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第17話 翡翠竜は帝国の今の勇者対策でテオドール達からの待遇に懊悩する

「この男はベラム・キリク。先月、キリク侯爵家を継いだ当代のキリク侯爵家当主で、キリク家最大戦力の“竜殺しの勇者”だ」


朝食を摂った食堂から、話し合いのために会議室へ場所移した。テオドールは俺が【転移】で派遣した使い魔が経由で得た情報。ネリトの傍に新たに加わったワイルドなイケメンの顔が写っている写真を一瞥し、苦々し気にそう告げた。


「オーランドのジャンがマリアの婚約者に決まる前にベラム君がマリアの婚約者になると言い出したことがあるのよ」


テオドールのその様子を横目で見た困り顔のクローディアがそう言う一方で、マリアはどこか居心地が悪そうだった。


「? マリアから見て、ベラムはどんな男だ?」


俺はどうも上手く思い浮かばない当代の“勇者”であると言われているらしいベラムの人物像に考え込んだが形にならなかったので、俺は対面したことがあるマリアにベラムについて聞いてみた。


ちなみに、俺の中でこの世界の勇者は完全に二極化していて、9割9分9厘が権力者の神輿で職業“勇者”の蛮勇な連続強盗殺人者。残りの1厘が超希少な人格者で勇者と呼ぶに相応しい高潔で勇敢な人物達だ。


俺がキリク侯爵家に抱いているイメージは当然前者。俺が引き篭もる前に何度も対峙したことのある当時(・・)のキリク家を名乗っていた男は卑怯上等の卑劣漢で、不意討ち、騙し討ち、第三者に人質をとって俺達を襲うように強制するなど、正攻法で攻めてきたことは最期までなかった。


奴の末路はこれまで目的のために使い捨ててきた死者達の怨念によって、生きながら肉を削がれつつ、地獄の黒業火に全身を焼かれながら、地獄へ引きずり込まれていくという外道に相応しいものだった。


「己を省みることがない言動が粗暴で迷惑な人ですね。戦うことに関する才能は確かに優れていますが、自分本位なのでとても一緒にいたいとは思えません。それに私はお父様からこのカーン辺境伯家を継ぐつもりでいますから」


マリアは一切の曇りのない真っ直ぐな瞳で俺にそう告げた。


「うちは長女のソフィアが皇太子妃になることが決まっていて、家を継ぐ子がマリア(この子)しかいないから、キリク家との婚約話は断ったわ。マリアもベラム君とは何度か会ったことがあるけれども、なんとも思っていなかったみたいだから。それから、増長してやり過ぎたジャンとの婚約は白紙撤回ね。……なるほど、マリアには今は他に気になる男性がいるのね」


クローディアは俺を見て、次にマリアに視線を向けて思案顔の後に笑顔を浮かべた。そのクローディアの視線を受けたマリアの顔は真っ赤に染まった。


「こほんっ。キリク家のベラムの実力は間違いなく本物だ。彼は冒険者ギルドに登録していて、冒険者の間でも広く知れ渡っているが冒険者のランクは最上位のAだ。うちのオーランドとは何度もキリク家との交流模擬戦で引き分けている」


「あれは模擬戦だったからだからな。名高いキリク家の“聖剣”を持ち出されたら、俺でも奴には太刀打ちできんぞ?」


テオドールの説明に、ネリト追跡から呼び戻されてきたオーランドがため息と共に言葉を繋げた。


得物に関しては、【アイテムボックス】内に以前の冒険者時代に集めた良さ気な素材が大量に保管されているし、錬金術系スキルの1つである【錬成術】系統で俺が作ることもできる。


ただ、確かにできることはできるのだが、現時点で俺はテオドールから明確な報酬に類するものを一切もらっていない。正式な雇用関係をテオドールと結んでいないのに俺が一方的に、多くの労力を提供しているこの状況は周囲に対してもいい影響はない。


無条件で俺が助けるとテオドール達はこれから先依存するだろう。または俺を拘束して強制的に従わせようというバカなことを考える輩が出てきかねない。それに俺はこのままカーン辺境伯領に骨を埋める気は微塵もない。


しかし、力を貸さなかったら、ミシェラ達は頑張っているが、魔術知識で大きくネリト達アーク侯爵家とキリク家の後塵を拝しているテオドール達が敗北するのは明らか。やはり、がめついと言われてもストレートに報酬を請求して、これまでのことを早々に清算すべきか。


