最初の町
町はやはり知っている名前の町だった。
【アーオリ】で最初に行く町”コロン”は周辺に出現するモンスターのレベルが比較的低く倒しやすいから多くの駆け出し冒険者がここで冒険を始めるという設定だった。
(たしかサーベル達もまだ冒険に出たばかりの駆け出し冒険者だと言っていた。どうやらここもゲームと同じだ。とはいえ【アーオリ】はRPGゲームで登場したのもストーリーの序盤で詳しい町のマップや情報はよく知らない)
町に着くと毒で意識を失っているホーリーをウィザーが診療所に連れてくために別れて僕とサーベルの二人になった。
「本当は俺も一緒に診療所まで行きたかったが俺はパーティーリーダーとして冒険者ギルドへの報告に行かないといけないからな。じゃあアークもここでお別れか?」
「そのことなんだが…」
サーベルを引き留める。
ゲームでチラッと出ただけのあまり知らない場所で一人になるわけにはいかない。
「僕も冒険者ギルドについて行っていいか?さっき会ったばかりで申し訳ないんだが僕はあまりこの町のことを知らなくて…」
「そういえばアークは記憶喪失だったな。すまない。命の恩人だから冒険者ギルドだけじゃなくこの町についても教えてやるよ!」
「ありがとう」
さすがサーベル。ゲームのストーリーでも主人公に親切にしてくれる頼りになる人だ。
僕はサーベルについて行って冒険者ギルドに向かった。
サーベルいわくこの町、コロンは駆け出し冒険者の町とも言われており多くの冒険者を志す人達が集まるため冒険者のサポートが充実しており中でも冒険者ギルドはこの町の象徴となっているらしい。
西洋風の建物が並ぶ町の中心部に位置するこの場所にひときは大きく目立つ建物がある。冒険者ギルドだ。
(まさにこの町の象徴的な佇まいだな)
サーベルを先頭にそのまま大きな建物の中に入っていく。
建物内は多くの人で賑わっており、皆剣や鎧などを身に着けておりほとんどがおそらく冒険者なのだろうか。
サーベルは他に目もくれずに一直線に受付らしきものに向かうと職員らしき人と話し何らかのやり取りをしている。
(依頼の帰りと言っていたしその報告だろう)
サーベルはしばらく職員とやり取りしていると職員は受付の奥に行ってしまった。
「ちょっと時間かかるからアークはギルド内でも見学したらどうだ?」
サーベルにそう言われて特にやることも無いのでそうすることにした。
適当に人が集まっている所に行ってみる。
どうやらそこにいる人は皆、壁の木のボードに貼ってある紙を見ているらしく見てみるとそれは依頼の紙らしかった。
素材の採取やモンスターの討伐依頼などの依頼内容が簡潔に書いてあり、その下に推奨ランクなどが日本語で書かれていた。
(この世界ではなぜだか言語も文字も日本語で通じるらしい。概念や世界観は違うのに日本語は通じるのは不思議な感じだ)
依頼の紙を一つ取って建物内にある空いてるテーブルの席に座り、取ってきた紙をよく見てみる。
どうやら木の実の採取依頼らしく依頼内容の下には他の依頼と同じく推奨ランクが書かれておりこの依頼にはブロンズと書かれていた。
(このブロンズが冒険者のランクなのか?たしかゲームだと推奨レベルはあってもランクとかは無かったはず…あってもノーマルやハードとかだ。ここはゲームとは違うのか?)
