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「白い霧の中の彩り」の続編です。

彩佳と優奈は高校3年生になりました。

蒼と美彩は、変わらずクリニックで働いているようです。


続きのお話をどうぞ。


主な登場人物

深沢ふかざわ 彩佳あやか

高校3年生。将来、小説家になりたいと思っている。赤緑色覚以上がある。


花岡はなおか 優奈ゆうな

高校3年生。深沢 彩佳とは中学からの親友。強度近視があり、分厚いレンズの眼鏡をかけている。


川上かわかみ あお

33歳。クリニックでマッサージ師の仕事をしている。視覚障碍者で、全盲ではない。白い霧の中にいるような見え方。外出時は白杖を使う。


佐藤さとう 美彩みさ

29歳。蒼が働いているクリニックで受付業務をしている。彩佳と優奈に慕われ、クリニックの患者みんなから頼りにされている。


 カタカタカタカタ・・・ 深沢ふかざわ 彩佳あやかは自宅の自分の部屋で軽快にパソコンのキーボードを叩いていた。半年ぐらい前から、彩佳は毎晩寝る前1時間ぐらいパソコンに向かっている。彩佳は子供の頃から本が大好きだったが、中学生のころから自分で物語を書くようになっていた。だが、それはノートに書いていただけだったのだが、あることをきっかけに半年ぐらい前からパソコンで物語を書くようになった。彩佳はそれまでパソコンは使ってなかったが、彩佳の父が前に使っていた古いパソコンをもらって、こうして毎日パソコンの前に座るようになった。古いパソコンでもインターネットとワープロ程度なら十分な性能だ。

「ふぅー。今日はこんなものかな?」彩佳はキーボードを打つ手を止めて、イキを大きく吐き出した。そして、マウスに手を伸ばし、クリックを数回。音声読み上げで入力ミスがないか、チェックしていく。

気がついた誤字脱字を修正して、彩佳は上書き保存をクリックした。

「だいぶ、書き貯まってきたから、そろそろいいかな?」彩佳は投稿サイトのアップロード画面を開き、自分が書いた小説の1章を保存していたファイルを選択して投稿ボタンをクリックした。

  時計を見ると、もう夜中の12時だ。彩佳はベッドに潜り込んだ。小説を投稿した日は、ちょっと気が高ぶるのか、寝付きが悪くなる。彩佳はしばらくベッドの中でモゾモゾしていたが、やがて眠りに落ちていった。



 -デジタルハート

        AYA-F

 まぶしいほどの陽光が、白い砂浜に砕け散っていた。波の音だけが静かに響く、この世界の果てのような場所で、少女は一人佇んでいた。透き通るような白い肌、吸い込まれそうな澄んだ青い瞳、そして風になびく長い銀色の髪。まるで精巧な人形のような少女は、しかし、確かに生きていた。

13歳の少女。彼女は特別な力を持っていた。木々や草花、鳥や昆虫、動物たちと話が出来るのだ。それだけでなく、コンピュータとも意識を共有することができた。複雑なコードやデータの海を、まるで自分の庭のように自在に泳ぎ回ることができたのだ。

しかし、少女には一つだけ、大きな秘密があった。彼女は激しい運動をすることができなかった。体が弱く、少し走っただけで息切れがしてしまう。そのせいで、少女はいつも一人だった。

ある日、少女は浜辺で一体のアンドロイドの少年と出会う。少年は、最新鋭の技術で作られた、人間と見紛うばかりの精巧な姿をしていた。しかし、その瞳はどこか空虚で、感情の影が見えなかった。

少女は、少年に興味を持った。アンドロイドと話すのは初めてだった。少女は、少年に話しかけた。

「こんにちは。」

少年は、少女の方を向いた。そして、少し間を置いてから、答えた。

「こんにちは。」

少年の声は、機械的で冷たかった。しかし、少女は、その声にどこか寂しさを感じた。-



4月8日。 彩佳は、自宅の近くにある公園の前に立っていた。少し強い風が吹き、桜の花びらが舞い上がった。

「わぁ、きれい!」

桜は満開を過ぎ、葉っぱがチラチラと出てきていたが、まだまだ花びらを残している。足下は落ちた花びらがいっぱいで、まるで花びらのじゅうたんのようだ。

「彩佳ー、おはよう!ごめん、待った?」花岡はなおか 優奈ゆうなが小走りにやってきた。彩佳と優奈は中学生の時からの親友だ。

「ううん、私も今、来たところだよ。」

「そっか。良かった。じゃあ、行こっか。」

彩佳と優奈は歩き始めた。今日は彩佳と優奈の高校3年生の始業式の日だ。

「3年生も同じクラスになるといいね。」彩佳が優奈に話しかけた。

「うん、そうだね。」

学校に着いて、教室の前に貼り出されたクラス分けを見ていく。

「えっと、はな・・・ふか・・・はな・・・ふか・・・。あった!花岡優奈!・・・あ、東野ことね・・・。良かった!深沢彩佳!!」彩佳は貼り出された名前を読み上げながら、3年生もまた、優奈と同じクラスになれたことを心から喜んだ。

