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主な登場人物

川上かわかみ あお

33歳 男性。クリニックでマッサージ師として働いている。視覚障害当事者で、全盲ではないが、白い霧の中にいるような見え方。


佐藤さとう 美彩みさ

29歳 女性。蒼が務めているクリニックで受付として働いている。


深沢ふかざわ 彩佳あやか

高校3年生 女性。蒼と美彩が務めているクリニックの常連患者の一人。蒼と美彩とはプライベートでも仲良くしている。


花岡はなおか 優奈ゆうな

高校3年生 女性。彩佳とは中学時代からの親友。プライベートでは蒼と美彩とも仲良くしている。

 あっという間に秋は深まって、秋風が冷たく感じる季節になった。

11月17日の朝、蒼が出勤のため歩いていると、後ろから爽やかな明るい声がした。

「おはようございまーす。」美彩だった。

「おはようございます。あの、クリニックまで手引きしてもらっていいですか?」蒼も挨拶して、美彩の肩につかまった。こうして、美彩に近づくといつも爽やかで少し甘い、いい香りがする。だが、もちろん、そんなことを言えば、セクハラになりかねないので蒼は言わない。

「ねぇ、昨日も院長先生、ニンニク臭かったですよね?」と美彩が蒼に話しかけた。

「あ、はい。院長先生、結構な頻度でニンニク食べてますよね。」と蒼が言った。

「うん。特に、昨日はひどかったわ。カルテを持って診察室に入ったら、ニンニク臭がモワーって・・・。それでなくても、院長、加齢臭キツいのに、あれじゃ、患者さんかわいそうだよね。」と美彩が言った。蒼はドキっとした。

「あ、あの・・・僕は、その・・・加齢臭とか、大丈夫でしょうか?」蒼は恐る恐る聞いてみた。「え?川上さんは全然、大丈夫ですよー!」と美彩は笑顔で答えてくれ、蒼はホっとした。

「そういえば、最近、待合室に出るといい香りがしますよね?」蒼が美彩に言った。

「あ!さすが川上さん!気づいてくれたんだ。実は最近、アロマストーンを置いたんだ。」と美彩が言った。

「へー、そうだったんですね。どうりで。あ、そうだ!こっちの治療室にもアロマ置こうかな。佐藤さん、どんな香りが落ち着くとか、やり方教えてもらってもいいですか?」と蒼が言った。

「ええ、もちろん。今度、一緒にアロマストーンとエッセンシャルオイル買いに行きましょ。」と美彩が嬉しそうにいった。

「そうだ、ちょっと、これ嗅いでみて。」と美彩は自分の手首を蒼の鼻の近くに持っていった。

「あ!すごくいいにおいだ。」と蒼がつぶやく。

「でしょ。この前、すごくいい香りのハンドクリーム見つけて。院長先生も、少しは香りに気を遣って欲しいわ。」そんな話をしながら、蒼と美彩はクリニックに出勤した。


 治療室。蒼は、山下を施術していた。山下はクリニックの花壇を世話してくれている常連の患者だ。

「なあ、川上先生。ちょっと俺の娘の話を聞いてくれないか?」と山下はマッサージを受けながら話し始めた。

「ええ、もちろんですよ。娘さんどうかされたんですか?」と蒼が山下を揉みながら答えた。

「ああ、娘・・・歩美は今年25歳なんだが、中学生ぐらいのころから近視が強くて、最近になって、レーシックとかICLってのを受けようかって言い出してるんだ。俺、そんなのよくわからないし、先生にちょっと教えてもらおうと思ってな。」と山下が言った。

「なるほど。視力矯正手術ですね。」蒼はまず、山下の娘・歩美について質問した。

「えっっと、昔は、メガネをしてたんだが、高校生ぐらいから、もうずっとコンタクトレンズをしてるみたいだ。レンズははっきりとは知らないけど、たぶん-6とか6.5とかじゃないかな?」と山下が質問に答えていく。

