カーン辺境伯領城を目指す道中と俺のワンオペ調理の件
俺は若手騎士見習い達と同じく、徒歩でテオドール達の居城へ向かって進んでいる。
道中、【探知】に反応があった薬草類を採取しながらの移動だが、騎乗しているテオドール達と俺が貸している馬型ゴーレムが引く箱馬車に乗っているマリア達に遅れることなく進んでいる。
砦から城までは早馬を飛ばしてぎりぎり半日、通常の馬車の速度でも、一夜を越さなければならないらしい……いろいろとひっかかるものがあるが、俺はそれを頭の隅へ追いやった。
俺の貸している馬車はライト付きで、夜間も安全に走行できる特製馬車だが、ここではテオドール達のペースに合わせて、一晩の野営を挟むことにした。
当初、昨夜使ったコテージ型魔導具に教官のロイと徒歩組みの騎士見習い達は泊まらずに、テントなしの野営の経験をする予定だった。
しかし、騎士見習い達の大半が訓練の一環として走って帰る、この長距離走の最中に体力切れで完全に動けなくなり、予定されていた野営訓練は中止となった。
教官のロイも乗ってきた馬に騎乗しないで、見習い達と一緒に走っていた。
だが、彼は体力切れを全く起こしていないどころか、見習い達と比べて、十分余裕があるのが一目瞭然だった。それもそのはず、教官のロイは【無詠唱】で、時々【回復魔術】を自身にかけながら走っていた。
この世界で、魔術は魔術士系職でなければ使えないという制約はない。
魔術は適性で使用時の効果に差が出る【スキル】の一つという扱いになっている。
もっとも、賢者達と一部の権威に固執している魔術士達は人類の発展を声高に叫んでいる癖に、自分達の派閥内でしか知り得た知識や研究成果を共有していなかった。
ミシェラ達の様子を視た限り、おそらく今も当時と大差はなく身内で秘匿し合っているのだろう。
ロイの魔力量も俺が知る魔術が使える剣士達のなかでも中の上に位置している。
騎士見習い達の中には【回復魔術】を使えるのに、使わずに脱落している者が少なくないことから、おそらくロイは敢えて、口頭で教えないで、見習い達が自身に【回復魔術】をかけて走ることに気付かせたい様だった。
体力切れで倒れて脱落した見習い騎士はそのまま放置していくと、確実に魔物の餌になるので、ロイが担ぎあげて、マリアが乗っている箱馬車に牽引される台車に乗せられて運ばれている。
先行したオーランドの息子ジャンは最初に脱落して、台車に乗せられていた。
大人しくしているか、体力が十分回復したならばロイが取り決めた様に走り込みに復帰すればいいものを、ジャンは自分が真っ先に脱落して台車の上を動き回れる程十分に回復したにも関わらず、ロイの取り決めを破り、台車に乗ったままで、懸命に走っている者達を煽る発言と行為を繰り返した。
ジャンのその愚行に気付き、怒り心頭となったロイとテオドールによって、ジャンは台車から引きずり降ろされて、再び走らされた。
当然、すぐに体力切れを起こし、また動けなくなったが、罰として台車に乗ることは許されず、ミシェラの抵抗に失敗した対象の身体を意のままに操る【操身術】によって、強制的に走らされることになった。
その日の野営予定ポイントに、騎士見習い達は無事ではないが、俺達は無事に到着した後、早々にコテージ型魔導具を展開して、俺は夕食の用意を開始した。
台車に乗せられてきて食欲がない連中のために俺は『アイテムボックス』内に作り置きしていたコンソメスープを出した。
食欲に問題がない面子はそれほど多くなく、作る量も許容範囲だったので、久しぶりに俺は冒険者時代に繰り返し魔術を使って作っていた料理のワンオペ調理を行った。
パスタを茹でつつ、たまねぎを速攻でみじん切りにして、飴色になるまで火を通してから、残っていたボア肉を【浄化】を使った素手でミンチにして混ぜ、『アイテムボックス』に墓守時代に作り溜めしていたブイヨン、トマトソースを加える。