パンパンッ


「そう言えば、私を治してくれたジェイドさんへの報酬の清算がまだでしたね。

貴方、まさか報酬の話をきちんとしないでジェイドさんにお仕事を頼んでいないでしょうね?」


俺が思考の海に沈みながら懊悩していたのを察してくれたのか、クローディアが笑顔で俺の報酬の話を切り出してくれた。しかし、彼女のテオドールに向けるその目は全く笑っていなかった。


その視線に晒されているテオドールはすっかり借りてきた猫の様に萎縮してしまっている。


「クローディア様の出自はもしかして、カーン辺境伯家よりも上の、やんごとない高貴な家なのか?」


昨日、クローディアの様々な詳しい情報は状態異常を【精査(エグザミン)】したときに俺は入手しているのだが、不自然に思われない様に俺の傍に立って、お怒りモードのクローディアを目にして小刻みに震えているミシェラに小声で問いかけた。


「私は現皇帝の妹で、臣籍降下して、このカーン辺境伯家に嫁いできたのですよ。それから、公の場でなければ敬語で話さなくていいですよ、ジェイドさん」


俺の方に顔を向けたクローディアが優しく、俺にそう告げた。クローディアの視線が俺の方に向いて、テオドールは安堵したが、再びクローディアに睨まれて説教され、縮こまった。


テオドールは見事にクローディアの尻に完全に敷かれているようだ。もっとも、クローディアの様な美女の尻に敷かれるなら、男として本望であろう。


「その辺で一旦止めてくれないか? クローディアには申し訳ないが、診るだけとテオドールの頼みを安請け合いしてしまった俺も悪かった。それに結果論になるけれども、報酬の話を後回しにする必要性がある程、クローディアの容態は緊急性が高い状況だったのも事実だ。」


早々にこれまでの助力の報酬を清算してほしい俺はテオドールへの説教が終わるまで待たされる状況を回避するため、テオドールに助け舟を出した。


「俺の要望としてはカーン辺境伯家に俺の身元保証のため、一筆認めてほしい。使う機会があるかはわからないが、帝国内で上位貴族の権力の後ろ盾があるに越したことはない。魔術の研究のために俗世を離れて久しい俺は今の帝国では所属不明者でしかないからな」


実際問題として、今の俺の立場はかなり弱い。根本的な問題として、この世界の人間社会で身分を証明するものが一切ないからだ。冒険者時代に作ったギルドカードは確認しないとわからないが、手持ちのものは100年以上前のだから無効になっている可能性が高い。だから、登録をしなおすつもりだ。


昨日、テオドールとクローディアを2人きりにしているときに、雑談がてら、マリア達に確認したが、各種ギルドに所属することが、ハードルがあまり高くなく、その中でも、冒険者ギルドは比較的入り易いギルドらしい。手段は複数用意した方が対応の幅が広がるのは自明。


だから、俺はカーン辺境伯家と冒険者ギルドという2つの後ろ盾を確保して、ユグドラと合流し、ゆっくりと冒険者生活を満喫するつもりだ。



※※※


話し合い後、クローディアを治した報酬として、俺の要望であるカーン辺境伯家が俺の後ろ盾になった旨の文書がテオドールとクローディアの連名で4つ作成された。1つは当然俺が保有しておくためのもので、2つめと3つめはテオドールとクローディアがそれぞれ保有しておく分で、最後の1つは帝国の中枢、現皇帝へ提出する分。


その他、マリアを助けた等の報酬は類似の前例を下に帝国の通貨で支払われることになった。現在の物価を知らないが、ミシェラ達の反応から結構な額なのはわかったから、一挙に小金持ちである。


そして、俺の処遇はカーン辺境伯家の食客・客将扱いで、主な仕事は俺の持っている魔術知識の講義と魔導具や薬品の作成となった。雇用期間は3ヶ月。これは対ネリト・アークを想定しての期間で、状況によって延長ありうる。俺が知らない間にカーン辺境伯家が詰んだという寝覚めが悪い状況は避けたい。


話し合いが終わった後、ユグドラに確認したが、彼女の状況が悪化する要素は現状なく、こちらの厄介ごとをきちんと片付けてから迎えに来て欲しい返事があった。



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