帰り道
金属がぶつかり合う甲高い音が森に響き渡る。
オブセシアの鎌が円を描くように様々な方向からアークに振るわれる。
だがアークは鎌の攻撃全てを剣で受け流し、鎌が当たる事は無かった。
それを見たオブセシアはテンションが上がり上機嫌に笑う。
「きゃはは!あなた強いじゃん!」
その言葉にアークは何も言わずにただただ鎌の攻撃を冷静に受け流すだけだった。
オブセシアはそのアークの姿を観察しながら考える。
(さっきまでとはまるで別人。剣での受け流しも素人のそれじゃないわ)
「じゃあこれは防げる?」
オブセシアは鎌を地面ごと下から切り上げた。
地面より下からくる、低位置からの攻撃だ。
(この攻撃は剣で防ぐか避けるかしか無い。でも剣を下に向けて鎌の攻撃を防いだら胴体ががら空きになり隙が生まれる。横に避ければ躱せるけどこの速度の鎌をはたしてあなたは避けられるかしら)
オブセシアはアークの目の動きを観察しようと顔を見る。
人間の目の動きは分かりやすく目を見れば相手が何を考え、何をしようとしているのかがわかるからだ。
そう思いアークの目を見たオブセシアは驚く。
アークは迫り来る鎌では無く、ただ真っ直ぐオブセシアだけを見ていたからだ。
その目はまるで感情が無いような無機質なものだった。
「スラッシュ」
その言葉と同時に振るわれたアークの剣は凄まじい速度でオブセシア目掛けて迫る。
オブセシアは急遽攻撃を止め、鎌の持ち手の部分でその斬撃を受け止める。
「きゃはは!危うく斬られるところだったわ!でもさっき私が攻撃を途中でやめなかったらあなたしんでたわよ」
アークは変わらずにオブセシアだけを見ていた。
(この威力と速度...おそらくこれはスキルによる攻撃。スキルを使って相打ちに持ち込もうとしたのか...はたまたまだ別の隠し玉を持っているのか)
お互いに一旦距離を取り、相手の出方を伺う。
(相手がスキルを使える以上、少しは本気を出しちゃおうかしら)
「くっ!きゃはははは!」
オブセシアはアークの予想外の強さに気分が昂ぶり口から笑い声が漏れる。
オブセシアは完全にアークに対する興味を取り戻していた。
どれほどの力をまだ隠しているのかと。
「攻速」
オブセシアは呟くと鎌を構え、これまで以上の速さで一瞬で間合いを詰めた。
鎌がアークの首元で止まる。
攻撃を止めたオブセシアはアークに対して急な違和感を感じ取ったのだ。
まるで目の前のアークが牙を持つ獰猛な獣から非力な小動物になったかのような。
アークの目は冷徹に敵だけを見据える目から一般人の目になっていた。
「戦闘を…やめ…」
アークはそれだけを呟くと気を失い、その場に倒れた。
オブセシアは呆然とただただ見つめていた。
懐かしい感じがした。
それは子供の頃に一、二回程度母親にしてもらった誰かに背負われている感覚。
全体重を他人に預けている懐かしい安心感。
僕は思わず呟く。
「お母さん」
「お母さんじゃないわ」
その心地よい感覚に再び意識を失いかけるがその返答を聞いて意識が覚醒する。
「えっ!なんで背負われているの!?」
目を覚ますとそこはオブセシアの背中だった。
すっかり薄暗くなった森の中をオブセシアに背負われながら進んでいたのだ。
「起きた?」
オブセシアが目覚めたばかりの僕に声をかける。
「え?え?えっと、僕はなん、なんでオブセシアに背負われて、え?」
「落ち着いて」
困惑して状況を飲み込まずにいる僕にオブセシアは変わらず歩きながら淡々と言う。
「依頼のゴブリンはあなたが全て倒したのよ」
オブセシアがさらに僕を困惑させることを言う。
(僕がゴブリンを?そうだ。ゴブリンと戦って気を失って...あれ?全ては倒せなかったような)
頭が働き始め僕は今のとんでもない状況に気付く。
(今、推しに背負われている!)
その事実に僕は恥ずかしさが込み上げてくる。
好きな人の前では良い姿を見せたいものだ。
でも、今の僕はその好きな人の目の前で気を失い、背負われている。
(それにお母さんって...)
あまりの痴態に頭のてっぺんまで恥ずかしさが込み上げ僕はオブセシアに小さく呟く。
「あの、もう大丈夫だから。自分で歩けるから」
だがオブセシアは構わず言う。
「今は何も考えずに町まで背負われていなさい」
その言葉で僕のこの痴態は町に着くまで続くと確定した。
恥ずかしさに震えているとオブセシアが僕に聞いてくる。
「あなた、どこまで覚えている?」
その言葉を聞いて恥ずかしい気持ちを抑えて記憶を遡る。
「えっと、たしかゴブリンに囲まれた所までかな。そこからはさっぱり」
「そう」
僕の言葉を聞いたオブセシアは歩きながら何かを考えているのかそのまま黙り込んでしまった。
僕は気まずさにオブセシアの背中で小さくなっているとオブセシアが何かを見て呟く。
「あれは」
その言葉にオブセシアの目線の先を見ると遠くに白いなにかが見えた。
それは空に広がりながら形を変えており方角はちょうどオブセシアの目指して歩く先、町だ。
僕を背負いながらオブセシアが走り出す。
僕を背負っているからか以前見せたほどの速さは無いがそれでも僕の全速力より速いだろう。
オブセシアが走り近づくことでその白いものの正体がわかった。
それは煙だった。
町から煙が至る所から上がっていたのだ。
「これって」
僕が唖然としているとオブセシアが大鎌を構えた。
「あらら、バレちゃったか」
見知らぬ男性の声がしたかと思うと、木々の隙間から全身黒いローブを羽織った人が姿を現す。
「まあ別に良いか。どうせ君達は町には辿り着けないし」
突如現れたその人物が指を鳴らすと周囲の木々の隙間から同じ服装をした人達が姿を現す。
「囲まれた!」
いつのまにか僕達は包囲されていたのだ。
それを確認するとオブセシアは僕をゆっくり下ろす。
僕は自分の剣を構えてオブセシアと背中を合わせる。
(相手は明らかに敵意を持っている。ゴブリンですら手こずったのにこの状況。切り抜けられるのか!?)




