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サ終後の先  作者: 白姫
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漆黒の少女

 ゴーレムが少女を見た瞬間、僕達に目もくれず少女とは反対方向に走り出す。

 それは逃走だった。

 僕達が真っ先にゴーレムから逃げたように、ゴーレムも見た瞬間勝てないと悟って逃げ出したのだ。

 その速度は出会った時よりも軽くなった分速く、とても僕達では追いつけない程の速さだった。

 それを見た少女はため息をついた。

「出会って早々に追いかけっこ?それじゃあつまんないじゃん!」

 目の前を一瞬黒い影が通り過ぎたと思ったらゴーレムの片足が切られていた。

 バランスを崩して前のめりに倒れるゴーレムの背中には先ほどの少女がいつの間にか立っていた。

 少女は鎌を振り上げるとそのままゴーレムの胴体に振り下ろした。

 鎌が突き刺さるとゴーレムの体は崩れ始め、岩石の山だけが残った。

 少女は鎌を持ったままこちらに歩き僕の目の前に立つと呟いた。

「やっと見つけた」

 目の前に立っているその姿を見て僕は確信する。

「やっぱりオブセシアだ…」

 オブセシア、僕の推しの名前だ。


 【アーオリ】公式紹介《漆黒の死神少女!オブセシア!その深紅の瞳は捉えた獲物を絶対に忘れない》

 SSRキャラ”オブセシア”は全身黒い服の深紅の瞳と大きい鎌が特徴的な女性キャラだ。

 当時推しが決まらずになんとなくガチャを引いていて彼女が出た瞬間、一目見て僕の推しになった。

 速攻もったいなくて使えずに貯めていた育成素材をつぎ込んで一瞬で僕のパーティーのメインアタッカーになった(逆にこの子ばっか育成して他のキャラクターは育成が疎かになった)。

 ほぼ一目惚れだがキャラクターストーリー(メインストーリーとは別にキャラクターそれぞれに個別にストーリーがある)を読みさらに好きになった。

 特にキャラクターストーリー好きなシーンはストーリー最後で彼女が言った一言。

「私は絶対貴方を忘れない。貴方がどこに行っても逃がさないから」


 目の前にいる彼女はまさに僕の推しであるオブセシアだ。

「オブ…」

 オブセシアが鎌を僕に向ける。

「やっと見つけた、頭にこびりつく邪魔な奴」

 鎌を振り上げる。

「ちょっ、ちょっと待って!」

 オブセシアのいきなりの行動に対話をしようとするがオブセシアは止まらなかった。

「だめ、待たない」

 ゴーレムを容易に粉々にした彼女の鎌が今度は僕に振り下ろされる。

「やめてください!」

 僕とオブセシアの間にホーリーが立ちふさがり僕を庇う。

 オブセシアの鎌は軌道をそらし、空を切った。

「なんで!冒険者同士で争うのですか!無益な争いは止めましょう!」

 オブセシアはあれだけ苦戦したゴーレムを瞬殺した存在だ。

 その存在相手に立ちふさがるホーリーの手が僅かに震えていた。

 その様子を黙って見つめていたオブセシアはやがて背を向け、ゴーレムの残骸へ歩き出した。

 ホーリーは息を吐き肩の力を抜いて緊張を緩めた。

「あの人はアークさんの知り合いなんですか?」

「えっと…ま、まあ?」

 なんと答えたらいいかわからないので曖昧な返事を返した。


「ありがとな、ホーリー」

 ホーリーの回復スキルでの治療でサーベルは歩けるまでに回復した。

 しかし、ウィザーは意識を失っていた。

 あの時、爆発の瞬間にスキルで土の壁を生成して飛んでくる岩石を防いだがその代償として意識を失ってしまったらしい。

 サーベルはウィザーに寄り添う。

「ウィザー…ギリギリまでスキルで攻撃してたもんな。スキルゲージの限界を超えてキャパオーバーしちまったんだろう」

「それって大丈夫なのか?」

 サーベルはウィザーを背負いながら質問に答える。

「大丈夫ってわけではないがせいぜい一日か二日は動けなくなるぐらいだな。命の代価と考えたら安いがな」

 またゲームには無い概念が出てきた。

(スキルのキャパオーバー…ゲームではスキルゲージが無くなったら貯まるまでスキルを使えないシステムだがこの世界では使えちゃうんだな)

