遭遇戦
ゴーレムは樹木から巨体を露わにするとその場で両腕を振り上げる、一気に大地に叩きつけた。
轟音が鳴り大地が振動したんじゃ無いかと思わせるほどの衝撃が全身にくる。
ゲームではモーションだけだったのが今は五感全てで感じ取れる。
(あんなのに当たったら...)
剣を持つ手が震え、冷や汗が頬を伝う。
今ので僕は悟った。
(これには勝てない)
「うおおおおおお!」
僕が震えて動けないでいるとサーベルは声を上げながら振り下ろされたゴーレムの左腕に剣を下ろす。
剣は左腕に当たるが音を立てて弾き返される。
「クソッ!感触もほとんど石だ!全然刃が入らねえ!」
「ロックボール!」
ウィザーが呪文を唱えると周囲の石が空中の一点に集まり大きな球状の岩を形成するとゴーレムの頭に目掛けて飛んでいったがゴーレムは右腕で難なく防ぐ。
岩は粉々になるがゴーレムの右腕はなんともなかった。
「食らえ!」
サーベルが剣を突き刺すとゴーレムの左腕に刺さった。
「やった!通った!」
サーベルが攻撃が通ったことに一瞬喜び、ゴーレムの攻撃前の動作に気付かなかった。
「サーベル!危ない!」
僕の声にサーベルは気付くが、気付いた時にはすでにゴーレムの攻撃が飛んできていた。
サーベルはゴーレムの攻撃に当たり吹っ飛んでいく。
「サーベルさん!」
ホーリーがすぐに助けに行こうとするがゴーレムが立ち塞がる。
「あ…」
その巨体の威圧感を前にホーリーは動けずその場でへたり込んでしまう。
「ロックボール!」
再びウィザーの岩が飛んでいきゴーレムの頭に直撃するがゴーレムは動じていなかった。
ゴーレムが真っ赤な目で僕の後方で杖を構えるウィザーを睨むと他に目もくれずに一直線に歩き出す。
ウィザーは呪文を唱え岩を飛ばすがゴーレムは怯まず、遂にウィザーの目の前にまで来た。
ゴーレムは右腕をゆっくり持ち上げ一気に振り下ろそうとする。
ウィザーが避けようと身構えると。
「スーパースラッシュ!」
ゴーレムが突然体勢を崩して右腕が何も無い地面に当たる。
ゴーレムの背後から声がする。
「どうやら俺のスキルは通じるみたいだな」
見ると先ほど吹き飛ばされたサーベルがいた。
全身ボロボロで頭から血を流しながらも剣を構えてそこに立っていた。
「スキルゲージはもう無いが、がら空きの背中に剣を突き刺すことならできる!」
ボロボロの体でサーベルは勢いよく飛び上がりゴーレムの背中目掛けて剣を向ける。
ウィザーも呪文を唱えてロックボールを顔面目掛けて放つ。
「俺とウィザーの同時攻撃だ!」
サーベルとウィザーの同時攻撃が当たる瞬間、ゴーレムの体が少し大きくなった。
「!!」
次の瞬間、ゴーレムの体が爆発して全身を覆っていた岩石が四方八方に飛び去り僕たちを襲った。
「ぐぅ…痛い」
全身の痛みに堪えながら倒れた体を持ち上げる。
(何が起こった…みんなは…)
周囲を確認しようとした時に僕はそれに気付いた。
地面に仰向けに横たわるそれは全身血だらけのサーベルだった。
「サ、サーベル!」
すぐに立ち上がりサーベルのもとへ向かおうとするが僕の前に大きい壁が立ち塞がった。
それは全身の岩石が減り、軽量になったゴーレムだった。
ゴーレムの目は立ち尽くす僕に向いていた。
ゲームでは難なく倒せたゴーレムが今は目の前に強敵として立っている。
(死ぬのか?今から僕は)
ゴーレムが両腕をゆっくりと持ち上げる。
この攻撃を受けたら一撃で死んでしまうだろう。
(この世界に来てたった二日で死ぬのか?どの推しにも会えずに)
その時、声が響く
「ヒールゾーン!」
地面が薄っすら緑色に光ったかと思うと体の痛みが和らぎ、体が軽くなる。
声のほうを見るとホーリーがこちらに両手をかざしていた。
(これはホーリーのスキル!)
振り下ろされた腕によるゴーレムの攻撃を軽くなった体で避ける。
「うぅ…」
僕は倒れているサーベルが僅かに声を発したのに気付いた。
(サーベルはまだ生きている!)
ヒールゾーンは周囲の仲間を持続的に回復するホーリーのスキルだ。
(ホーリーはまだ頑張っている。サーベルもまだ生きている。なのに僕だけがあきらめるわけにはいかない!)
落ちた剣を拾い再び構える。
(そうだ!まだ希望はある!それは僕自身だ!)
【アーオリ】の主人公はゲーム内ではSRキャラクターとして使用でき、性能はそこそこ高い。
しかし、今はまだあまり経験を積んでいないのでレベルは1から5ぐらいの状態だろう。それではゴーレムは倒せない。
(だが主人公には確か秘められた力がある!)
それはゲーム内のストーリーで語られる内容だ。
ストーリーで主人公は時々、凄まじい力を発揮する。
(もしここが【アーオリ】の世界で僕の体が主人公のキャラクターのものなら僕にもその力があるはずだ!)
ゴーレムが次の攻撃のために再び腕を持ち上げる。
(ストーリーで最も秘められた力が出る瞬間はピンチの時が多い)
ゴーレムの腕が振り下ろされる。
(この攻撃はあえて避けない!ここで秘められた力が出なかったらどの道ここで死ぬ!)
振り下ろされたゴーレムの腕で目の前が埋め尽くされる。
それはこの世界に来る前の電車に当たる瞬間と似た光景だった。
岩石が周囲に散らばって落ちていく。
ゴーレムの振り下ろされた両腕は一瞬で粉々になっていた。
僕は困惑した。
なぜなら僕の体は少しも動いていなかったからだ。
(何が起こった!?秘められた力が発動したのか!?)
困惑していると誰かの声が聞こえる。
「きゃはは!こんなところにゴーレムがいるなんてね」
その声はホーリーでもウィザーでもない女性の声だった。
僕はこの声に聞き覚えがあった。
(この声は...まさか!)
ゴーレムは粉々になった両腕を見ると固まってしまった。
一瞬の出来事で理解が追い付いていないのだ。
ゴーレムが現状を理解出来ないでいると再び女性の声が聞こえる。
「ゴーレム、あなたの腕はもうないよ。私が粉々に砕いたからね」
見るとそこには女性が一人立っていた。
漆黒の衣服を身に纏い、手には大きな同じく漆黒の鎌を持つ深紅の瞳の女性。
その姿を見て僕は思わず呟く。
「オブセシア…」