「うん、あたしの後ろに知らない人の名前があったから、もうダメかと思ったよ。」と優奈も、ホっと胸をなで下ろした。

「良かった!また、同じクラスだね。」と彩佳が言った。

「うん!先生、グッジョブ!!えっと担任は・・・鈴木先生か。」

彩佳と優奈は、笑ってグータッチをした。


 彩佳と優奈は3年3組の教室に入った。教室の前の黒板には座席表が描かれていて名前の順に座る座席が決められていた。彩佳と優奈は、その座席表の通り座席に座った。優奈の席は前から3番目、一つ席を空けて、彩佳の席は5前から5番目だった。

「ここ、どんな子かなー?」と優奈が、自分と彩佳の間の座席を指さして言った。

「うん。そだね。いい子だといいな。と彩佳が答えた。しばらくして、一人の女子生徒が教室に入ってきた。その女子生徒は黒板の前に行って、座席表を確かめた後、優奈と彩佳の方へ歩いてきた。その女子生徒を見て、彩佳と優奈は驚いていた。肌はとても白く、髪の毛は明るい茶色。ツバの大きな帽子をかぶり、緑色のレンズのメガネをかけていた。その女子生徒は優奈と彩佳の間の席に座った。

 その時、担任の鈴木先生が教室に入ってきた。

「よーし、全員揃ってるか?これから1年間、このクラスの担任をします、スズキです。みんな、よろしく。」と鈴木は、クラスの全員に向かって挨拶をした。

「先生!」手を挙げる女子生徒がいた。優奈と彩佳の間の席の女子生徒だった。

「わたくし、この席からですと、黒板の文字が見えませんの。一番前の席に変えていただけませんかしら?」と女子生徒が言った。

「えっと、東野ことね(ひがしの ことね)さんだね。わかった!・・・それじゃ津田さん、野中さん、花岡さんの3人は一つずつ後ろの席に移動してください。そして、東野さんは一番前の席に。」と鈴木が指示をして、4人はそれぞれ席を移動した。

「他に黒板が見えにくい者や、先生の声が聞こえにくい者はいないですか?」と鈴木は皆に問いかけたが、誰も名乗り出なかった。

「やったね。彩佳の前の席に来れたよ!」と優奈は彩佳にウインクして見せた。


 始業式が終わって、その日の午後、彩佳と優奈は家の近所にあるクリニックにやってきた。クリニックの駐車場脇にアル花壇には早咲きのチューリップの小ぶりな花が色とりどり咲いている。

「わぁ、めっちゃかわいい!!」彩佳と優奈は花壇いっぱいに咲いたチューリップを見て感嘆の声を上げた。

「お!二人とも、こんにちわ。どうだ!きれいだろ?!」花壇の世話をしながら山下が彩佳と優奈に話しかけてきた。

「はい!すごくきれいでかわいいです。山下さん、いつもご苦労様です。」彩佳と優奈は声をそろえて言って、ぺこりと頭を下げた。

「わはは!そうだろう、そうだろう。よっしゃ、また、やる気が出てきたぞ!」山下はそう言って、また作業を始めた。山下はこのクリニックの常連患者であり、クリニックの花壇係をボランティアでやってくれている気のいいおじさんでアル。

「山下さん、またね。」彩佳と優奈は手を振ってクリニックの中に入っていった。このクリニックは彩佳が小学生の頃から家族ぐるみでお世話になっていた。

「あ!彩佳ちゃん、優奈ちゃん。こんにちわ。」受付の佐藤さとう 美彩みさが明るく挨拶をしてきた。美彩は開院当初から受付をしていて、彩佳は小学生のころからよく可愛がってもらっている。

「美彩さん、こんにちわ。私は蒼先生のマッサージ、お願いします。」と彩佳が言った。

「美彩さん、こんにちわ。私は、院長先生に花粉症のお薬出してほしいです。」優奈が続けて言った。

「はーい。二人とも、ちょっと待っててね。」美彩は、カルテ棚から2冊のファイルを取り出して診察室の方へパタパタと歩いて行った。しばらくして、美彩が戻ってくるとすぐに治療室のドアが開いて、川上かわかみ あおが顔を出した。

「深沢さーん!」蒼が大きな声で彩佳を呼んだ。蒼はこのクリニックでマッサージ師として働いている。視覚障害者で、全盲ではないが、視界は白く深い霧の中にいるような感じだ。

