#持ち物検査(カレン vs 拗らせオタク)
列に、小さな影。
その中で。
拗らせオタクの男子生徒が、
おぼつかない足取りで、鞄を差し出した。
受け取るのは――
長谷川 カレン(はせがわ かれん)。
制服をきちんと整え、
腕章が光る。
カレンは、淡々と鞄を開いた。
ファイル。筆箱。ノート。
そして――
ぱらり、と。
一冊の薄い本が、滑り落ちた。
イラストは、あまりにも鮮やかに、「アウト」だった。
男子生徒、びくりと肩を震わせる。
カレンは――
ふわりと、やわらかくまばたきした。
小首をかしげる。
拾い上げる。
「……これ、大事なもの、だった?」
思いがけず、
そっと問いかけるような声だった。
男子生徒、震えながら、必死に言葉を絞った。
「……だ、だって……、これしか……俺には……」
喉が詰まる。
言葉にならない叫び。
カレンは、静かに耳を傾けて、
一歩だけ、ほんの一歩だけ近づいた。
そして、
にっこりと、
それでもどこまでも優しく微笑んだ。
「……うん。わかってる。」
オタク男子、瞳を大きく開く。
カレンは、続けた。
「だいじな気持ち。
笑ったり、バカにしたり、絶対しないよ。」
柔らかく、
でも、譲らない。
「……だから、ね。
大切なものほど、ちゃんと守らなきゃいけないんだ。」
男子生徒は、
もう何も言えなかった。
涙を、ただ、こらえるだけだった。
カレンは、
没収した同人誌を、
そっと、まるで花を抱えるみたいに扱った。
「これは、私が預かるね。
……また、きみに戻せる日が来るといいな。」
――その言葉に。
男子生徒の肩が、小さく震えた。
(ありがとう、って言いたかった。)
でも、声にはできなかった。
涼子が、後ろでぽつりと呟く。
「……やっぱり、悪魔だ。あいつ……」
でも、その声には、
少しだけ、ほんの少しだけ、
あたたかい色が混じっていた。
カレンは、顔を上げる。
列の先を見つめながら、
変わらぬ柔らかい声で告げた。
「次の方、どうぞ」
風が、制服の裾をかすかに揺らした。
【キャラクター紹介】
長谷川カレン(はせがわ かれん)
学年:高校1年生/所属:風紀委員・生徒会参事/専科クラス在籍
専科クラスに所属しながら、風紀委員として校内全域に出没する“静かなる監視者”。
取り締まりは冷静かつ厳格。
ルール違反を見逃さず、かといって私情を挟まず。
その姿勢から、一部の生徒間では──
「風紀の“サタン”が来た」
と、半ば都市伝説のように語られることもある。
……が、実際に彼女と目が合った生徒たちはこうも言う。
「ふつうに、ニコッて笑ってくれる。びっくりした」
「笑顔が、……なんていうか、天使? でも、悪魔? ……混乱した」
その表情は、まさに──
“天使のような、悪魔の笑顔”
整った顔立ちと優雅な所作。
どこかのアイドル育成ゲームに登場する人気キャラクターに似ているという噂もあり、
校内には非公式ながらファンクラブ的な集まりも存在している。
所属者はオタク・イケメン問わず。
会則は「観察はしても、話しかけてはいけない」らしい。
(そもそも話しかける機会がないという説もある)
──その微笑みに救われた者もいれば、震え上がった者もいる。
だがひとつだけ、共通していることがある。
「彼女は、いつもルールの外にいる。
けれど、校則の中にちゃんといる」──風紀委員・佐藤談