見て回り買い物をする。
彼女はそういう気では無いと分かっていてもどうしても考えが過ってしまう。
顔を誰にも見られない様に両手で覆い、しゃがみ込むと小声で呟く。
「それってデートじゃん...」




