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最終章です。

 年が明け新しい1年が始まった。しかし、受験生にとってはこれからが勝負の時季だった。彩佳と優奈は夢に向かって、お正月もそっちのけで勉強に取り組んだ。いよいよ、大学入試共通テストの日がやってきた。

 朝、彩佳が共通テストに向かうため、地元の駅に行くと、優奈、蒼、美彩の姿があった。

「わぁ!みんな来てくれたんだ。」と彩佳が感激したように言った。

「うん!いよいよだね!彩佳なら大丈夫だよ!!」と優奈が言った。

「今まで、彩佳ちゃんがすっごく頑張ってたの、ここにいるみんな知ってるよ!自分に自信持って、頑張ってきてね!」と美彩が言った。

「テスト開始前、緊張したらこのツボを押すと、気持ちが落ち着くよ。」と蒼は、彩佳の手を取った。

「ひとつは『神門しんもんといって、手首の手のひら側のシワの小指側の骨の下にあるツボ。もう一つは、合谷ごうこくで、手の甲側で、親指と人差し指の骨が交わるところ。これらをゆっくりと呼吸に合わせて押せば緊張がほぐれて、リラックスできるよ。』と蒼は彩佳の手のツボの位置を教えた。

「みんな、ありがとう!私、頑張ってくるね!」と言って彩佳は駅の中に入っていった。


 1週間後。1月最後の土曜日。優奈は視能訓練士の専門学校の入試を受験するため、駅にいた。先週と同じように蒼と美彩、そして彩佳が優奈の応援に駅に集まっていた。

「優奈も私と一緒に頑張ってきたんだから、絶対大丈夫!私も自己採点ではいけてると思うし、優奈も頑張って!」と彩佳が言った。

「優奈ちゃん、つらいこともあったけど、乗り越えてきたんだもん!優奈ちゃんなら大丈夫!自信持って頑張ってきてね!」と美彩が言った。

「頑張って!そして、将来、僕もお世話になります。」と蒼は先週、彩佳にしたのと同じように優奈の手を取ってリラックスのツボを教えた。

「うん!みんな、ありがと。あたし、頑張ってくるね!」と言って優奈は駅の中に入っていった。


 

2月10日。朝から時々雪が舞う寒いひだった。蒼と美彩は、仕事を終え、帰宅するため、クリニックの外に出てきた。雪がチラチラと降っていた。その時。

「美彩さーん、蒼先生!」と二人を呼ぶ声がした。美彩と蒼がそちらに顔を向けると、彩佳と優奈、そして見知らぬ女性がこちらに歩いてきていた。

「美彩さん、蒼先生、今、お帰りですか?」と彩佳が尋ねた。

「ええ、そうなの。あ、改めて二人とも、合格おめでとう。」と美彩が言うと、続けて蒼も「合格おめでとう。」と言った。彩佳は大学の文学部、優奈は視能訓練士の専門学校、それぞれ志望の学校に合格していた。それぞれの合格発表の日にSNSで報告は聞いていたが、合格発表以降、顔を合わせるのはこの日が初めてだった。

「ありがとうございます。」彩佳と優奈は声をそろえて言った。

「ところで、そちらの子は?」と美彩が尋ねた。

「あ!えっと、紹介するね。この子、同じクラスの東野 ことねさんです。」と彩佳が、美彩と蒼に友達を紹介した。ことねは身長が高く、スラっとスレンダーで、髪の毛は肩に付くか付かないかぐらいの長めのボブで、薄い茶髪だ。肌は白く、目も茶色い。学校の制服を着ているがツバのあるハット帽をかぶっていた。

「初めまして。東野ことねと申します。彩佳ちゃんと優奈ちゃんにはいつも仲良くしてもらっておりまして、佐藤さんと川上先生のことは、いつも二人から伺っておりますわ。」とことめは会釈した。

