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第8話 辺境伯達の事情。

テオドール視点


「さて、いろいろと確認しようか」


私はジェイド殿の用意してくれたゲストルームで、娘のマリア、私の幼馴染にして辺境騎士団団長のオーランド、元冒険者で、新米若手騎士達の教官を任せているロイ、帝都にいる王太子妃になることが内定しているもう1人の娘であるソフィアの伝手で働いてもらっている魔術師のミシェラ、同じく弓の名手であるファーナ。もう1人の魔術師であるスキアは問題児達の監視役を任せているので、この場にはいない。ミシェラと後で情報を共有する様に予め伝えている


全員がテーブルを挟んで着席し、表情を引き締めた。


「まず、ジェイド殿のことだが、彼はひとまずマリアの恩人ということで賓客として扱うことにした訳だが、今後の対応はどうすべきだと思う?」


「……少なくとも敵対することは避けた方がいいのは間違いないな。俺の剣を指2本で受け止めた化け物だぞ? テオ……閣下が彼を止めてくれなかったら、俺は確実にこの場にはいなかったのは間違いない」


息子のジャンが殺されたと勘違いして、ジェイド殿に斬りかかり、一蹴されたオーランドが重々しくそう告げた。


「その意見には賛成だ。ヒヨっ子共から絞り出した話では、魔術を使わずに、魔導具でフォレストウルフ共を誘導して、殲滅したらしい。そんな威力を出す魔導具の使い手が味方であれば心強いが、敵であれば脅威でしかない」


ロイもオーランドの意見に同調した。


「閣下、発言してもよろしいでしょうか?」


「ああ、構わないよ。それから、この場では挙手して発言の許可を求めなくていいからね」


ミシェラが帝国の身分制に従って挙手して許可を求めたので、私は許可するとともにこの場では公の場ではないので、挙手は不要である旨を伝えた。


「ありがとうございます。もし、ジェイド様が、私が考えている通りの存在でしたら、絶対に敵対してはいけません。なんとしても、味方になってもらうべきです!!」


「あたしもミシェラの意見には賛成。この家型の魔導具といい、帝都のいけ好かない宮廷魔術師よりも腕はいいと思うけど、どうしたの、ミシェラ? 貴女にしては珍しく熱心に進めるじゃない?」 


普段沈着冷静なミシェラらしからぬ熱弁にファーナがこの場にいる皆の気持ちを代弁してくれた。


「……失礼しました。ご説明いたします。今は人の姿をとられていらっしゃいますが、おそらくジェイド様は長き時を生きる竜族だと推察されます。ここにいるみなさんも聞いたことがあると思います。帝国がまだ王国だった時代に、双子の王子を仲間達と共に助けて導いた翡翠の竜の昔話を……」


落ち着きを取り戻したミシェラがそう言った。


「ミシェラ嬢、彼がその翡翠竜であるという証拠はあるのかい?」


憶測や証拠もなくそういうことを言う人物ではないことは十分理解している。私ももしやという思いがあるだけに、ミシェラの主張の根拠が知りたかった。


「もちろんあります。まず、ジェイド様が作ったこの家型魔導具、厨房にあった調理魔導具、記憶映像を映写していた魔導具ですが、私はもとより、帝都にいる宮廷魔術師筆頭殿でも、同じ材料・素材を用意されても、絶対的な魔力が足りなくて製作できません」


ミシェラのこの主張は頷ける。我が居城も、ミシェラ達がやってくるのに併せて、トイレを汲み取り式から水洗に替えたとき大変だったから、如何にこの家のトイレが異常なのは理解できる。ウォシュレットは是非、居城のトイレにも付けてほしい。


「次に、かの翡翠竜は賢者を名乗る痴れ者達の蛮行に激怒して、仲間の冒険者ルベウスと共に壊滅させたという逸話が先ほどの映像付きのお話と一致していますし、映像に出ていた赤毛の冒険者がルベウスだったのも確認しました」


この逸話との一致は私も気づいたが、記憶映像の中の赤毛の冒険者がルベウスだったという点は見逃し、聞き逃していた。


「最後にジェイド様が自身を“大魔導師”と名乗ったこと。彼の翡翠竜も賢者と呼称されるのを極度に嫌い、『大魔導師』と名乗り、双子の王子を仲間と共に救っていました。加えて、彼の翡翠竜は大森林の奥地に姿を消したと記録が残っていました」


この点も私はミシェラと同意見。ジェイド殿の記憶映像の中でも賢者と呼ばれるところがあったが、ジェイド殿は否定していた。“大魔導師”と名乗っていいのは彼の翡翠竜と彼が認めた後継者のみと決められている。


また、当家、カーン辺境伯家は翡翠竜と繋がりが強い貴族家であることは歴代当主にのみ語り継がれている。


「では、お城に戻ったら、お母様の容態を診てもらいましょう」


それまで黙っていたマリアがそう意見を述べると、私を含め、この場にいた全員が頷いて同意した。城で寝込んでいる我が最愛の妻は原因不明の病で長い間寝込んでいる。伝手を頼って、帝都の宮廷魔術師に頼んだが、完治には程遠い。マリアが大森林へ探索に出たのはその妻の病を治す薬草があると言われているからだ。


「それから、ジャンの処分だが、マリアの婚約者とするのは当分見合わせる。増長した態度を改めない限り、見合わせから、白紙に戻す。残念だが、いいな?オーランド?」


「ええ、本人が反省して、見込みのある男になりましたら、その時に改めてお願いします。今のあいつではマリア様にふさわしい男とは親の贔屓目で見たとしても、とても言えません」


ジャンはマリアの婚約者にするという話があってから、辺境伯家で実力も上である先輩騎士達にも横柄な態度をとる様になって増長していた。今回の処分が薬となって態度を改めてくれればいいのだが……。


「俺と妻の説教も効いてなかったみたいです。ロイさん、お手数をおかけしますが、存分に、曲がってしまったあいつの性根を叩き直してやってください。」


「おう、任せとけ!」


自分の息子を思ってか、表情が曇った私の幼馴染は『活かさず、殺さず絶妙な訓練を課してきて、心身を追い詰めてくる』と騎士達に恐れられているロイにジャンの教育をお願いしていた。


対するロイは『泣く子が更に大泣きする』と言われているその強面で獰猛な笑みを浮かべて快諾していた。ジャン、強く、生きろ! そして、元のまっすぐな性格に早く戻るんだ!


「……普段よりもやけに言葉が少ないねマリア。そんなにジェイド殿が気になるのかい?」


「ッ!? 気になると言えば、たしかにそうなんですが、あの人を見て、初めてなった気持ちなので、なんと表現したらいいか、わかりません!」


私の指摘に、可愛い顔をマリアは顔を真っ赤にして、そう言ってきた。そんな様子のマリアをミシェラとファーナは微笑ましく見守っている。


これはジェイド殿と一度きちんとした対談の場をつくらないといけないな。そう思った私は娘の成長を嬉しく思いながらも、複雑な気分だった。


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