部屋で休むテオドール達の会議の件
「さて、いろいろと確認しようか」
私はジェイド殿の用意してくれたゲストルームで集めた5人と共に今回のことについて話し合うことにした。
娘のマリア、私の幼馴染にして我がカーン辺境騎士団団長のオーランド、元冒険者で新米若手騎士達の教官を任せているロイ、帝都にいる王太子妃になることが内定しているもう1人の娘であるソフィアの伝手で働いてもらっている魔術師のミシェラ、同じく弓の名手であるファーナ。
もう1人の魔術師であるスキアは問題児達の監視役を任せているので、この場にはいない。だが、ミシェラと後で情報を共有する様に予め伝えている。
全員がテーブルを挟んで各々着席し、表情を引き締めた。
「まず、ジェイド殿のことだが、彼はひとまずマリアの恩人ということで賓客として扱うことにした訳だが、今後彼への対応はどうすべきだと思う?」
「……少なくとも敵対することは避けた方がいいのは間違いないな。
俺の剣を指二本で受け止めた化け物だぞ? テオ……閣下が彼を止めてくれなかったら、俺は確実にこの場にいなかったのは間違いない」
息子のジャンが殺されたと勘違いして、ジェイド殿に斬りかかり、見事に一蹴され、トドメを刺されかけたオーランドが重々しくそう告げた。
「その意見には大賛成だ。情けないヒヨっ子共から絞り出した話では、魔術を使わずに、魔導具1つで脅威度が跳ね上がったフォレストウルフ40匹の群れを誘導して、殲滅したらしい。そんな威力を出す魔導具の使い手が味方であれば心強いけれども、敵であれば脅威でしかない」
ロイもオーランドの意見に同調した。
「閣下、発言してもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。それから、この場では挙手して発言の許可を求めなくていいからね」
ミシェラが帝国の身分制に従って挙手して許可を求めたので、私は許可するとともにこの場では公の場ではないので、挙手は不要である旨を伝えた。
「ありがとうございます。もし、ジェイド様が、私が考えている通りの存在でしたら、絶対に敵対してはいけません。なんとしても、味方になってもらうべきです‼」
「あたしもミシェラの意見には賛成です。この家型の魔導具といい、帝都のいけ好かない宮廷魔術師達よりも絶対、魔術の腕もいいと思うけど、どうかしたの、ミシェラ? 普段冷静な貴女にしては珍しく熱心にジェイド殿のことを推すじゃない?」
普段沈着冷静なミシェラらしからぬ熱弁に、ファーナがこの場にいる皆の気持ちを代弁してくれた。
「……失礼しました。説明いたします。今は人の姿をとられていらっしゃいますが、おそらくジェイド様は私達よりも遥かに長い時を生きている竜族のお方だと推察されます。ここにいるみなさんも聞いたことがあると思います。帝国がまだ小さな王国だった時代に、双子の王子を仲間達と共に助け導いた翡翠と紅玉の双竜の昔話を……」
落ち着きを取り戻したミシェラがそう言った。
「ミシェラ、彼がその翡翠竜であるという証拠はあるのかい?」
ミシェラが憶測や証拠もなくそういうことを言う人物ではないことを私は十分理解している。私も、もしやという思いがあるだけに、ミシェラの主張の根拠が知りたかった。
「もちろんございます。まず、ジェイド様が作ったこの家型魔導具に始まり、厨房にあった調理魔導具、記憶映像を映写していた魔導具ですが、私はもとより、帝都にいる宮廷魔術師筆頭でも、同じ材料・素材を用意されても、製作にかかる魔力が足りなくて製作できません」
ミシェラのこの主張は頷ける。
我が居城と城下街も、数年をまたいだ長い計画ではあるが、ミシェラ達がやってくるのに併せて、トイレを汲み取り式から水洗に切り替えたとき物凄く大変なことだったから、如何にこの家のトイレが異常なのは理解できる。特にウォシュレットは是非、居城のトイレにも付けてほしい。
「次に、かの翡翠竜様は賢者を名乗る痴れ者達の蛮行に激怒して、仲間の冒険者ルベウス様と共に壊滅させたという逸話が、先ほど視聴した映像付きのお話と一致しています。あの映像に出ていた赤毛の冒険者がルベウス様だったのも確認しました」
この逸話との一致は私も気づいたが、記憶映像の中の赤毛の冒険者がかの紅玉竜ルベウスだったという点は見逃し、聞き逃していた。