「はーい。じゃあ行ってきまーす。」彩佳は優奈と美彩にそう行って、治療室の中に入っていった。


 「この前、アップしてた『デジタルハート』読みましたよ。」マッサージをしながら、蒼が彩佳に話しかけてきた。

「え!?本当ですか?何か、恥ずかしいな・・・。」

「ええ。まだ、物語の冒頭部分だけでしたけど、ワクワクドキドキが止まりませんでした。これからこの二人はどうなっていくんだろ?って。前にプロットを読ませてもらってあらすじは知ってるんですけど、それでもすごく面白いです!続きがすごく楽しみですよ。」と蒼が力強く言った。

『デジタルハート』は今、彩佳が執筆中の小説で、数日前に第1弾をネットの小説投稿サイトにアップしたところだった。

 彩佳は中学生の頃から、小説を読むだけでなく、自分でも物語を書くようになった。半年ぐらい前に、そのことを蒼に話したことがあった。すると蒼は

「へー。今、どんな物語を書いてるんですか?」と聞いてきた。

「今はまだプロットを作ってる段階なんですけど、アンドロイドの男の子が、一人の少女に出会って、感情が芽生えるっていうお話です。」彩佳は少し照れながら言った。

「すごくおもしろそうですね。ぜひ、読んでみたいです。」と蒼が言った。

「あっ、でも、私、小説はノートに書いてて・・・。」と彩佳。蒼は視覚障害者だ。全盲ではないが、とてもノートに書いた文字を読むことはできないだろう。

「そうですか・・・。それじゃあ、これをきっかけにパソコンか、スマホで書いてみませんか?」と蒼が提案してきた。

「え!?でも・・・。あ!そういえば、お父さんが前に使ってたパソコンがひとつ余ってたなー。」彩佳がつぶやいた。

「ワープロでも、メモ帳などのエディターでもいいから、それで書いてみてください。慣れてくれば、紙に書くよりずっと便利だと思います、テキストデータなら、音声読み上げで僕でも読めますから。」蒼がプッシュしてきた。

「わ、わかりました。今度、パソコンでプロット書いてみますね。」

 それから2ヶ月ほど経って、プロットをUSBメモリに入れて、蒼に渡した。蒼はすぐにパソコンに挿してファイルを開こうとしたので

「あ、あの・・・恥ずかしいのでおウチに帰ってから見てもらえませんか?」

「ああ、すみません、つい嬉しくて・・・。」蒼はUSBメモリをパソコンから外すと、ポケットに入れた。次の週、彩佳が治療室に入ると

「深沢さん!これ、すごくおもしろかったです。これは、ぜひ小説投稿サイトにアップして、多くの人に読んでもらった方がいいと思います。」蒼はUSBメモリを彩佳に返しながら言った。

 それから、4ヶ月。つまり、先週の4月2日になって、彩佳は『デジタルハート』と題したオリジナルの物語を小説投稿サイトに初めて投稿したのだった。


 クリニックの待合室では、優奈が受付の美彩から薬を受け取っていた。

「これが、アレルギーの飲み薬で、一日一回、こっちが点鼻薬ね。」

「ありがとうございます。スギ花粉はまだ我慢できたんですけど、あたしヒノキの方がキツイみたいで・・・。」優奈はそう言いながら薬を受け取り、代金を支払った。

「優奈ちゃんたち、もう高校3年生なんだよね?」美彩がしみじみと言った。

「はい。今日始業式だったんですけど、3年生も彩佳と同じ暮らすになれてホント良かったです。」優奈が嬉しそうに言った。

「そう!それは良かったね。高校3年生といえば、受験生だもんね。お勉強も頑張ってね!」

「あはは・・・。まだ、その実感はないけど・・・頑張ります。」優奈は苦笑いを浮かべた。そのとき、治療室のドアが開いて、彩佳が治療を終えて待合室に出てきた。

「あ!彩佳ちゃん。」美彩が彩佳を呼ぶと、彩佳が美彩と優奈のところに近づいてきた。

「今、優奈ちゃんに、いよいよ受験生ねって話してたの。」美彩は彩佳の請求書・領収書を発行しながら話しかけた。

「えっ、あっ、はい。」彩佳がバッグから財布を取り出しながら答えた。

「二人は、進路もう決めてるの?」美彩が発行された請求書・領収書を受付台に置いた。

「ええ。まあ。」彩佳がお金を支払いながら答えた。

「ええ!彩佳!!もう進路決めてるの!?」優奈が驚きの声を上げた。

「決めたっていうか、昔から渡し、小説家になりたいって言ってたでしょ?それで、やっぱり文学部に行きたいなって思ってるの。」彩佳が少し恥ずかしそうに言った。

「すごいわねー。彩佳ちゃん、頑張ってね!応援してるわよ!!」美彩がそう言いながらおつりを彩佳に握らせた。

「そっかー。彩佳はやっぱり小説家志望なんだー。あたしはまだ全然将来見えないや。」と優奈が肩を落として言った。

「焦ることないわ。まだ3年生始まったばかりなんだし、じっくり考えていけばいいのよ。」と美彩が優奈に優しく言った。

彩佳と優奈はクリニックから帰っていった。



つづく

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