「ご丁寧にどうも。佐藤 美彩です。ことねちゃん、よろしくね。」と美彩。

「同じく、川上 蒼です。ご覧の通り視覚障害当事者で、マッサージの仕事をさせてもらってます。」と続いて蒼も挨拶した。

「ところで、こんな時間から3人でどこに行くの?」と美彩が尋ねた。

「あ、来月に3人で卒業旅行に行こうって話になって、その相談を、さっきまで優奈のおウチでしてたんです。」と彩佳が言った。

「それで、ことねちゃんが帰るので、あたしたちは駅までお見送りなの。」と優奈が言った。

「東野さんは、おウチは遠いんですか?」と蒼が尋ねた。

「はい、いえ、電車で2駅のところですの。」とことねが答えた。

「そうですか。気をつけて帰ってくださいね。」と蒼。

「ねぇ、蒼先生。ことねちゃんはすごく乗り物に弱くて、今度の卒業旅行も乗り物酔いをすごく心配してるんだけど、何かいい方法ないかな?」と優奈が蒼に尋ねた。

「うん、それなら、いいツボがあるよ。ちょっと手を出してもらっていいですか?」と蒼は、ことねに言った。ことねは蒼に手を差し出した。

「ちょっと失礼。手のひら側の手首のシワ、その中央から肘に向かって指三本分上がったところに『内関ないかん』っていうツボがあって、乗り物酔いに効くと言われています。」と言って、蒼は軽くことねの内関を押さえた。

「それに補助的に、内関の反対側にある外関がいかん合谷ごうこくを押したらいいよ。」と外関(手背側で手首から肘に向かって指3本分上がったところ。内関の裏側。)と合谷(手背側で親指と人差し指の骨が交わるところ)を教えた。

「はい。ありがとうございます。やってみますわね。」と、ことねが笑顔で言った。

「うん、試してみてください。ただし、ツボを押したからって絶対酔わないってことじゃないので、酔い止めのお薬と併用することをおすすめします。」と蒼が付け加えた。

 そんな話をしながら、5人はしばらく一緒に歩いた。そして交差点まで来ると

「じゃあね、また今度!」「みなさん、お気を付けて。」それぞれ挨拶して蒼・美彩と彩佳・優奈・ことねに分かれてそれぞれ歩き出した。


 蒼たちと分かれた彩佳と優奈とことねの3人は駅に向かって歩いていた。

「ねぇ?気づいた?」彩佳が2人に尋ねた。

「うん、美彩さんの手袋と蒼先生のハットのピンバッジでしょ?」優奈が答えた。

「どちらも雪の結晶でしたわ。」とことねも答えた。

「まだまだ寒いけど、春はもうすぐみたいだね?」と彩佳が言った。

「だね!」優奈とことねも同意した。

辺りはうっすらと雪が積もり始めていた。


 夜。彩佳はパソコンの前に座っていた。

「もう、高校も卒業なんだわ・・・。これから、どんな未来が待ってるんだろ?」

彩佳はパソコン画面の「登校」ボタンをクリックした。



-数年後、リリアとカイは、あの浜辺に戻ってきていた。夕日が水面に反射し、あたりはオレンジ色に染まっている。リリアは、カイの腕に抱かれながら、穏やかに微笑んでいた。

「カイ、覚えてる? ここで初めて会ったんだよね。」

「ああ、覚えているよ。リリアは、まるで天使のようだった。」

カイは、リリアの髪にそっとキスをした。

「カイは、私の王子様だよ。」

リリアは、カイの胸に顔をうずめた。

「リリア、僕は、君に伝えたいことがあるんだ。」

カイは、リリアの顔を見つめた。

「なあに?」

リリアは、カイの言葉を待った。

「僕は、君を愛している。リリアがアンドロイドでも、人間でも、そんなことは関係ない。僕は、君と一緒にいたい。」

カイの言葉に、リリアの目から涙が溢れた。

「私も、カイを愛している。ずっと、ずっと一緒にいようね。」

リリアは、カイに抱きついた。

二人は、長い間、抱きしめ合っていた。

夕日が沈み、空には星が輝き始めた。リリアとカイは、手をつなぎ、浜辺を歩き始めた。

「リリア、未来がどうなるか、わからない。でも、僕は、君と一緒にいれば、どんな困難も乗り越えられる。」

カイは、リリアの手を握りしめた。

「うん。私も、カイと一緒にいれば、何も怖くない。」

リリアは、カイに寄り添った。

二人は、星空の下、永遠の愛を誓い合った。-



 --おわり--


最後までお読みいただいた皆さん、本当にありがとうございました。

この作品が視覚障害者に対する理解促進の一助になれば幸いに思います。




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