#日常編:この学校、想定外すぎる件について
「──1858年、日米修好通商条約。
関税自主権の欠如、領事裁判権の承認……いわゆる“不平等条約”です」
教科書どおりに語る先生の声を聞きながら、ふと、あるセリフが頭に浮かんだ。
「力なき正義は無力なり。正義なき力は暴力なり」──某ロボットアニメの名言。
……なんでか知らないが、今の俺-野中 蓮-には、やたらと染みた。
うちの学校は、公立の中高一貫校。
制服が可愛くて、授業の質も高くて、偏差値もそこそこ高い。
教育誌や経済誌などにも良く載っているらしいし
業界の第一線で活躍している人の出身校でもあるらしい。知らないけど。
学校見学の時は、ちょっと感動すらした。
「こんな場所で、俺の高校生活が始まるのか」って。
──まあ、始まってみたら、だいぶ“想定外”だった。
高校に上がると、“専科”っていう特進クラスが用意される。
上位30人限定で、東大などの難関大の合格実績もバッチリ。
でも実際に行く人は、ほんの一部。
「面倒だから」「雰囲気が合わないから」って理由で、条件満たしてるのに辞退する人も多い。
玲央とその彼女なんかもそうだ。
成績は間違いなくクリアしてるのに、あえて今のクラスに残ってる。
……俺は、そういうの見ててちょっと憧れる。
「行けるけど行かない」って、なんか、かっこいいよな。
一方の俺はというと、条件は当然満たしてないし、
たとえ満たしてたとしても、たぶん無理だったと思う。
だって俺、アニメとかゲームとか好きだし、
授業の合間にノートの隅に女の子キャラのラフとか描いてるし。
そんなやつが、特進クラスで通用する気がしない。
「バカとブスは~」というフレーズがあったような気もしたけど
現実ではそう行きませんよ、センセイ。
──あ、別に描いた絵を誰かに見せたりはしてないです。黒歴史は、胸の奥にしまってます。
「野中ー、寝てないかー?」
先生の声に軽く肩をすくめて返事すると、前の席の拓真が小さく笑った。
いいよな、ああいう自然体のイケメン。
なんか、ちゃんと生きてる感じがする。
専科? 無理だよ。
俺はせいぜい、家帰って録画したアニメ見て、
そのあとYouTubeで考察動画巡って、気づいたら夜更かしして寝不足っていうルート。
でも、それでもいい。
“俺なりの高校生活”ってやつを、少しずつ見つけられたら──まあ、それで十分だ。
……たぶん、ね。