「じゃあ、まずレーシックとICLについてですが、レーシックっていうのは、黒目の表面の角膜を削って光の屈折を調整する手術です。で、ICLっていうのは、目の玉の中にレンズを埋め込むやり方です。」と蒼がざっくりと説明した。

「へー。なんかすげーな。」山下は率直な感想を述べた。

「それで、レーシックとかICLってやった方がいいのか?やめた方がいいのか?先生はどう思う?」山下は単刀直入に聞いてきた。

「そうですね。こればっかりは本当にご本人次第なんですけど、25歳で近視以外に特に大きな目の病気とかがなければ、手術を受けていいと思います。」と蒼は答えた。山下は手術のメリット、デメリットを尋ねた。

「はい。最大のメリットはメガネやコンタクトがいらなくなるってとこですね。朝起きて、メガネやコンタクトなしで、いきなりクリアに見えるっていうのは、すごい快適なコトみたいですよ。」と蒼が言った。

「そうなのか?俺は昔から目はいい方だから、それが当たり前で、よくわからんのだけど、言われてみれば、そうかもな。」山下は納得しているようだ。

「それと、自然災害の時とかですね。仕事中や外出中に災害が起きて避難所に行かなきゃならなくなったら、そう簡単に家にコンタクトを取りに帰れない。避難所にいる間、ほとんど見えなくなってしまいます。何日分ものコンタクトや呼びのメガネを常に持ち歩いていれば良いのですが、なかなか邪魔になりますし、持ち歩いている人はそれほど多くはないんじゃないでしょうか。」と危機管理上の理由も説明した。

「うーん、なるほどね。そやメリット多いな。」山下がうんうんとうなずいている。

「もちろんデメリットもあります。感染症を起こしたり、白内障を発症するリスクもあるみたいです。とにかく、眼科でしっかりと診察・相談して納得した上で決められるようにしてください。」と蒼は話をまとめた。

「ありがとう。川上先生の話を参考に歩美と話してみるよ。」山下はそう言って、施術を終えて帰って行った。


 11月29日、土曜日。土曜日は蒼たちが務めているクリニックは午前中だけの診療で、午後は休診だ。仕事を終えた蒼と美彩の二人は、電車に乗って、前に美彩とイヤホンを買いに行ったあのショッピングモールに向かった。先週、話していたアロマストーンとエッセンシャルオイルを買うためだ。土曜日ということもあって、電車は混んでいて座席に座れなかったが、中年の夫妻が蒼の白杖に気がついて座席を譲ってくれた。蒼と美彩はお礼を言って座席に座らせてもらった。

「私、座席を譲ってもらったの初めてだわ。」と美彩が蒼の耳元で小声で言った。

「まぁ、僕たちの年齢なら、普通はそうだよね。僕は常に白杖を持ってるから、ちょくちょく譲っていただけるよ。でも、これは僕だけかもしれないけれど、一人で乗っているときより、なぜかガイドヘルパーさんとか誰かと一緒の時の法が、よく座席を譲ってもらえるような気がするんだよ。」と蒼が答えた。

 電車に30分ほど揺られて、蒼と美彩はショッピングモールのある駅に降りた。駅からショッピングモールに歩いて行く約5分、風邪はだいぶ冷たかった。ショッピングモール入り口すぐにカフェがあったので、蒼と美彩は昼食を摂るために入った。二人はサンドイッチと、蒼はホットコーヒー、美彩はカフェラテを注文した。

