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第23話 翡翠竜、辺境伯夫妻に報連相する

「わたしを明日以降のジェイドさん、貴方の旅に同行させて欲しいのです」


マリアは真っ直ぐな瞳で俺を見据えて、そう告げた。


「ん? 面白いことは何も起こらない……ハズだが、なんでついてこようと思ったんだ?」


明日は冒険者ギルドに出向いて、通行手形代わりのCランク冒険者証(ギルドカード)を受け取り、ユグドラの前世との娘夫婦のアリア達の墓参りに遠出する予定だ。冒険者ギルドでお約束イベントが発生する可能性が頭を過った。しかし、余計なフラグ立ちそうだったから、すぐにそれを打ち消した。


「わたしは生まれてから、このカーン辺境伯領から出たことはこの前の大森林以外ありません。このまま順調にいけばお父様から次期辺境伯を継承することになりますが、そうなると他の貴族家がどのような統治をしているか、領民達がどんな生活をしているのかを直接見ることができなくなります。それは統治者としてよくないと思うのです」


「ふむ、ア……コホンッ君の言い分はわかった。だが、その前にやるべきことをやってきなさい」


「やるべきことですか?」


俺の返答を聞いて首を傾げたマリアに構わず、俺は扉を開けた。


「あっ!? マリア様! 見つけましたよ! お勉強の時間ですが、その前にお仕置きです!!」


「あ……」


丁度、扉をノックしようとしたミシェラと俺は視線が交差した。


一瞬困惑したミシェラは部屋の中にマリアがいるのを見つけて、青筋を浮かべ、どこで身につけたのか、魔術師らしからぬ、無駄に洗練された無駄のない、無駄にダイナミックな動きで、咄嗟に逃げようとしたマリアを捕まえた。


「それではジェイド様、失礼します」


「……(ペコリ)」」


「ああ。マリア、さっきの話は君がやるべきことをちゃんと終えていることが前提だ。一応、こちらはきちんと準備はしておくから、存分に励みなさい。ユグドラ、マリアについてあげてくれ」


「ミャア」

(わかったわ。貴女について行ってあげるから、頑張りなさい。マリア)


「っ! わかりました。ありがとうございます、ジェイドさん、ユグドラさん! ミシェラ! 時間が惜しいので、急ぎましょう!」


ガシッ


「はい?」


「にゃあ」

(ほどほどにしなさいよ……)


黒猫ユグドラがついてきてくれることになって、やる気が一気に上昇したマリアはミシェラの腕を掴み、ユグドラを頭に乗せて、マナーに厳しいらしいクローディアに怒られないギリギリの早足で、ミシェラを引きずる様にしながら、自室へ戻って行った。


「はぁ、やれやれだな……」


独り、部屋に残った俺はため息をつき、明日の準備のために、部屋に備え付けのベルを鳴らして、使用人を呼び出した。そして、すぐにテオドールとクローディアに緊急で面会してもらうアポを取ってもらった。



※※※


「マリアが、ジェイド殿に同行するのを望んだのですか?」


「ああ、彼女が領民と他の貴族の領地を目にしておきたいと先程、希望してきた。正直、圧制を敷いているらしいアーク侯爵領は、統治者の反面教師としては確かにぴったりではあるのだが、マリアが見に行く程の価値があるのか、俺には判断がつかない。ただ、経験という面で彼女の旅はありだと俺は思っている」


テオドールはマリアの独断行動に驚きながら俺に聞き返してきたので、俺は所感を率直に答えた。


「……そうですね。ジェイドさんが同行してくださるのであれば、問題はなさそうですね。マリア(あの子)にとっていい経験になると思います。ただ、ジェイドさんは一人旅の方がいいのではないですか?」


瞑目していたクローディアがまっすぐ俺を見て、尋ねてきた。


「たしかに、身軽な一人旅でもって、さっさと行って、さっさと帰ってくるつもりではあったが、使い魔が監視しているアーク侯爵家(むこう)の動きが俺の想定よりも大幅に遅れている。それに対して、カーン辺境伯軍(こちら)の準備が予定を繰り上げて、進んでいるから問題ない。最悪、俺が用意している転移魔導具を使って戻ってくるから大丈夫だろう」


俺が持っている転移魔導具はネリト達が使った転移魔導具(もの)の完全上位(・・)互換品で、動力源の魔石の魔力を補充するか、魔石を交換すれば繰り返し使える上、転移先についても変更や最大2つまで追加できる超便利アイテムだ。


防犯として、魔力検知を含め、各種認証で俺もしくは俺がゲストとして登録した者しか使えない。設置場所から、魔導具を俺の許可なく移動しようとすると、気絶する程度の電撃を発生して、俺に知らせる。


ちなみに、この領城内には既にテオドールとクローディアの許可をとって、いくつか転移魔導具を設置済みだ。


「……わかりました。ジェイド殿、大変申し訳ないのだが、マリアの世話役として、ファーナを同行させていただきたい。何度かアーク侯爵領へ任務で向かわせたことがあるので、ある程度は土地鑑もあって役に立てるはずです」


「本当はマリアを応援してあげたいのだけれども、お忍びでもあの子にファーナを付けてあげないと、ジェイドさんに迷惑がかかるから仕方ないわね」


テオドールが腹を括った表情で告げたことを聞き、クローディアは嘆息と共にそうこぼした。


「わかった。土地鑑があるなら助かる。俺達が戻ってくるまでに、【身体強化】を使いこなして、予定通り、可能な限りスキルのレベルを上げておいてくれ。一応、部位欠損事故が起こったときに備えて「完全回復薬(エリクシル)」を3本置いていくが、無茶だけはしないでくれよ。死んだら、「完全回復薬」でも生き返らせることはできないからな」


俺はそう言って【アイテムボックス】から「完全回復薬」を取り出し、テーブルの上に置いた。テオドールとクローディアは驚きで固まった。


俺がアーク侯爵領に行っている間にテオドール達カーン辺境伯軍の主力にはスキルロール――消費型の魔導具でスキルオーブの下位互換品――で火魔術の【身体強化】を習得して、その習熟に励んでもらうことになっている。


【身体強化】は最大レベルの10まで上げれば、素の3倍まで筋力・肉体速度・身体強度等のステータスを底上げできるチートレベルの魔術だ。当然、アーク侯爵家や賢者共の所為で、存在自体が忘れ去られていた。


アーク侯爵家が攻め込んでくるまでに上限までスキルレベルを上げきるのは、まず不可能。現時点の俺の想定していたレベル2上回っているけれども難しいだろう。故に、可能な限りで上げてもらう方向になっている。もちろん、【魔力防御膜(マジックバリア)】対策の一環だ。マリアとファーナに関しては旅の道中に頑張ってスキルレベルを上げてもらうことが確定した。


※※※


「~ッ!?」


「どうかしましたか、マリア様?」


「にゃう」

(どうしたの、マリア?)


「いえ、なぜか急に悪寒が? 一体なんなのでしょうか??」


同時刻、ミシェラの監督の下、黒猫ユグドラに応援されながら、勉学に励むマリアは急激な悪寒に襲われていた。

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