「最後にジェイド様が自身を“大魔導師”と名乗ったことです。彼の翡翠竜様も賢者と呼称されるのを極度に嫌い、『大魔導師』と名乗り、双子の王子を仲間と共に救っていました。また、翡翠竜様の存在を確認できる最後の記録では大森林の奥地にその姿を消したとものが残っていました」
この点も私はミシェラと同意見だ。
ジェイド殿の記憶映像の中でも助けた人々達から賢者と呼ばれているところがあったが、ジェイド殿はそれを頑なに否定していた。
それに今となっては伝説に近い話だが、「大魔導師」と名乗っていいのは彼の翡翠竜と彼が認めた後継者のみと、「自称」大魔導師達が騒動を起こして翡翠竜に折檻された際にそう明言された記録が残っている。
また、当家、カーン辺境伯家はシヴァ帝国、その前身のルドラ王国の時代から翡翠竜と繋がりが強い貴族家であることは歴代当主にのみ語り継がれている。
「では、城に戻ったら、ジェイド様にお母様の容態を診てもらいましょう」
それまで黙って静聴していたマリアがそう意見を述べると、私を含め、この場にいた全員が頷いて同意した。
城で寝込んでいる我が最愛の妻クローディアは原因不明の病で長い間床に臥せている。
帝都の学園に通って中央との繋がりを拡げているもう一人の愛娘、ソフィアの伝手を頼って、治療のために帝都の宮廷魔術師を頼んだが、やって来たのは当家と因縁浅からぬアーク侯爵家の次期当主の賢者とその配下の魔術師達だった。
彼等による治療は一定の効果を見せたが、完治には程遠く、現存する彼等が知る魔術ではその見込みすらないらしい。
マリアが危険な大森林へ探索に出たのは、その妻の病を治す薬草があるとその賢者に言われたからだった。
「それから、ジェイド殿に無礼を働いたジャンの処分だが、マリアの婚約者とするのは現時点では、当分見合わせる。あの増長した態度を今後改めない限り、見合わせから、関係を白紙に戻す。残念なことだが……いいな? オーランド?」
「……ええ、あいつが大いに反省して、本当にマリア様を任せるに足る見込みのある男になりましたら、その時に改めてマリア様の婚約者としてお願いします。
今のあいつではマリア様にふさわしい男とは親の贔屓目で見たとしても、とても言えません」
ジャンはマリアの婚約者にするという話があってから、真面目だったという周囲の評価はそれまでとは一転して、カーン辺境伯家で自身よりも実力も上である先輩騎士達に対して横柄な態度をとる様になって増長していった。
マリアに対する態度の報告から見るに、おそらく今の増長した姿が本性だったのだろう。今回の処分がいい薬となって、態度を改めてくれればいいのだが……。
「俺と妻のこれまであいつにやってきた説教も全く効いてなかったみたいですね。
ロイさん、お手数をおかけしますが、存分に、ねじ曲がってしまったあいつの性根を叩き直してやってください」
「おう、任せとけ!」
自分の息子を思ってか、表情を曇らせた私の幼馴染は『活かさず、殺さず絶妙な訓練を課してきて、心身を追い詰めてくる』と騎士達に恐れられているロイに頭を下げてジャンの再教育をお願いしていた。
対するロイは『泣く子が更に大泣きする』と冒険者時代から言われ続けているその強面で、獰猛な笑みを浮かべてオーランドの依頼に快諾していた。
ジャン、強く生きろ! そして、元の真っ直ぐな性格に早く戻るのだ‼ 手遅れになっても知らんぞ⁉
「普段よりもやけに言葉が少ないね、マリア。そんなにジェイド殿が気になるのかい?」
「ッ⁉ 気になると言えば、たしかにそうなのですが、あのお方を見て、初めての気持ちなので、なんと表現したらいいか……わかりません」
私の指摘に、可愛い顔をマリアは真っ赤にして、そう言ってきた。そんな様子のマリアをミシェラとファーナは微笑ましく見守っている。
今は性格が悪い方向に屈折してしまったが、その小さい頃を知っているだけに、私はマリアの元婚約者であったジャンに少なからず同情せざるを得なかった。
そして、ジェイド殿とはマリアのことで、一度きちんとした対談の場をつくらなければいけない。そう思った私は愛娘の一人であるマリアの成長を嬉しく思いながらも、とても複雑な気分だった。