「今日はけっこう寒いですね。」熱いコーヒーをすすりながら蒼は言った。

「ええ。暖かいのが、おいしいですね。」と美彩もカフェラテのカップを手で包みながら答えた。

 軽く昼食を済ませて、二人はお目当てのアロマストーンを買いに行った。

「あ、あの・・・初歩的なこと、聞きますけど、アロマグッズってどこで売ってるんですか?」と蒼が美彩に尋ねた。

「えっと、雑貨屋さんかな。あとドラッグストアとか百均や三百均でも買えるよ。」と美彩が答えた。蒼と美彩はまず、雑貨屋に入った。

「へー。アロマストーンっていろんな形や大きさがあるんですね。」と蒼が言った。

「ええ、それと素材もいろいろあって、それぞれ部屋の大きさとか雰囲気で選べるの。」と美彩が説明してくれた。蒼が美彩に、治療室で使うならどれがいいか尋ねると

「治療室はそれなりの広さがあるから、ちょっと大きめのがいいかも。治療室のどこに置くつもりですか?床?それとも棚の上ですか?」と美彩が尋ねた。

「そうですね・・・。大きさにもよるけど、タオルとか入れてる棚の上がいいかな。」と蒼が答えた。

「うーん。だったら、これなんかどうかな?」美彩は直径10センチぐらいのアロマストーンを蒼に手渡した。「あ、思ってたより小さいですね。」と蒼。

「うん。床に置くならもうちょっと大きめの方がいいかもだけど。それにあんまり香りが強くなりすぎてもいけないから、これぐらいかな?って。」と美彩が言った。

「へー、なるほど。なかなか奥深そうな世界ですね。僕はよくわからないんで、佐藤さんの言うとおり、これにしようかな。」と蒼が言うと

「そんなすぐに決めなくても他のお店も見てみましょ?」と美彩が言った。

「そっか、そうだね。」蒼も同意して、雑貨やの売り場を後にした。ドラッグストアと百均も見たが、コレ!っというのがなくて、二人は三百均にやってきた。アロマグッズの売り場を探してウロウロしていると、急に美彩が立ち止まって

「これとこれ、真っ赤とピンク色があるんだけど、どっちが私に似合うかな?」と蒼の手にハンガーのフックの部分を握らせた。

「ん?どれどれ。」と蒼は商品を目に近づけつつ、よくよく触ってみた。

「わー!!これ、女性用の下着じゃないですか?!もう何してるんですかー?」蒼は顔を真っ赤にしてそれらを美彩に突き返した。

「あははは!もう、川上さん、びっくりしたー?」美彩はお腹を抱えて笑っている。

「ははは・・・あー苦しい・・・、ごめんなさい・・・。こんなところに無造作にパンツが吊ってあったから、つい。」と美彩が涙を浮かべて笑った。

「佐藤さんには、やっぱりピンクかな。」と蒼は恥ずかしそうにボソっと言った。

「え?・・・。・・・あ!もう!川上さん、そんなこと真面目に答えないでくださいよー。」と、今度は美彩が顔を真っ赤にして、蒼の背中をバシっと叩いた。

「イテテ、もう、早くアロマグッズのところにいきましょう!!」と蒼が美彩をせかした。

 結局、三百均もいまいちで、最初の雑貨やのアロマストーンを買うことにした。

「オイルもたくさんの種類がありますが、どれがいいですか?」と蒼が美彩に尋ねた。

「リラックス効果を狙うなら、ラベンダーとかカモミールがいいと思うわ。あとはオレンジとかグレープフルーツなんかも爽やかでいいと思うよ。とりあえずそのあたりを嗅がせてもらって決めましょ。」と美彩がアドバイスしてくれた。蒼は順番ににおいを嗅いでいった。

「治療室には、このカモミールがいいと思うんだけど、佐藤さんはどう思いますか?」と蒼。

「うん。いいと思う。」と美彩が答えた。

「それと・・・このオレンジもいいな。個人的に僕の部屋にも置こうかな。」と蒼がつぶやいた。

「お!川上さん、目覚めましたねー。」と美彩は嬉しそうに言ったその時だった。

「あ、あの、佐藤さん?ですか?」と問いかける女性の声がした。美彩が声の方を振り向くと、雑貨屋の店員と思われる長身の女性が立っていた。女性の慎重は蒼よりやや高いだろうか、170センチ以上ありそうだ。髪はベリーショートで活発なイメージだ。

「あ!・・・えっと・・・もしかして、山下 歩美さん?」と美彩が女性に尋ねた。

「は、はい。そうです。やっぱり、クリニックの佐藤さんですよね!どこかでお見かけしたことあるなって思ったんですよ。いつも父がお世話になってます。」と歩美が笑顔で言った。

