第19話 翡翠竜、自称賢者共の特技を実演して暴露する
「【遮音】の魔導具を起動した。俺の半径1m外に音は漏れないから今、この会話はあそこにいるギルドマスター達には聞こえない。2人は賢者、アーク侯爵家と戦場で対峙したときの戦い方、上位魔術職との戦い方は知っているか?」
「え?」
「なにか違うのですか?」
やはり懸念していた通り、俺が引き篭もる前に教え子達に教えていたことは失伝している。10中8、9、長期間にわたる賢者達とアーク侯爵家の情報操作によるものだということはミシェラ達に聞いたことから予想はしていた。今、このまま戦ったら、テオドール達は確実に一方的に蹂躙されてしまう。
「言葉で教えるより、実際に体験した方が分かるだろうから、実践しよう」
俺がそう言って、【アイテムボックス】から杖を出して構えると、俺の意図を察したクローディアは満面の笑みを浮かべて、大剣を構えた。テオドールはそんな彼女の様子に苦笑いしつつ、愛用している斧槍の穂先を俺に向けた。
俺は結界石型の特製魔導具『実践訓練用結界石(ガチ練仕様)』を起動した。あっ、結界の効果範囲内にいた模擬戦の審判をしていたオーランドを巻き込んでしまった。まぁ別にいいか(確信犯。
「これで、結界内で致命傷を受けたと判定された者は治療されて結界外に弾き出される。元々俺が冒険者をしていたときにパーティー内で誰が1番強いか?という話題になって、バトルロイヤルをすることが決まったときに作ったものだ。この中ならば人の身であればどんなに暴れても周囲に被害は出ないから、全力でかかってくるがいい。でないと、一方的に終わるぞ!?」
俺はテオドールとクローディア、オーランドの3人へそう告げると、【石人形兵作成】で、大剣装備の全長2mのゴーレムを2体作り出し、
「同じ得物の2人と遊んでやれ!」
やる気に溢れたクローディアと巻き込まれたが、事態をすぐに理解して、愛剣を鞘から抜いて応戦体勢に入っているオーランドの2人へけしかけた。うむ、今の俺ってとっても悪役ムーブ。
「おっと、クローディアへの助太刀はさせないぞ。テオドール」
先程の模擬戦を再現するかの様にゴーレム相手にクローディアと連携しようとする動きを見せたテオドールの心臓を狙って、無属性初級魔術【魔力弾】を放つと同時に、俺はゴーレムと互角の戦いを繰り広げているクローディアには大地属性中級魔術【落石雨】を使って、強引にテオドールと離した。
「さて、形式上、今は俺の雇い主ではあるが、この際敬称は省かせてもらう。テオドール、お説教とお勉強の時間だ」
俺はそう告げて無属性初級魔術【魔力弾】を素手から連射、無属性中級魔術【魔力炸裂弾】を杖先から放つ。
「お説教とお勉強? 何を? っとぉ……!?」
【魔力弾】を斧槍で弾き、【魔力炸裂弾】は【直感】で弾くことをできないとテオドールは瞬時に判断して、その効果範囲から回避……ギリギリで間に合ったようだな。
「1つ、危機感がなさ過ぎる。俺が【認識改変】を自称賢者……アーク侯爵家が濫用していることを教えたが、しばらくしても何も対策を訊いてこなかったよな? ネリトはクローディアが狙いだったけれども、アーク侯爵家の他の人間、ネリトを蹴落として次期当主になりたい輩がクローディアまたはマリアを狙って同じ方法を仕掛けてこないとも限らない」
「それは……」
「俺を信頼してくれるのは個人的には嬉しく思うが、俺がやろうと思えば、ネリトがやろうとしたことを俺がやって乗っ取ることもできたし、やるつもりは全くないが、やろうと思えばカーン辺境伯領を地図上はもとより、物理的に消すこともできるぞ?」
「……」
俺の言葉に思う所があるのか、テオドールは押し黙った。その様子がまた記憶の中のアイツと重なって見えて、俺は胸中で何度目かの苦笑いをせざるを得なかった。
煽りまくっているが、実際、テオドールは他人の善意を信じ過ぎている所がある。個人としては好ましいと言える気質だが、貴族として、辺境伯家当主としてはいただけない。
「2つ、跡取り問題に関して上級貴族としての自覚が疑わしい。辺境伯は間違いなく、上級貴族だ。しかも、危険な辺境を任されているのだから、死んでしまう可能性が高い。それにも関わらず、子供が2人しかいない。クローディア一筋だというならば、彼女のためにも、あと3人は頑張れ」
嘆かわしいことだが、大森林に引きこもる前は王国だった現帝国の俺が頑張って下げた子供の死亡率は上がって出生率は下がっていた。原因は悪い期待を裏切らないあの自称賢者共の恣意だ。もう大体賢者達の所為だ。
ユグドラ情報と元貴族令嬢であるミシェラに確認したが、現在の帝国上級貴族、カーン辺境伯家と例外のアーク侯爵家を除いた、貴族の子供の数は1家あたり側室の子供を含めても、最低5人で、存命は2〜3人。亡くなった子供の死因は病死か不審死で、不審死の割合の方が異常に多かった。
ギィンと、テオドールの斧槍の刺突を無属性防御魔術【魔力防御膜】が防ぎ、俺は無傷。
「3つ、アーク侯爵家に対する知識も備えもなさ過ぎる。アーク侯爵家とカーン辺境伯家の関係を調べさせてもらったが、明らかに辺境伯家は着々と力削がれていた。【魔力防御膜】は奴等の十八番なのだが、その顔を見る限り、初見なのだろう?」
自慢の斧槍の刺突を完全に防がれて驚愕で両目を見開いたテオドールは続いて、槍系武技である【二連突き】、【突進】を次々に繰り出してきたが、どれも【魔力防御膜】を突破できない。それもそのはず、【魔力防御膜】を壊すには俺が知る限り、3つの方法でなければ絶対にこの守りを突破できない。
そして、俺はその方法を今後自称賢者達に狙われるだろう愛娘のアリアに子供達へ秘伝として伝える様に教えたが、どうやら自称賢者共の方が上手だったらしい。
「はあああああああっ!」
裂帛の気合いと共にテオドールが渾身の力を込めて槍系武技の奥義の1つ【流星衝】を繰り出してきた。しかし、
キィン、キィン、キィン、キィン、キィン……
その名の如く、無数の流れ星を連想させる槍撃の全てが甲高い金属音と共に【魔力防御膜】に弾かれた。当然、俺は無傷だ。
「普通の相手なら、悪くはない選択だったが、【魔力防御膜】には考え足らずで、時間切れだ。さぁ、遠慮なく盛大に吹き飛ぶがいい!」
俺は武技【流星衝】発動後の硬直で無防備になっているテオドールに向けて、【魔力弾】と【魔力炸裂弾】の弾幕は放った。
「……ッ!?」
テオドールの絶叫は弾幕の着弾・炸裂音にかき消され、彼の体は煙の中から空中高く吹き飛んだ。直後、致死ダメージ判定を受けたテオドールの体が治癒魔術の発動光に包まれてこの場から消えた。




