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第6話 翡翠竜は賢者が嫌い

大森林の樹木を伐採して作ったスペースに鎮座する俺のインフラ完備のコテージ型魔導具を初めて目の当たりにしたテオドール達カーン辺境伯一行は予想通り、茫然としていた。


言われなくともわかる。俺は今、ドヤ顔をしているのだろう。


固まっていた一行の中で、一早く動き出したのはテオドールだった。目を子供の様に好奇心で輝かせて再起動した。彼の次に我に返ったのは、娘のマリアだった。


日も大分落ちてきたため、俺はコテージの周囲を警備するための警備ゴーレムたちを起動し、テオドール達を案内することにした。


コテージは3階建てで、全員に1階の個室をそれぞれ割り当てても、まだ余る部屋数がある。1階には食堂、厨房、大広間、研究用の工房、鍛練場があり、2階には男女別に分かれている大浴場、1階の個室よりもスペースが広い個別バス・トイレ付きゲストルーム、3階には俺しか入れない俺専用の寝室と書斎、解放している展望室。


こぢんまりとした外観からはとても設備の全てが収まっている様には見えないが、そこは【空間魔術】を最大限に活用して実現した成果だ。


テオドールが率いてきた6騎のもう1人の前衛担当は、先走った見習いだった若手騎士達の教官を任されていた人物で、彼は若さ故の過ちを犯した見習い達の性根を叩き直すべく、俺による大広間での簡単な施設案内が終わると、早々に俺に鍛練場の使用許可を、テオドールに見習い達の訓練を行うことを告げ、鍛練場へ項垂れる見習い達を連れて行った。


それなりの人数いるから、そろそろ夕食の準備をしないと間に合わない時間になってきたので、残りの面子で厨房に行って、夕食の準備をすることになったのだが、マリアと見習い達が食糧を用意しているはずもなく、他方、テオドール達はというと、アイテムボックス持ちがいるとはいえ、その収納力の多くは大型のテントに占められ、収納している食糧は味気ない干し肉とパンといった保存食だけだった。


大きな罪悪感が湧いたので、食材に関しては、この後の夕食と明朝の朝食の分は俺がもつことを伝え、不安がったテオドール達に厨房の冷蔵庫を開けて、保存している食材を見せて納得させた。


調理時間とおかわりを含めて決まったメニューはキャンプでの定番メニューの1つのカレー。野菜は俺が里の自分の畑で栽培していた人参と玉ねぎ、ジャガイモ。使う肉は俺が道中、返り討ちにした魔物の中に結構いた豚肉に近い肉質のビッグワイルドボア。カレースパイスも大森林で自生していたものを採取して、いい塩梅に調合したものをたくさん用意しているから、今回消費しても問題ない。


厨房の調理魔導具に目を輝かせていたテオドール親子と女性魔術師2人組は、今は手際よく野菜の皮むきなどの下拵えをどんどんこなしていく。


残った俺とオーレンは人数分の米を研いで、本格大釜型炊飯器魔導具で炊いている。オーレンは出会いこそよくはなかったが、話せば分かる、悪い奴ではなかった。和解もすでに済ませたこともあって、俺とのわだかまりはない。


そして、意外だったのが、この中で一番身分の高いテオドールの包丁の扱いが思っていた以上に巧みで、ジャガイモの皮を慣れた手つきで次々と剥いていった。


夕食の準備はトラブルなく順調に進み、大浴場で汗を流して身だしなみを整えてきた教官が丁度いいタイミングで、テオドールに報告に来たので、食堂での夕食に移ることになった。


見習い達は全員、顔が死んでいたが、並ぶ夕食を目にして、微笑ましい復活を果たしていた。俺に敵意を向けていた面々は教官の訓練によって最早、その気概はなくなっていた。


テオドールの号令で夕食会が始まり、みんなポークカレーならぬボアカレーに舌鼓をうっていた。ルーも3種、甘口、中辛、辛口を用意している。


「ジェイド殿、相応の対価を支払うから、カレーのスパイスを譲ってくれないだろうか?」


本気(ガチ)な眼差しのテオドールと、彼の後ろで、夕食の調理で親交を深めた女性魔術師2人組が無言で、テオドールに同意する様に頷いている。


彼等の傍らでは、姫騎士という凛々しいキャライメージを崩壊させる程に、惚けた表情をしたマリアが一心不乱に甘口カレー(特大)を食べていた。君、食いしんぼキャラだったのか……。


「すいません、商談については城についてからでいいですか?」


テオドール達の気迫に押された俺はなんとかそう答えて、納得してもらった。


「失礼、今は食事中でしたね。いやぁ、この家型魔導具といい、まるでジェイド殿は御伽噺に出てくる賢者みたいですね」


ゾォッッッ


「「「っ!?」」」


「あっ!」


思わず漏れ出てしまった俺の濃密な殺気にあてられて、食堂にいた全員が、一瞬体を強張らせた。マリアは手にしていたスプーンを床に落としそうになったが、俺が【念動】で床に落ちる前に回収して、マリアの手に移動させた。


「はははっ、申し訳ない。俺は賢者に対して、いい印象といい思い出が全くないので、賢者と呼ぶのはやめてください」


「そうか、それは大変失礼した。差し支えなければ、なぜ、ジェイド殿はその様に思われているのか、教えていただけないだろうか?」


頭を下げて謝罪してきたテオドールの謝罪を受け入れ、別段隠すことでもないので、俺は話の種として、その理由について語ることにした。


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