「いえいえ、こちらこそ。お父様には普段からお世話になっております。歩美さんがこちらのショッピングモールで働いていらっしゃるとは聞いてたんですけど、まさかお会いできるなんて・・・。」と美彩はいった。

「ありがとうございます。ところで、そちらの方は、クリニックの・・・?」と歩美は蒼のことを聞いてきた。

「あ、はい。申し遅れました。初めましてクリニックでマッサージをしています、川上 蒼です。お父様にはいつもよくしていただいてます。」と蒼は挨拶をした。

「いえいえ、こちらこそ。先日は父が川上先生に、私の目のことで相談までしたみたいで・・・。すみません。」と歩美は頭を下げた。

「いえ、そんな・・・。僕にわかる範囲でお話しさせていただいただけで・・・。」と蒼が言った。

「はい、あの後、父と話ししまして、それから眼科の先生ともお話しして、ICLを今週に受け手来たんですよ。」と歩美が言った。

「そうなんですね!それで術後の経過はどうですか?」と蒼が歩美に尋ねた。

「はい、すごく快適になりました。川上先生が父に言ってくださったおかげで、父もちゃんと理解してくれたみたいで、ホント感謝してます。」と歩美は蒼に言った。。

「それは良かったですね。」と蒼が答えた。

「あ!ごめんなさい。お買い物の途中でしたね。」と歩美が言った。

「あ、はい。こちらこそ、お仕事中にすみません。」と美彩と蒼は頭を下げ、

「今日はクリニックに置くアロマグッズを買いに来たんです。」と美彩が言って、これから購入しようと持っていた商品を歩美に見せた。

「毎度ありがとうございます!お会計はあちらのセルフレジでお願いいたします。」と歩美は満面の笑みで言った。蒼はセルフレジのタッチパネルを操作できないので、美彩に操作をお願いして支払いを済ませた。蒼は、大きめのアロマストーンと小さいアロマストーン、カモミールとオレンジのエッセンシャルオイルを購入した。


「ねぇ、またモールの中を見て回りましょ?」と美彩が蒼を引っ張って歩いた。

「あ!あの手袋、いいなー。」美彩が足を止めて手袋を手に取って見た。雪の結晶柄のかわいい手袋だ。美彩は蒼にも見せて柄の説明をした。

「へーいいじゃないですか。そうだ。ちょっと早いけど、これ佐藤さんにクリスマスプレゼントしますよ!」蒼はそう言って、カバンから財布を取り出した。

「え?いいよ。私、そんなつもりでいったんじゃ・・・。」と美彩は言ったが、蒼は引かない。

「それじゃあ、ありがたくちょうだいします。」と最終的には、美彩は笑顔で受け取ってくれた。


 さらにモールを歩いていると、

「あ!こっちこっち。」美彩が蒼を連れてお店に入った。

「ちょっと、これ、見てみて。」そう言って美彩は蒼の手のひらに小さいものを乗せた。

「これは・・・。」蒼が手で形を確かめる。それは雪の結晶の形をしたピンバッジだ。

「今度は私からのプレゼントよ!いらないとは言わせないんだから!」と美彩は言ってピンバッジを買って来て、蒼のハットのベルト部分にピンバッジを付けた。

「わぁ、思った通り、めっちゃかわいくなったよ。」と美彩は満面の笑みだ。

「佐藤さん、ありがとう。大切にするよ。」蒼は深々と礼押して言った。


「ねぇ今度、彩佳ちゃんと優奈ちゃんとクリスマス会をやるんだけど、プレゼントどうしようかなー?って思って、一緒に見てくれませんか」と美彩が蒼に尋ねた。

「でも、今時の女子高生の好みなんて、僕にはよくわからないよ?」と蒼は苦笑いした。

「でも、あの二人とよくおしゃべりしてるし、大丈夫だって!」蒼と美彩はモールを見て回った。

「これからもっと寒くなるし、あの二人は受験勉強これから追い込みの時期だし、あったかいルームソックスなんてどうかな?」と蒼が言った。

「あ」いいねいいね!それ、いただきだよ。」と美彩も同意した。蒼と美彩は靴下売り場に向かった。

「わー、かわいいのいっぱいだー。」美彩のテンションが上がった。

「あの二人もかわいいのが好きだから、モフモフのとかどうかな?」と蒼が言うと

「うん、そうだね。えっと、この立体の動物のなんてどうかな?」と美彩は蒼にウサギの耳が飛び出したモフモフのルームソックスとキュートなクマが付いたモフモフのルームソックスを手渡した。

