第14話 翡翠竜はワンオペ魔術調理で確実に辺境伯親子の胃袋を掴んだ
俺は若手騎士見習い達と同じく、徒歩でテオドール達の居城へ向かって進んでいる。道中、【探知】に反応があった薬草類を採取しながらの移動だが、騎乗しているテオドール達と俺が貸している馬車に乗っているマリア達に遅れることなく進んでいる。
砦から城までは早馬を飛ばしてぎりぎり半日、通常の馬車の速度でも夜を越さなければならないらしい。俺の貸している馬車はライト付きで、夜間も安全に走行できる特製馬車だが、ここではテオドール達のペースに合わせて、1晩の野営を挟むことになった。
当初、昨夜使ったコテージ型魔導具に教官のロイと騎士見習い達は泊まらずにテントなしの野営をする予定ではあった。しかし、騎士見習い達の大半が訓練の一環として走って帰る、長距離走の最中に体力切れで完全に動けなくなり、テントでの野営訓練は中止となった。
教官のロイも乗ってきた馬に騎乗しないで、見習い達と一緒に走っていたのに体力切れは全く起こしていないどころか、十分余裕があるのが一目瞭然だった。
それもそのはず、ロイは【無詠唱】で頻繁に【回復魔術】を自身にかけながら走っていた。
この世界で魔術は魔術士系職でなければ使えないという制約はない。魔術は適性で使用の可不可があるスキルの1つという扱いになっている。もっとも、賢者達と一部の権威に固執している魔術士達は人類の発展を声高に叫んでいる癖に、自分達の派閥内でしか知識や研究成果を共有していなかった。ミシェラ達の様子を視た限り、おそらく今も当時と大差はなく秘匿しているのだろう。
ロイの魔力量も俺が知る魔術が使える剣士達のなかでも中の上に位置している。騎士見習い達の中には【回復魔術】が使えるのに、使わずに脱落している者がいることから、おそらく、ロイは敢えて口で教えないで、見習い達が自身に【回復魔術】をかけて走ることに気付かせたい様だった。
体力切れで脱落した見習い騎士達はそのまま放置していくと魔物の餌になるのは確実なので、マリアが乗っている馬車に牽引される台車に乗せられて運ばれていた。
先行したオーランドの息子ジャンは最初に脱落して、台車に乗せられていた。大人しくするか、回復したならば復帰すればいいものを、ジャンは自分が最初に脱落したのに台車に乗ったままで、懸命に走っている者達を煽る発言を繰り返した。そのため、怒ったロイとテオドールによって、台車から降ろされて、再び走らされた。当然すぐに体力切れを起こし、また動けなくなって、今度は雑に台車へと乗せられていた。
その日の野営予定ポイントに見習い達は無事ではないが、俺達は無事に到着した後、早々にコテージ型魔導具を展開して、俺は夕食の用意を開始した。
台車に乗せられてきて食欲がない連中には【アイテムボックス】内に作り置きしていたコンソメスープを出した。食欲に問題がない面子はそれほど多くなく、作る量も許容範囲だったので、久しぶりに俺は冒険者時代に繰り返し魔術を使って作っていた料理のワンオペ調理を行った。
パスタを茹でつつ、たまねぎを速攻でみじん切りにして、飴色になるまで火を通してから、残っていたボア肉を【浄化】を使った素手でミンチにして混ぜ、【アイテムボックス】に作り置きしていたブイヨン、トマトソースを加える。道中で拾ったバジルをきれいに洗って切って入れ、【時間魔術】の【時間加速】で、時短煮込み。【時間加速】の調整と魔術解除のタイミングは数えるのも馬鹿らしい程繰り返し調整して作ったことで、体が完全に覚えている。だから、失敗して材料を焦がしてしまう様なことはない。そして、スパゲティミートソースが完成した。パスタは太麺で食べ応えは十分だ。
おっと、調味料のタバスコと粉チーズ。トッピングのミートボールを忘れてはいかんな。
ちなみに、たまねぎをみじん切りにするときに鼻に詰め物していると涙が出ないで作業に集中できる。もっとも、俺は詰め物しなくても竜族の高い耐性効果で、大量のたまねぎをみじん切りしても涙が出ることはない。
「美味しい……お母様と帝都にいるお姉様にも食べてもらいたいわ」
「そうだな。トマトソースのソースに肉の旨味が合わさり、玉ねぎの歯ごたえがアクセントになって、実に美味い」
カーン辺境伯親子は、微笑ましい様子で、仲良く、ミートソースで口の周りを赤く染めながら、ご満悦の表情だ。大盛を用意していたのに2人の皿の残量は既に残り僅かになっている。おかわりされるのを想定して作っていたから量の問題はない。
俺は冒険者時代に、スパゲティミートソースのレシピを広く放出していたのだが、どうも俺を除いて、この場にいる全員にとっては初めて見る料理らしい。また賢者達の嫌がらせの影響か……。
「まさか、【時間魔術】も使えて、あんな風に料理に使うなんて……ッ! あっ、美味しい……」
女魔術師であるミシェラには俺のワンオペ魔術調理が衝撃的だったのか、虚ろな表情で、ブツブツ小声で呟いていて、しばらく端から見ていてヤバイ状態だった。しかし、スパゲティ(ミートソース)の皿とフォークを目の前に置いたら、突然カッと両目を見開いてすぐにフォークを使ってソースを絡めたパスタを口に運んで頬を綻ばせて料理に集中し始めた。
俺の料理関係のスキルのレベルが上限まで到達したのはある意味、パーティーメンバーで料理する人がいなかったから必然だった。巨氷狼のフェンは最初から除外するとしても、ルシアも生まれは実は高貴な家柄の御令嬢で、料理を作ってもらう側だから当然料理の経験なし。もう1人の女性メンバー――名前をど忘れしていて思い出せない――も食べるのが専門で、野営のときに、2人に料理を任せると、食材が完全な炭化物質になるか、未知の危険物体Xが誕生するレベルだった。他方、竜族であるルベウスは俺の調理を見て覚えるという天才性を発揮するが、1回だけ食事当番を担当して「面倒だ」と言って、それっきりで当番は俺に丸投げした。
俺の目の前には特盛のスパゲティミートソースとトッピングのミートボールが山盛り。このミートボールの山盛りはスパゲッティミートソースにしたときには必ずトッピングのミートボールが大好きだったフェンのためにミートボールを作ってあげていたときの癖が出てしまって、気付いたときにはいないフェンの分までミートボールを作ってしまっていた。思い出に浸りつつ、空腹だった俺はよく噛んで味をかみしめて完食していた。
しばらくして、見習い達の面倒を見ていたロイ、ファーナ、スキアの3人が仕事を終えて入室してきた。3人共やはりコンソメスープだけでは足りなかったのが分かる様子だったので、俺はテオドールに確認してから、3人にも大盛を提供した。
ロイはこっちがひくレベルで大袈裟に感涙し、ファーナとスキアもご満悦の様子で夜は何事もなく更けて行った。