 ゲームとは相違点があったりまだまだ知らない事が多そうだ。

「ここからは安全に町に戻ることを最優先にする。俺は今の状態では戦闘で足手まといになるからウィザーを背負って後方を歩き後ろの警戒に当たる。先頭はまだ戦えるアークで中央にホーリーの一列で進む。それでいいか?アーク?」

 サーベルの言葉に頷く。

「出来ればあの子にも一緒に来て欲しいのだけど」

 サーベルがオブセシアを見る。

 オブセシアはしゃがみ込んでゴーレムの残骸を見つめていた。

「ここは僕が話してみるよ」

 僕の申し出にホーリーが心配そうにこちらを見る。

「アークさん…大丈夫なんですか?」

「ホーリーさん、僕は大丈夫だよ。一応彼女とは知り合い?みたいなものだから」

 そのやり取りを先程のオブセシアが僕を攻撃しようとした事実を知らないサーベルは不思議そうに見ている。

「お前とあの子の間になんかあったのか?」

「ああ、ちょっとね」

 サーベルの言葉に濁しながら答え僕はオブセシアのもとに向かった。


「あの…すみません」

 僕は恐る恐るオブセシアの背中に声を掛ける。

「…何?」

「あの…えっと…もし良かったらでいいんだけど、一緒に来てくれないかな?」

「…なんで?」

「僕達では歯が立たなかったゴーレムを容易く倒してしまう程の実力を持ったあなたが一緒に来てくれたら安心だなと…」

 返事は返って来なかった。

 沈黙が流れる。

(どうしよう…僕は体は【アーオリ】の主人公だけど中身はただの【アーオリ】好きの一般人。何を言えば良いかわからない。とりあえず何か話さないと」

「そういえばさっき僕のことを知ってるような口振りだったけど僕、あなたと会ったことあるのかな?」

 その言葉に彼女は立ち上がる。

 さっきの事を思い出し僕は思わず身構える。

 彼女は背を向けながら話す。

「会った事は無い…はず」

「じゃあ、あのやっと見つけたって言葉は?」

 彼女が振り返り僕を見つめる。

 その吸い込まれるほど美しい深紅の瞳に僕は目が離せなくなる。

「でもその顔は知っている。私の頭にいつからか浮かんできた邪魔な顔」

 彼女は距離を詰めてくる。

「定期的に浮かんでは思考を邪魔する存在、それがあなた。私の頭に浮かぶのはまだ仕留めてない獲物だけ。つまりあなたはどこかで仕留め損ねた獲物ということ」

 彼女が鎌を持って近づいてくる。

「だからあなたを殺すの。仕留めるべき獲物だから」

 その瞳には殺意が宿っていた。

 これは何かの冗談でもなく明確に獲物を仕留めるという捕食者の目だった。

 ここで逃げなければ殺されるだろう。

 しかし僕はその深紅の瞳に宿る殺意に気が付かないほど魅入られていた。

「綺麗だ…」

 思わずつぶやいてしまう。

 その呟きに彼女は動きを止めた。

 直後、少し離れた位置にいたサーベル達が駆けつけた。

「おい!大丈夫かアーク!」

「やっぱり大丈夫じゃ無いじゃないですかアークさん!見てましたけどあの人アークさんに危害を加えようとしてましたよ」

 心配してくれているサーベル達をよそに僕は思わずつぶやいてしまった軽率な言葉に頭を抱える。

(やばい、生で見るオブセシアの瞳に思わず心の声が漏れてしまった。どうしよう、嫌われたかな。いきなり口説き始める第一印象きもいやつ認定されたかな。確かにきもいやつではあるけどこれでは僕の推しパーティーの夢がなくなってしまう。推しに嫌われたら生きていけないよ…)

「くっ!きゃはははははは!」

 そんな僕の様子を見てオブセシアは笑い始めた。

 その声に一同が固まる。

 そしてオブセシアは言う。

「わかったわ。あなた達を町まで送り届けてあげるわ」

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