「わぁ、すごく手触りがいいね。他にどんな動物があるの?」と蒼が美彩に尋ねた。

「えっとね、ネコちゃんの肉球と柴犬と、あとおサルさんのがあるよ。」と美彩が商品を蒼の前に並べた。

「このネコちゃんの肉球とかいいんじゃないかな?」と蒼が言った。

「うん。めっちゃかわいい。優奈ちゃんはクマさんが好きだからこっちにしよっか?」と美彩が言った。


 こうして彩佳と優奈へのプレゼントも買って蒼と美彩の二人はショッピングモールを出た。辺りはもう日が暮れて暗くなって来ていたが、モール前にクリスマスツリーがピカピカ輝いていた。 

「わぁー、きれい!」と美彩が感嘆の声を上げた。

「ホントだ。キラキラしてる。」と蒼が言った。

「え?」と美彩が蒼の顔を覗き込んだ。

「佐藤さんや他の人とはちょっと違うかもだけど、暗い中にたくさんの光がキラキラ光ってるのがわかるよ。」と蒼が言った。

「ううん。そんなことない。今、私たち、同じ物を見てきれいって感じてるの。」と美彩は蒼の腕にぎゅっと体を寄せた。二人はしばらく輝くクリスマスツリーを眺めた。

「そうだ!川上さん、こっち向いて!」美彩は蒼をクリスマスツリーに背を向けさせ、スマホを取り出した。

「それじゃ、撮るよー。はい、スマイリー!」美彩は蒼に顔を近づけ、くっつきそうなほど密着して、パシャリとシャッターを切った。


 次の週、山下が蒼のマッサージを受けていた。

「この前の話だけど、娘の歩美が先週ICLを受け手来たよ。」と山下は蒼に言った。

「はい。そうらしいですね。実は、この前の土曜日にショッピングモールに買い物に行った際に娘さんとお会いして、少しだけお話させてもらったんですよ。」と蒼が山下に言った。

「ああ、そうだったのか。目の手術、すごく喜んでてな。こんなことなら、迷わずにもっと早くさせてやれば良かった、って思うよ。」と山下が言った。

「いえ、父親として、娘さんのことを大切に思われてのことですから。それは娘さんもわかってらっしゃると思いますよ。」と蒼が言った。

「ああ、ありがとう。感染症とか白内障も大丈夫みたいだし、ホッとしたよ。まぁ、お金は70万ぐらいかかったみたいだけどな。」と山下が言った。

「ええ、レーシックよりICLの方が高いみたいですね。でも、考え方によっては、これから先も15年、20年とコンタクトを続けて、そのコンタクト代のことを考えると、今、手術されたのも、それほど高くはないんじゃないですか?」と蒼が言った。

「なるほどね。そういう計算もできるな。一括払いか、分割払い買ってことだな。」と山下は納得しているようだ。

「ところで、先生と受付の女の子、付き合ってるのか?」と山下がとんでもない質問をした。

「え?な、何言ってるんですか?そ、そそそんなことないですよ。」と蒼はドギマギ答えた。

「そうか。この前の土曜日、二人が駅から出てくるところを見かけたし、ショッピングモールに二人で買い物なんて、てっきりデートだと思ったぞ。」と山下が言った。

「ああ、それは、ここの備品を買いに行ってたんですよ。ほら、今日、この部屋いい香りしませんか?」と蒼がアロマストーンを買いに行って今週から使い始めていることを説明した。