依頼に書かれた文字の意味を考えていると後ろから声をかけられた。
「お前新人か?依頼見てるだけならどけ!」
振り返るとそこには鎧を着た顔に傷のある大男が立っていた。
「す、すみません。今どきます」
僕はその男の圧に押されて慌てて席を譲ると大男は連れと我が物顔でその席に座った。
僕がそそくさとその場から離れているとまた声をかけられる。
「おまたせ!報告終わったぞ!報告してる時に見えたけど他の冒険者に絡まれてたけど大丈夫か?」
報告を終えたサーベルが声を掛けてくる。
「僕は大丈夫だよ。サーバル」
「すまないな。冒険者の登録自体は簡単で誰でもなれるからああいう連中も多いんだ」
「そうなのか?」
「ああ、だから俺ほど優しい冒険者も珍しいんだぞ?じゃあ報告も終わったし出るか」
(優しいって自分で言うんだ)
「ああ。わかった」
紙を元あった場所に戻すとサーベルと共に冒険者ギルドを後にする。
外に出るともう日が落ちていた。
「もう日が落ちているのに冒険者ギルドはまだ人が集まっているんだな。サーベル」
「ここは駆け出し冒険者の町だからな。みんなより良い依頼を取って冒険者ランクを上げたいんだろうな」
「冒険者ランク?」
先ほども疑問に思っていた言葉が出た。
サーベルは僕の疑問に丁寧に答えた。
「冒険者ランクっていうのは冒険者ギルドに冒険者登録したら付けられるものだ。下からブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナでそのランクに応じて受けられる依頼も増えるってわけだ」
「そうなのか。ちなみにサーベルの冒険者ランクは?」
「俺はブロンズだな」
そんな話をしていると僕らに近づいてくる人影がいた。
それはホーリーを診療所に連れて行ったウィザーだった。
合流するとサーベルとウィザーが話し始めた。
「ウィザー。ホーリーは?」
「解毒だけだから明日にはもう出れるって」
「わかった。俺のほうも報告終えたから今日は解散だな」
「了解」
サーベルと話し終えるとウィザーが僕のほうを向く。
「アークさん。今日はありがとう」
それだけ言うとウィザーは町の中に消えていった。
「ウィザーは人見知りなんだ。あれでもアークにはだいぶ感謝しているんだ。それより今日泊まる所はあるのか?無いなら俺と一緒の宿に泊まっていかないか?」
サーベルの提案は僕にとって渡りに船だった。
「いいのか?」
「恩人だしこれも何かの縁だ!」
「ありがとう」
やはりサーベルは頼りになる人だ。
宿のベッドで寝ながら情報を整理する。
(ここは【アーオリ】の世界に確かに似ている。サーベル達や冒険者ギルドで見聞きしたモンスターの姿名前。この町の名前などは完全に【アーオリ】と同じだった。ここはやはり【アーオリ】の世界なのか?
これから僕はどうすればいいんだ?)
突然元居た世界とは別の世界。異世界に放り出された僕は自分の手を見つめる。
その手は子供の頃から慣れ親しんだいつもの手ではなく知らない手であった。
(この体とあの服装…【アーオリ】の主人公と同じだ。どうやら僕の意識だけがこの世界にきたらしい。元の世界に戻るべきなのだろうか)
元の世界のことを思い出す。
仕事ばかりの毎日。人間関係。唯一の心の拠り所であった【アーオリ】のサービス終了。
(戻ったところで辛い日々があるだけ…)
【アーオリ】をやっていた時のことを思い出す。
改善されていくゲームシステム。実装されていく新たなコンテンツ。様々なキャラクター。その全てが代り映えの無い日々を過ごしていた僕の唯一光り輝く思い出。
(どんどん変わりゆくあのゲームの世界が僕は好きだったんだよな…)
思い出に浸りながら涙を流す。
(元の世界に戻る必要があるのか?僕は今、あの好きだったゲームの中にいる!この好きだったゲームの中で新たな人生を送れるんじゃないか?)
脳裏に好きだったゲームで最も好きなものを思い浮かべる。
(この世界ならゲームの推しキャラクターにも会えるんじゃないのか?この世界なら!)
僕の推しは六人いる。ゲーム内ではその六人を編成して推しパーティーを作っていた。
(もしこの世界にも僕の推しがいるのなら推しパーティーをこの世界で実現するのも夢ではないのかもしれない。そうだ!僕はこの世界で全ての推しに会おう!それで推しパーティーを作ろう!)
そう考えていると頭の中にやるべきことが自然と浮かんできた。
(まずは資金集めだよな!このままサーベルの世話になっているわけにはいかないし。それで資金を貯めたら旅に出て推しを探そう!)
これからの未来図を想像しながら眠りについた。