道中で拾ったバジルをきれいに洗って切って入れ、【時間魔術】の【時間加速】で、時短煮込み。【時間加速】の調整と魔術解除のタイミングは、数えるのも馬鹿らしい程繰り返し調整して作ったことで、体が完全に覚えている。
だから、失敗して大事な材料を焦がしてしまう様なことはない。
そして、スパゲティミートソースが完成した。
パスタは太麺で食べ応えは十分だ。
おっと、調味料のタバスコと粉チーズ、ブラックペッパー、トッピングのミートボールを忘れてはいかんな。
余談だが、たまねぎをみじん切りにするときに鼻に詰め物していると涙が出ないで作業に集中できる。
もっとも、俺は詰め物しなくても竜族のもつ高い耐性で、大量のたまねぎをみじん切りしても涙が出ることはない。
「美味しい……お母様と帝都にいるお姉様にも食べてもらいたいわ」
「そうだな。トマトソースのトマトの酸味の美味さに肉の旨味が合わさり、玉ねぎの歯ごたえがアクセントになって、実に美味い」
カーン辺境伯親子は微笑ましい様子で、仲良く、ミートソースで口の周りを赤く染めながら、ご満悦の表情だ。
大盛を用意していたのに2人の皿の残量は既に残り僅かになっている。
もっとも、おかわりされるのを想定してたくさん作っていたから量の問題はない。
俺は冒険者時代に、再現に成功したスパゲティミートソースのレシピを広く放出していたのだが、どうも俺を除いて、この場にいる全員にとっては初めて見る料理らしい。
また賢者達の嫌がらせの影響か……。
「まさか、【時間魔術】も使えて、あんな風に料理に使うなんて……ッ! あっ、美味しい……」
女性魔術師であるミシェラには俺のワンオペ魔術調理が衝撃的だったのか、虚ろな表情で、ブツブツ小声で呟いていて、しばらく端から見ていてヤバイ状態だった。
しかし、スパゲティの皿とフォークを目の前に置いたら、突然カッと両目を見開いて、すぐにフォークを使ってソースを絡めたパスタを口に運んで頬を綻ばせて料理に集中し始めた。
俺の料理関係のスキルのレベルが上限まで到達したのはある意味、パーティーメンバーで料理する人がいなかったから必然だった。
巨氷狼のフェンは最初から除外するとしても、ルシアも生まれは実は、高貴なお家柄の御令嬢で、料理を作ってもらう側だったから当然料理の経験ない。
もう一人の女性メンバー、名前をど忘れしていて思い出せない、も食べるのが専門で、野営のときに、女性メンバー二人に料理を任せると、食材が完全な炭化物質になるか、未知の危険物体Ⅹが誕生するレベルだった。
他方、竜族であるルベウスは俺の調理を見て覚えるという天才性を発揮するが、一回だけ食事当番を担当して「面倒だ」と言って、それっきり、当番を俺に丸投げした。
俺の目の前には特盛のスパゲティミートソースとトッピングのミートボールが山盛り。
このミートボールの山盛りは、スパゲッティミートソースにしたときには必ずトッピングのミートボールが大好きだったフェンのためにミートボールを作ってあげていたときの習慣が出てしまって、気が付いたときにはいないフェンの分までミートボールを作ってしまっていた。
当時の思い出に浸りつつ、空腹だった俺はよく噛んで味をかみしめて夕食を完食した。
夕食後、しばらくしてから、見習い達の面倒を見ていた教官のロイ、弓兵のファーナ、もう一人の女性魔術師であるスキアの三人が仕事を終えて入室してきた。
三人共やはりコンソメスープだけでは足りなかったのが一目で分かる様子だったので、俺はテオドールに確認してから、三人にもマリア達に振舞った大盛のスパゲティミートソースを提供した。
教官のロイはこっちがひくレベルでミートソースに大袈裟に感涙し、ファーナとスキアもご満悦の様子で、一夜は何事もなく更けて行った。