「ふーん。ま、そういうことにしておくか。」マッサージを終え山下は治療室を出て行った。


12月6日 土曜日。仕事を終えた蒼と美彩は、美彩の住むマンションに向かった。元々、この日は美彩の部屋で彩佳と優奈の三人でクリスマス会をする予定だったのだが、

「クリスマスプレゼント、川上さんも一緒に選んでくれたんだから、同席する責任があります!」と美彩に言われ、蒼も参加することになったのだった。蒼が美彩の部屋に来るのは、これで2度目だ1度目は去年の秋、踏切で転けてずぶ濡れで倒れていた蒼を彩佳と優奈に助けられ、近くの美彩の部屋で休憩させてもらったことがあったのだった。

「お、お邪魔します。」蒼はそう言って美彩の部屋の玄関を入った。美彩の部屋は、玄関からもすでにいい香りがしていた。「最近、特にアロマに凝ってて。香りきつすぎない?」と美彩が蒼に尋ねた。

「い、いえ。大丈夫です。すごくいい香りだと思います。」と蒼が答えた。

「うふふ。ありがとうございます。」美彩は笑顔で答えた。「ちょっと、そこに座っててくださいね。」美彩は蒼をこたつテーブルに座らせて、キッチンの方に向かった。4人分のカップを用意し、ポットに水を入れお湯を沸かし始めた。そうしていると、玄関チャイムが鳴った。

「こんにちわー。まだちょっと早いけど、メリクリでーす。」「メリクリでーす。駅前のケーキ屋さんで買ってきましたよー。」彩佳と優奈が賑やかに入ってきた。優奈は持ってきたケーキの箱とシャンメリーのボトルをこたつテーブルの上に置いた。

「ありがとう。」と蒼は言って財布からケーキ&シャンメリー代を出して彩佳と優奈に手渡した。蒼は後から旧居の参加なので、自ら参加費としてケーキ代を出すことにしたのだった。

「ごめんねー。ワイングラスないんだ。」美彩はお盆に普通のガラスコップ4つとケーキを切るナイフを乗せてキッチンから戻ってきた。

 ポン!という開封音が部屋に響いて、クリスマス会が始まった。シャンメリーで乾杯し、ケーキを食べて、美彩のコーヒーを味わった。

 珈琲を飲んで、

「佐藤さんの入れてくれるコーヒーは、やっぱりおいしいな。」と蒼がつぶやいた。

「あー!このシーン、前にも見たことある!」と優奈が叫んだ

「こんなおいしい珈琲は今まで飲んだことない!」彩佳が蒼のモノマネで台詞を言った。

「こんなおいしいコーヒーは、毎日飲みたい!」と、今度は優奈が蒼のモノマネをした。

「あはははは!」美彩は大笑いだ。

「そんなこと、言ってません!」蒼が突っ込んだが、誰も聞いてない。わいわい楽しい時間が過ぎていった。 

 「そういえば、最近『デジタルハート』の更新が止まってるね。今は勉強優先かな?」と蒼が彩佳に尋ねた。

「え?あ、はい。・・・それもそうなんですけど、実は・・・メッセージに批判的なコメントが付いて・・・。」と彩佳が表情を曇らせた。

「そりゃ、みんながみんな、面白いって思ってくれるわけじゃないし、つまらないって感じる人もいるのは理解してるんですけど、それをメッセージで直接言われると、ちょっとショックで・・・。」と彩佳が胸の内を言った。

「ひどいこと言う人もいるのね・・・。」と美彩が言った。

「彩佳!元気出して。あたし、彩佳の小説、大好きだよ!」優奈が励ました。

「そうだよ。僕も『デジタルハート』の大ファンなんだ。小説の好みは人それぞれかもしれないけど、面白いと思って呼んでる読者もたくさんいるよ。だから、書くのをやめないでほしい。」と蒼が言った。

「うん、そうだよ。気にしちゃダメ!書いていけば、もっと感性が磨かれていい作品も生まれてくるだろうし、そのコメントくれた人を見返してやりなよ!」と美彩が言った。

「みんな、ありがとう。」彩佳は涙を流してうんうんとうなづいていた。

「佐藤さん、そろそろアレ、渡したら?」と蒼は美彩の耳元でささやいた。美彩はうんとうなずいて、きれいにラッピングされた堤を2つ取り出した。

「はーい。これ、二人にクリスマスプレゼントよ!」と美彩は笑顔で彩佳と優奈に手渡した。

「わぁー。めっちゃうれしい!何だろ?何だろ?」優奈がプレゼントを受け取りながら言った。

「あ、ありがとうございます。開けてもいいですか?」彩佳も笑顔になっていた。

「もちろんよ。これ、私と川上先生で選んだのよ。」と美彩が言った。

「二人はプレゼントの包みを開けた。

「わぁー!!クマさんだー。」と優奈が簡単の声を上げた。

「私のはネコちゃんだ。肉球、かわいい。」彩佳も感激しているようだ。

「これから、受験に向けて夜遅くまでお勉強することも多いだろうけど、足下暖めて、頑張ってね!」と美彩が言った。

「頭寒足熱といってね、頭は冷やして、足を温めると、心身のバランスが整って、集中力のアップやストレスの軽減、肩こりを和らげてくれると言われているんだ。」と蒼は東洋医学的な解説をした。

「美彩さん、蒼先生、ありがとう!」彩佳と優奈は満面の笑顔でお礼を言った。

「もう、絶対、夢を叶えよう!」彩佳と優奈はそう誓い合った。


 夜。彩佳は自分の部屋で久しぶりにパソコンの前に座った。

「勉強も執筆も、どっちもがんばるぞ!」彩佳はそう自分を鼓舞した。



-嵐の夜だった。激しい雨が窓を叩きつけ、雷鳴が轟く。リリアは、ベッドの中で、不安そうに目を覚ました。

「リリア、大丈夫?」

カイは、リリアの bedside に座っていた。

「ううん……。なんか、嫌な予感がするの。」

リリアは、胸騒ぎを抑えきれずにいた。

その時、大きな雷鳴が轟き、部屋の電気が消えた。真っ暗闇の中、リリアは、恐怖に震えた。

「リリア、怖がらないで。僕がそばにいるよ。」

カイは、リリアの手を握りしめた。

その瞬間、リリアの体が、青白く光り始めた。

「リリア!? どうしたの!?」

カイは、驚きと心配で、リリアを抱きしめた。

リリアの体は、光るたびに、少しずつ変化していった。白い肌は、透明感を増し、青い瞳は、さらに輝きを増した。そして、銀色の髪は、まるで月の光を浴びたかのように、美しく輝いた。

「カイ……。私、怖い……。」

リリアは、自分の体に起こっている異変に、恐怖を感じていた。

「リリア、大丈夫だよ。僕が守るから。」

カイは、リリアを強く抱きしめた。

リリアの体の変化は、しばらく続いた後、ようやく止まった。リリアは、ベッドに倒れ込み、気を失ってしまった。

カイは、リリアの体を優しく抱き上げ、ベッドに寝かせた。そして、リリアの額にそっとキスをした。

「リリア、君は、一体何者なんだい……?」

カイは、リリアの寝顔を見つめながら、呟いた。

翌朝、リリアが目を覚ますと、カイは、リリアの bedside に座っていた。

「カイ……。私、どうしちゃったの……?」

リリアは、昨夜のことを何も覚えていなかった。

「リリア、君は、アンドロイドなんだよ。」

カイは、リリアに、昨夜起こったことをすべて話した。

リリアは、自分の体がアンドロイドだったという事実に、驚きを隠せない。

「私は、アンドロイド……?」

リリアは、自分の手を見つめた。

「でも、どうして……?」

リリアは、混乱していた。

「わからない。でも、きっと、何か理由があるんだと思う。」

カイは、リリアの肩にそっと手を置いた。

「リリア、僕は、君がアンドロイドでも、人間でも、関係ない。僕は、君が好きだ。」

カイの言葉に、リリアは、涙が溢れてきた。

「カイ……。」

リリアは、カイに抱きついた。

二人は、長い間、抱きしめ合っていた。-


つづく

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